
ILSは初参加でしたが、具体的にニーズに合う、エニキャリのようなスタートアップに出会うことができ、成果は予想以上でした。協業するなかでも大手企業とは異なるチャレンジマインドやスピード感など、非常に良い影響を受けています。私自身、フレッシュチーズ事業とは別に、イノベーション事業戦略部として他の新規事業の進捗も支援しているため、今後もILSのような機会をうまく活用していきたいと考えています。
公開日:2025年5月 / 執筆:ILS事務局
フィジカルインターネットプラットフォームによる物流DX サービスを提供する株式会社エニキャリは、2023年12月のILS2023におけるマッチングで、株式会社明治が新規事業として取り組む「できたて乳製品」のバリューチェーン構築での連携を開始。今後の技術開発や拠点展開の情報も共有しながら、本事業の「最後のピース」だった届ける仕組みをともに作り上げている。
株式会社明治で2021年に開設されたイノベーション事業戦略部では、新規事業創出と人財育成を目指す社内創発プログラムを実施。そのなかで部署や経験が異なる社内公募メンバー4名が8ヶ月間アイデアを練り、「できたて乳製品の製造・販売事業」で社長プレゼンが行われた。このアイデアの基となったのは、ものづくり戦略本部技術部で長年チーズ製品の開発に携わってきた小森氏のイタリアでの体験から。「『十勝生モッツァレラ』を商品開発した際のフィールドワークで訪れた村の小さなチーズ工房で、できたてのフレッシュチーズの美味しさに感動しました。このような少量生産品を近隣の消費者に届けることが事業化できれば乳製品の価値を向上させ、酪農の将来に貢献できると考えたのです(小森氏)」。
そのコンセプトが採択されて事業化を進めたところ、商品開発は順調で、2023年上期には試作品のテスト販売でPMFの検証はできていたが、バリューチェーンについては同社の従来の「大量生産・一律配送」では対応ができず、「少量生産・随時配送」の仕組みを新たに構築する必要があった。一方、イノベーション事業戦略部では新規事業創出を推進するために外部から情報収集を行っており、その一環で「ILS2023」に参加。そこでちょうど、新基軸の物流を展開する株式会社エニキャリから、D2C市場への参入における新たな物流網構築での協業リクエストがあり、マッチングが成立した。
株式会社エニキャリは、自社で配送リソースを持つ企業向けに、管理画面でドライバーや荷物の位置や状況、着荷予測時間がリアルタイムで分かる配送管理システム「ADMS(アダムス)」を提供。さらにこのシステムのシェアリングにより、多様な荷主と配送業者を即時マッチングする共同配送プラットフォームを構築している。この構想は、荷物の商流や配送、倉庫情報などをシステムと通信でつなぎ、都度ごと最適配送を計算し実施する、インターネットのパケット送信を荷物に置き換えた「フィジカルインターネット」という新しい物流モデルに沿うもの。欧米で約5年前に始まり、日本政府は2040年完成を目指している。
一方、エニキャリは2019年に創業。「前職は中国・上海で小売事業を営み、物流スタートアップが多数米国市場へ上場してスケールする熱気に触れました。そこでエニキャリを創業し、配送リソースをシステムで可視化して、自社でシステム開発しなくてもシェアリングできるモデルを、日本でいち早く事業化したのです(小嵜氏)」。今では軽貨物配送やフードデリバリー業者、新聞販売店など、合計27万人の配送リソースを管理して47都道府県人口カバー率約8割のインフラ網を構築しており、飲食店/チェーンや商業施設、物販、ECなどの多様な荷主と契約。日本でも有数のトランザクションを誇るサイト/サーバーとなっている。同社は現在シリーズBで事業拡大中だがVCの紹介により、新たな連携・協業によるシナジー機会を求めて、ILS2023に初参加した。
明治では、2024年5月に新ブランド「FRESH CHEESE STUDIO」を発表。これは、チーズの素となるカード(凝乳)を工場で生産し、それを材料として飲食店や自社拠点などで、できたてのフレッシュチーズに仕上げて提供するというもの。現在、明治では表参道にポップアップ店舗と、世田谷に工房を持っており、その注文を受けるフロントのECサイト構築と、商品を店舗・工房から運ぶデリバリーの仕組み構築の2つを、エニキャリと提携して行った。
具体的には、既存のECサイト構築パッケージやSaaSでは、本件で必要な細かい設定(ユーザーのログイン地点から配送可能な商圏か否かを判別させるなど)には対応できないため、エニキャリ独自の、デリバリー特化型フロントサイト構築パッケージをベースに、サイトと仕組みを構築。「新しい物流のスペックもまだ具体的でない段階から参加でき、スタートアップにとって貴重な経験でした。また、グロースには時間がかかりそうな事業ですが、アイデアが面白く、当社内ではチャレンジングなライフワークとして、皆でワクワクしています(小嵜氏)」
さらに明治では、できたての品質を保つ冷凍技術の開発により、商品を冷凍で出荷できるようにしたり、カードから最終加工ができる飲食店から消費者にデリバリーするチャネルも検討。自社工房も空き店舗程度のスペースで作れるため、多拠点化の可能性も高い。こうした構想もエニキャリと共有して、今後の事業展開を模索している。「今回の協業により、「できたて乳製品」におけるバリューチェーンの新規構築ができました。この取り組みがきっかけで、明治本体の既存事業との連携も進み、190万世帯への宅配事業におけるサプライチェーンの再構築もエニキャリに支援いただいています(桑畑氏)」
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ILSは初参加でしたが、具体的にニーズに合う、エニキャリのようなスタートアップに出会うことができ、成果は予想以上でした。協業するなかでも大手企業とは異なるチャレンジマインドやスピード感など、非常に良い影響を受けています。私自身、フレッシュチーズ事業とは別に、イノベーション事業戦略部として他の新規事業の進捗も支援しているため、今後もILSのような機会をうまく活用していきたいと考えています。
一般的にビジネスマッチングイベントでは、大手企業側にCVCによる投資観点が強くなりがちですが、ILSでは純粋にビジネスにおける課題に関して相談され、連携につながる可能性があります。また、他のイベントではAIや環境など、注目領域をテーマとして開催されたりしますが、ILSでは参加企業数が多く、当社の物流のように地味な領域のスタートアップでも、ニーズのある大手企業に着目してもらいやすいと感じました。
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