- はじめに
- 製造業でオープンイノベーションが求められる背景
- 製造業×スタートアップ協業の代表的な成功パターン
- ILSにおけるオープンイノベーション成功事例
- 事例① 技術継承×AI——ダイキアクシス×LIGHTz(資本業務提携)
- 事例② 素材技術×IoT——三井化学×Z-Works(資本業務提携・製品化)
- 事例③ 植物油×バイオマス——横河ソリューションサービス×ファイトケミカルプロダクツ(共同開発)
- 事例④ ロボット×素材——タイガースポリマー×KiQ Robotics(共同研究開発)
- 事例⑤ AI×製造業ナレッジ——ライオン×LIGHTz(共同開発)
- 事例⑥ 繊維×センサー——アナログ・デバイセズ×エーアイシルク(共同開発)
- 事例⑦ 再エネ×データ——三井化学×デジタルグリッド(資本業務提携)
- 事例⑧ 非侵襲診断×光技術——古河電気工業×アトナープ(共同開発)
- 事例⑨ 商船×気象×ゼロエミッション——商船三井×メトロウェザー(資本業務提携)
- 事例⑩ 物流DX×食品製造——明治×エニキャリ(業務提携)
- 成功事例に共通する5つの要因
- 製造業が協業で失敗する典型パターン
- オープンイノベーションを成功させる進め方【実務フレーム】
- ILSを活用した協業創出のメリット
- まとめ|製造業の成長は「外部連携」で決まる
はじめに
・スタートアップとの連携を検討しているが、何から始めればよいかわからない。
・展示会に足を運んでも、名刺交換で終わってしまう。
そんな悩みを抱える大手製造業の担当者は多い。
技術革新のスピードが加速し、単独での研究開発では限界を感じている企業が増えている。少子高齢化による技術者不足、カーボンニュートラルへの対応、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速。これらの課題を乗り越えるカギとして、製造業の現場で「オープンイノベーション」が本格的に動き始めている。
本記事では、大手×スタートアップの協業を数多く生み出してきたILS(Innovation Leaders Summit)の実績をもとに、製造業におけるオープンイノベーションの成功事例と、協業を成果につなげるための実践ポイントを紹介する。
製造業でオープンイノベーションが求められる背景
技術開発の高度化と内製限界
IoT・AI・バイオテクノロジー・先端素材など、製品開発に必要な技術領域は広がり続けている。一方で、自社の研究開発リソースは有限だ。あらゆる技術を自前で開発しようとすれば、スピードでも深さでも競合に後れを取るリスクがある。
外部の専門技術を持つスタートアップと組むことで、自社が持てない技術を素早く取り込み、製品・サービスの競争力を高める発想が製造業に広がっている。
スタートアップ連携の戦略的重要性
かつては「技術はすべて内製」という発想が製造業の主流だった。しかし今、「外部の優れた技術・アイデアを積極的に取り込む」オープンイノベーション戦略へのシフトが、グローバルで加速している。さらに、国内でも経済産業省がオープンイノベーション促進を政策として掲げ、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の設立や大学・スタートアップとの連携が活発になっている。
既存事業の延長では成長が難しい理由
製品ライフサイクルの短縮化が進む今、既存事業の改善・改良だけでは成長の天井が見えてくる。まったく新しい市場や顧客層を開拓するためには、自社が持っていない発想・技術・ビジネスモデルを外部から取り込む必要がある。スタートアップはまさに、その「非連続的な成長の種」を持っている存在だ。

製造業×スタートアップ協業の代表的な成功パターン
製造業とスタートアップの協業には、大きく4つのパターンがある。自社の課題や目的に照らし合わせることで、どのアプローチが最適かを考える参考にしてほしい。
新規事業創出型(新市場開拓)
自社の既存技術・顧客基盤を活用しながら、スタートアップのユニークなサービスや技術を組み合わせ、まったく新しい市場を開拓するパターン。
技術補完型(既存技術×外部技術)
自社が持つ優れた素材・部品・製造技術と、スタートアップが持つソフトウェア・センサー・AI技術を掛け合わせ、製品の付加価値を高めるパターン。
DX推進型(IoT・AI導入)
ベテラン技術者の暗黙知のデジタル化、製造ラインの自動化・効率化、品質管理のAI活用など、社内のDXをスタートアップの技術で加速するパターン。
サステナビリティ対応型
カーボンニュートラル・廃棄物削減・再生可能エネルギーなど、ESGへの対応をスタートアップとの協業で進めるパターン。規制対応と新事業創出を同時に実現できる可能性がある。
ILSにおけるオープンイノベーション成功事例
ILSのパワーマッチングを通じて実際に協業が成立した事例の中から、製造業に関連する代表例を「課題 → 協業内容 → 成果」の構造で紹介する。
事例① 技術継承×AI——ダイキアクシス×LIGHTz(資本業務提携)
課題: 水処理事業において、熟達者の暗黙知が次世代に伝わらないという深刻な技術継承問題を抱えていた。
協業内容: 2023年12月のILS2023での交流会をきっかけに関係が深まり、子会社のCVCを通じてAI開発スタートアップのLIGHTzへの出資を決定。2024年3月に資本業務提携を締結。LIGHTz独自のパーソナルAI化技術を活用して、熟達者の技術・知見を形式知としてデジタル化するプロジェクトを推進している。
成果: 属人的だったベテランの知識がAIによって可視化・体系化され、次世代エンジニアへのスムーズな技術継承が実現しつつある。
ILS提携事例(ダイキアクシス):CVCからの出資とともに、主幹事業における熟達者の暗黙知をパーソナルAIで形式知化。次世代への技術継承を推進
事例② 素材技術×IoT——三井化学×Z-Works(資本業務提携・製品化)
課題: 三井化学が開発したフレキシブルな極細同軸線構造の張力センシング基材「PIEZOLA®」の用途開発と事業化を模索していた。
協業内容: 介護支援システム「LiveConnect®」を開発するZ-Worksと連携。三井化学の素材をバイタルセンサーとして組み込み、介護施設での実証試験を経て製品化に成功。Z-Worksへの資金調達支援も実施。
成果: 2020年10月から介護施設等での本格展開を開始。素材企業が「製品・サービス」まで価値を伸ばした先進事例となった。
ILS提携事例(三井化学):バイタルセンシング材料を用いた介護支援システムの開発
事例③ 植物油×バイオマス——横河ソリューションサービス×ファイトケミカルプロダクツ(共同開発)
課題: 植物油の製造過程で発生する副産物として廃棄されてきたバイオマス資源を有効活用する技術が存在しなかった。
協業内容: 2023年7月、機能性成分やバイオ燃料の主成分を副産物から抽出する製造技術の確立に向けた共同開発契約を締結。仙台市のベンチプラント(試験用工場)で実証実験を進めている。
成果: 廃棄物だったバイオマス資源の活用技術確立に向けて着実に前進。サステナビリティと新素材開発を同時に実現する取り組みとして注目を集めている。
ILS提携事例(横河ソリューションサービス):植物油製造過程で廃棄されていた未利用バイオマス資源の有効活用にむけた共同開発を開始
事例④ ロボット×素材——タイガースポリマー×KiQ Robotics(共同研究開発)
課題: 製造ラインの自動化ニーズが高まる中、ロボットの動作精度を左右するエンドエフェクタ(ロボットハンド)に装着する柔軟な部品の開発が課題だった。
協業内容: KiQ Roboticsが手がける作業自動化ロボットパッケージ「Quick Factory」用のエンドエフェクタ部品について、タイガースポリマーの素材技術を活用した共同研究開発を開始。柔軟グリッパおよびエンドエフェクタ素材の2種類を並行開発。
成果: ゴム・プラスチック素材の専門技術を持つタイガースポリマーの強みと、ロボット制御の知見が組み合わさり、製造現場の自動化を加速させる部品開発が進んでいる。
ILS提携事例(タイガースポリマー):作業を自動化できるロボットのエンドエフェクタ部品の共同研究開発
事例⑤ AI×製造業ナレッジ——ライオン×LIGHTz(共同開発)
課題: 歯磨き粉の香料開発において、500種類以上の香料原料に対するベテラン研究者の感覚的・経験的な知見(暗黙知)を開発プロセスに体系的に活用できていなかった。
協業内容: LIGHTzのAI技術を使い、熟達フレーバリストの知見をデジタルデータとして学習。AIによる調香予測・官能評価を可能にするシステムを共同構築。2020年7月に試験運用を開始し、2021年に本格運用へ移行。
成果: 従来の香料開発期間を約半減させることに成功。ベテランの引退後も開発品質を維持できる仕組みが整い、製品競争力の底上げにつながった。
ILS提携事例(ライオン):歯磨き粉の香り開発における人工知能の活用で協働
事例⑥ 繊維×センサー——アナログ・デバイセズ×エーアイシルク(共同開発)
課題: 高機能な導電性繊維「LEAD SKIN®」を使ったセンサー製品の実用化にあたり、精度の高いアナログ計測技術との組み合わせが必要だった。
協業内容: アナログ・デバイセズのインピーダンス測定用アナログ・フロントエンド「AD5940」を採用し、繊維センサーソリューションとして2022年2月に正式リリース。
成果: 繊維技術と半導体計測技術の融合により、ウェアラブルヘルスケアや産業用途に応用できる高機能センサー製品が誕生した。
ILS提携事例(アナログ・デバイセズ):高機能な導電性繊維センサーソリューションの共同開発
事例⑦ 再エネ×データ——三井化学×デジタルグリッド(資本業務提携)
課題: 三井化学が取り組む太陽光発電の診断・予測サービスを、より多くの需要家・発電事業者にリーチさせる流通手段が必要だった。
協業内容: 発電事業者と需要家間の直接電力取引プラットフォームを運営するデジタルグリッドに2021年12月出資。三井化学の診断・予測ノウハウとデジタルグリッドのプラットフォームを連携させ、再生可能エネルギー普及を共同で推進。
成果: ハードウェア・素材メーカーがデジタルプラットフォームと組むことで、脱炭素分野での新たなビジネスモデルを確立した先駆的な事例となっている。
ILS提携事例(三井化学):再エネ導入の推進にむけ資本業務提携
事例⑧ 非侵襲診断×光技術——古河電気工業×アトナープ(共同開発)
課題: 採血なしで体内状態を測定できる非侵襲医療診断装置の実用化には、高精度かつ小型・低コストな光学モジュールが必要だった。
協業内容: 2021年5月に共同開発契約を締結。古河電気工業がフォトニクス技術を提供し、アトナープの測定プラットフォーム「ATON-360」に光学モジュールを供給。高精度化・小型化・低コスト化を共同で推進している。
成果: 製造業が持つ素材・光学技術がヘルスケア分野のスタートアップと結びつき、医療診断機器の普及という大きなインパクトを生む可能性を秘めた協業が進んでいる。
ILS提携事例(古河電気工業):非侵襲医療診断装置の共同開発
事例⑨ 商船×気象×ゼロエミッション——商船三井×メトロウェザー(資本業務提携)
課題: ゼロエミッション船の実証実験において、海上での正確な風況データがなく、風力と水素を組み合わせた推進システムの開発・検証が困難だった。
協業内容: 商船三井のCVC「MOL PLUS」が、京大発スタートアップで風況観測・予測ソリューションを提供するメトロウェザーへ2022年4月に出資。海上の風況実測に関する共同研究を推進。
成果: 大型船のカーボンニュートラル化という壮大な目標に向けて、リアルタイムの気象データとエンジニアリング技術が融合した新しい研究開発体制が動き出している。
ILS提携事例(商船三井):風況観測・予測ソリューション開発で資本業務提携、ゼロエミッション事業を推進
事例⑩ 物流DX×食品製造——明治×エニキャリ(業務提携)
課題: 明治が推進する新規事業「できたて乳製品」において、少量生産・随時配送という既存の物流インフラでは難しいバリューチェーンの構築が最大の課題だった。
協業内容: 2023年12月のILS2023のマッチングで、フィジカルインターネットプラットフォームによる物流DXサービスを提供するエニキャリと連携。新事業の「最後のピース」である届ける仕組みを共同で構築している。
成果: 大手食品メーカーの新規事業開発とスタートアップの物流技術が結びつき、従来の食品流通の常識を覆す可能性を秘めたビジネスモデルが立ち上がっている。
ILS提携事例(明治):できたて乳製品の「少量生産・随時配送」のバリューチェーン構築を提携で実現
成功事例に共通する5つの要因
ILSで協業を成果につなげた企業の共通点を分析すると、5つの要因が浮かび上がる。
まず第一に、 明確な課題設定とKPI設計だ。「スタートアップと組みたい」ではなく、「この技術課題を解決するために外部連携を使う」という課題起点の姿勢が成果につながっている。なぜなら、 解決すべき問いが明確であるほど、マッチングの精度は上がるからだ。
第二に、 PoC止まりを防ぐ意思決定プロセスである。多くの企業が「PoCはしたが、その先に進まない」という問題に陥りがちだ。しかし、 成功企業は検証開始前から「PoCで何を証明したら次のフェーズに移るか」という基準をあらかじめ設定している。
第三に、 組織横断の推進体制が欠かせない。新規事業部門だけが動いていても、既存事業部門の巻き込みができなければ協業は形骸化する。実際に、 成功事例の多くに、経営層のコミットと複数部門の参画という共通点がある。
第四に、 スタートアップとの適切な関係構築だ。大企業とスタートアップは、意思決定のスピード・リソース・文化が大きく異なる。それゆえ、「発注者」ではなく「対等なパートナー」として関係を築くことが、長期的な協業の成否を左右する。
そして第五に、 スピード重視の開発・検証体制である。スタートアップの強みは速さと柔軟性だ。もし 大企業側が意思決定を遅らせると、スタートアップのモチベーションが下がり、協業が停滞しかねない。だからこそ、 社内の承認プロセスを事前に整備しておくことが重要なのだ。
製造業が協業で失敗する典型パターン
成功事例から学ぶと同時に、失敗のパターンも押さえておきたい。
社内意思決定の遅延: 検討が長期化する間にスタートアップが他社との協業を選択、または資金難に陥るケース。
PoC止まり問題: 実証実験は成功したが、事業化に向けた社内の合意形成ができず、協業が宙に浮くケース。
目的不明確な連携: 「オープンイノベーションをやらなければならない」という雰囲気だけで始まり、何を解決したいのかが曖昧なままの協業。
技術評価偏重(ビジネス視点不足): スタートアップの技術の面白さに注目するあまり、市場ニーズや事業として成立するかどうかの検証が後回しになるケース。
オープンイノベーションを成功させる進め方【実務フレーム】
実際に協業を動かすための4ステップを整理する。
ステップ1:テーマ設定(課題起点) 「何のために協業するか」を明確にする。技術課題なのか、新市場開拓なのか、DXなのか。テーマが絞られるほど、適切なスタートアップとのマッチングが実現しやすくなる。
ステップ2:パートナー探索(スタートアップ選定) 展示会・VCネットワーク・マッチングプラットフォームを活用する。重要なのは「技術力」だけでなく、「協業の実現性(代表者が商談に出られるか、財務状況は安定しているか)」の総合評価だ。
ステップ3:マッチング・検証(PoC設計) 検証期間・ゴール・次のフェーズ移行の条件を最初に合意する。PoCは「試してみる場」ではなく、「事業化判断のための証明の場」として設計する。
ステップ4:事業化フェーズ移行 PoCが成功したら、資本業務提携・共同開発契約・販売代理店契約など、関係を深める形式を選択する。法務・知財の整理も早めに着手しておくことが重要だ。
ILSを活用した協業創出のメリット
ILS(Innovation Leaders Summit)は、大手企業100社以上とVC推薦スタートアップ700社以上が参加する、日本最大規模のオープンイノベーション特化型マッチングプログラムだ。では、具体的に何が他と違うのか。 3つのポイントから説明する。
まず、 実績ベースでのマッチング精度が高い。2,000件以上の過去商談データを分析し、大手企業の関心領域に合ったスタートアップを中心に招聘している。その結果、 商談の約30%が協業案件化する高精度なマッチングを実現している。
次に、 短期間で多数のスタートアップと接点を持てる点だ。1回の開催で約3,000件のビジネスマッチング商談が実施される。通常の展示会であれば 数十社と名刺交換する程度にとどまるが、それに対してILSでは、 目的に合ったスタートアップと1対1の深い商談が可能だ。
そして何より、 具体的な協業創出に特化した仕組みが整っている。マッチング専用サイトを通じて事前に相手企業の情報(公開・非公開含む)を確認し、興味ある企業に直接商談リクエストができる。さらに、 リクエスト承認率は95%と高く、会いたい企業とほぼ確実に商談できる点も大きな強みだ。

まとめ|製造業の成長は「外部連携」で決まる
本記事で紹介した事例に共通するのは、「明確な課題」「対等なパートナーシップ」「スピードを落とさない意思決定」の3点だ。言い換えれば、 自社単独では難しい技術・アイデア・スピードを、スタートアップとの協業で補う——この発想そのものが、今後の製造業の競争力を左右すると私たちは確信している。
だからこそ、 ILSはその「最初の一歩」を踏み出すための場として設計してきた。単なるマッチングイベントではなく、協業を成果につなげるための仕組みと実績を、私たちは10年以上かけて積み上げてきた。
もし今、 「スタートアップとの連携を模索しているが、どこから始めればよいかわからない」と感じているなら、ぜひ一度ILSのパワーマッチングに参加してみてほしい。きっと、 あなたの会社の次の一手が、ここから動き出すはずだ。
ILSパワーマッチングへの参加・資料請求はこちら https://ils.tokyo/contact/
本記事で紹介した事例の詳細はこちら:ILS協業事例一覧

