事例一覧 > 株式会社LIGHTz x ライオン株式会社
提携事例
歯磨き粉の香り開発における人工知能の活用で協働
ライオン株式会社 黒川 博史氏
ライオン株式会社 藤山 昌彦氏
ライオン株式会社 五十嵐 翔太氏
株式会社LIGHTz 堀越 龍彦氏
株式会社LIGHTz 野末 馨氏
公開日:2021年1月29日 / 執筆:ILS事務局
株式会社LIGHTzとライオン株式会社は、歯磨き剤の香料開発における人工知能(AI)の活用を協働で実施。AIにベテラン研究者の知見を学習させ、開発期間を半減させた。2020年7月より試験運用を始め、2021年には本格運用を開始。500種類にも及ぶ香料原料に対する熟達者知見に基づき、調香予測や官能評価を行うライオンブランドを支える「熟達フレーバリスト」の知見を、LIGHTz独自のテキスト情報とデジタル情報を連携させるAI技術で、可視化させた形だ。
ライオン株式会社の背景と狙い
1891年創業のライオン株式会社は、経営ビジョンとして「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を掲げ、「より良い生活習慣づくり」を通じて、人々の毎日の健康や快適な暮らしに役立つ企業を目指している。
その一環として、イノベーションラボを設立して新規事業創出を推進するほか、参画企業との協創を目指す丸の内のコワーキングスペース「point 0 marunouchi」に参加。また、新規事業に知見のある副業人材を公募するなど、外部リソースの活用に積極的だ。スタートアップとの協業にも意欲的で、ILSには2016年より参加。
2018年には、健康状態を可視化するセンシング技術や画像解析技術、良い生活習慣の提案につながるAI、ビッグデータ解析技術などに着目して、パワーマッチングを行ったなかの1社がLIGHTzだった。そもそもライオンでは、データサイエンス室でAIや機械学習の社内における利活用を推進。2020年7月には内製で、歯ブラシ開発にAIを活用して設計時間の短縮も実現している。そのようなAI化を目指すテーマのなかでも難易度が高く、内製では開発が難しい、歯磨き剤の香料開発におけるパートナーとして、LIGHTzを抜擢したのだ。
LIGHTzの背景と狙い
コンサルタント会社O2(オーツー)の社内ベンチャーとして、2016年に創業したLIGHTzでは、従来は言語型か数値型に分類されるAI開発において、言語と数値をつなぐ「Data to Text(D2T)」技術を有する。これにより、数値解析だけではブラックボックスとなるAIを言語解釈で「ホワイトボックス化」でき、ユーザーがAIの解析結果から「気づき」を得て「学習」することが可能となる。
この技術は特に工業系の製造業において、樹脂成型や金属の切削など、メカニズムが巧緻な領域を得意としてきたが、それ以外の製造業においても潜在的なニーズがあるはずと考え、2018年に初めてILSに参加を決めた。多くのAI技術のようなビッグデータからのアプローチではなく、ベテランの知見をベースにして、研究開発や製品企画・開発、生産工程の不具合検知といった用途を打ち出したところ、R&D領域で課題感のあったライオンと意図が合い、案件へとつながった。
提携内容
ライオンでは、ILSに参加していた研究開発本部(当時)の黒川氏と藤山氏が、香料開発をテーマと決めてからは、同本部・香料科学研究所の五十嵐氏が窓口となり、LIGHTzでプロジェクトを統括する堀越氏や開発者の野末氏と実際の開発を進めた。2018年10月のILSで両社が出会い、プロジェクトを開始したのは、翌2019年3月のこと。まず半年ほどかけて、暗黙知を形式知化するために、熟達したフレーバリストの知見の棚卸しをして、約100ページになる指南書を作成。その後は約3ヵ月、熟達者にヒアリングを重ね、システム化に向けて情報を整理した。
以後は、プロトタイプで仮説検証~チューニングを繰り返し行って、2020年7月に試験運用を開始。こうして、従来は熟達フレーバリストが豊富な知識と経験を基に頭の中で行っていたことを、ブレインモデルという言語ネットワークの形で可視化させ、数値情報だけでは表現し切れない「官能評価領域でのAI化」を実現させた。これにより、若手の研究者がデータベースを検索して、ベテランの知見を活用できるようになり、香料開発期間を半分に短縮。
今後については、「今回の香料開発AIの経験を、今後は製造現場に展開するなど、波及させていければよいですね。まずは、このAIを現場で着実に活用していきながら、より精度向上を目指します(LIGHTz堀越氏)」とのこと。また、ライオンとしても、「今回のような協業事例は積極的に外部に公表していきます。それにより、当社と組む意義やメリットをスタートアップ各社に理解いただけ、さらに出会いが推進できると期待しています(黒川氏)」。
ライオンの提携ストーリー
※1) 大手とベンチャー双方からの商談リクエスト(商談依頼)合計。ILSでは参加ベンチャー企業を様々な検索軸で検索し、リクエストを行う事が出来ます。また、ベンチャー企業からもリクエストがあります。この仕組みにより、事前に精度の高いマッチングが可能となります。
※2) ILS当日に、事前のリクエストによってマッチングした相手と商談した数。
ライオン株式会社 DX推進部 部長(当時は、研究開発本部に所属) 黒川 博史氏
ILSは、自社の課題が明確であれば、それを解決できる最適な場のひとつです。ライオンではこれまでスタートアップとの協業を期待して、ピッチイベントや展示会に参加していますが、必ずしもマッチングを目的としていないケースもあり、具体的な協業にまで発展させる確度は必ずしも高くはありません。ILSでは、パワーマッチング当日までに事前のメッセージで課題感や要望を相互にキャッチボールできるため効率的であり、マッチングできる確度が高いと感じています。また、自社の課題は時代のトレンドを受けて変化していくものですが、その時々のニーズで、求める技術を持つスタートアップを探すこともできるため魅力を感じています。当社では、研究開発本部が常時ニーズを集約しているので、その中から毎年テーマを決めて、ILSに臨んでいます。
株式会社LIGHTz 執行役員 CMO 堀越 龍彦氏
2020年11月に日経産業新聞でライオンとの協業案件が掲載された反響は実に大きく、2ヵ月で約10件の問合せがあり、すでに打ち合わせに入っているものもあります。今回のAI開発はLIGHTzにとっても、官能評価という難易度の高い領域で開発ができ、非常に貴重な経験となりました。他社からの相談内容を見ても、同様に感覚的な技能伝承に悩みを持つ大手企業がたくさんおられるのだと、改めて実感しています。また、スタートアップとしては、協業するにしても一緒に何かソリューションを開発して市場向けに製品化するよりは、今回のように、その企業のための開発案件としてすぐに案件化でき、進めながらリターンが得られたのは有難かったです。