オープンイノベーション7つの成功事例から秘訣を解説

オープンイノベーション

「オープンイノベーションに取り組んでいるけれど、他社の成功事例が気になる」

「成功している事例では具体的にどのように取り組んでいるのか気になる」

こうした疑問を持たれている方は多いと思います。オープンイノベーションを導入するにあたっては、基本的な知識と事例について学ぶことが大切です。

本記事ではオープンイノベーションの概要や、導入のメリット・デメリット、成功の秘訣を解説します。ILSにてマッチングした国内大手企業とスタートアップにおける国内の7つのオープンイノベーション成功事例を参考に、導入に至った経緯や提携内容を紹介します。

オープンイノベーションの概要と成功の秘訣

企業の成功事例を見る前に、オープンイノベーションについての基本となる知識を解説します。適切にオープンイノベーションを進めるためには、土台となる基礎知識を身に付けることが重要です。

オープンイノベーションとは

オープンイノベーションとは、自社のイノベーションを成功させるために、他社を含めたあらゆるリソースを活用してビジネスチャンスをつくることです。反意語としてクローズドイノベーションがあります。自社が持つリソースだけを活かしてイノベーションを成功させることを意味します。

従来の国内企業では、クローズドイノベーションによる商品開発やサービス提供が行われてきました。しかし、近年では市場環境の急速な変化や、自国経済の停滞などにより、オープンイノベーションを取り入れる事例が増えてきています。

オープンイノベーション推進のメリット・デメリット

オープンイノベーションには、メリットとデメリットの双方が存在します。

まず大きなメリットとして、事業スピードの加速が挙げられます。あらゆるリソースを活用することで、今まで自社だけでは効率的に進まなかった研究開発も迅速に進めていくことが可能です。

また、新規事業への投資コストを大幅に抑えられることもオープンイノベーション推進におけるメリットの1つとして挙げられるでしょう。さらにさまざまな外部機関と提携することで、自社には無い技術やアイデアを蓄積することも可能です。

ただし、外部機関とのつながりを持つことから、自社が持つ情報が漏えいするリスクも考慮することが必要です。提携先と利益配分と費用負担について明確に定めることも必要となります。明確な線引きをしておかなければ、自社の利益率が減少するデメリットも生じかねません。

それ以外にも、他社の技術やアイデアに依存し、自社のイノベーション推進力がかえって低下するデメリットも存在します

参考記事

オープンイノベーション成功の秘訣

オープンイノベーションのメリットを高め、デメリットのリスクを減らすには成功の秘訣を知ることが大切です。まずは、ビジョンを明確化しましょう。

ビジョンの明確化には、どういった目的で、いつまでに何をに行うのか、といったビジョンをトップから現場まで共有することが必要です。社内でビジョンの共有ができれば、オープンイノベーションも進めやすくなります。また連携によるスピードアップも重要です。

提携可能な外部機関と安全にやり取りできる環境構築も必要となるでしょう。環境を整えることで、業務や意思決定のスピードも上がり、オープンイノベーションの実行も容易になります。オープンイノベーションの支援サービスを活用して、自社のニーズに合う提携先を探すことも手段の1つです。

適材適所による人材配置もオープンイノベーションでは大切になります。自社における人材の新規採用に力を入れることはもちろん大切です。しかし、外部機関と提携し、必要な人材を紹介してもらうことも同様に大切となります。

国内大手企業におけるオープンイノベーションの成功事例7つ

オープンイノベーションの知識を深めるには、複数の成功事例を学ぶことが必要です。本項では国内大手企業の成功事例を7つ紹介します。どれも私たちILS(イノベーションリーダーズサミット)を通して出会い、協業に至った独自の事例です。

どういった目的での提携か、具体的に何を行っているのか、なぜ成功したのかについて解説を行います。

①花王(株式会社ヘルスケアシステムズ x 花王株式会社)

花王がオープンイノベーション実施に至った背景には、新規領域での事業立ち上げにおいて、特定分野に強い組織と協力する必要があったことが挙げられます。

消費財メーカーである花王株式会社と、名古屋⼤学発ベンチャーの株式会社ヘルスケアシステムズは、2021年6月より「皮脂RNA」を活用した郵送検査サービスの共同開発を行っています。

これまで花王は原材料調達からR&D、生産、販売までを一貫して自社で行ってきました。しかし、昨今の消費者のニーズの多様化と、変化スピードへの対応から、多くの提携先との協力を重視する方向へ方針を転換しています。実際に花王は2021年1月からヘルスケア領域における問題解決を目的に、ライフケア事業部門を新設し、より多くの企業との連携を図っています。

花王には採取されたRNAを常温で安定的に保存・輸送を行う技術があり、ヘルスケアシステムズは、郵送検査事業の商流やノウハウを持っています。この2社がそれぞれの持つ強みを活かすことで、事業を成功に導きました。現在では両企業の混成メンバーによるプロジェクトチームで研究開発が進められており、2023年度中の発売を目指すとしています。

第8回ILS提携事例・株式会社ヘルスケアシステムズ x 花王株式会社 「皮脂RNA」を用いた郵送検査サービスを共同開発

花王、皮脂RNAモニタリング技術を応用し、検査事業を開始

②日本航空(株式会社みんなのごはん x 日本航空株式会社)

日本航空株式会社と株式会社みんなのごはんは、2014年5月から国際線機内食の共同開発を実施しています。日本航空がオープンイノベーションを実施した背景には、グローバル化した市場で多様な顧客のニーズに対応していく必要性の高まりが存在します

近年では国内でのインバウンド需要の高まりを背景に、宗教的理由、あるいは健康的理由からベジタリアンメニューへの対応が必要です。そのため、日本航空がエンターテインメントの一つと位置づけている機内食もベジタリアンメニューを用意する必要が生じています。

こうしたことから、提携先としてベジタリアンフードの開発ノウハウがあるみんなのごはんが選ばれました第1回ILSにおいて、JAL側がみんなのごはんの開発したベジタリアンフードを実食し、そこから提携がスタートしています。

JALの機内食を調理・製造している工場にみんなのごはんの担当者が出向き、そこで機内食担当シェフと意見交換を行いレシピ開発を行っています。2015年6月からJALの国際線でベジタリアン対応メニューの提供が開始され、対象の国際線の全クラスにおいて事前予約制で利用可能です。実際に提供を受けた利用客からの評価は高いとのことです。

ベジタリアン人口は、世界で6%以上を占めるといわれています。また、アジアンベジやジャイナベジなどの新しいニーズもあり、今後も新しいメニュー開発が見込まれています。

第1回ILS提携事例・株式会社みんなのごはん x 日本航空株式会社 国際線機内食で共同開発、ベジタリアン向けスペシャルミールを提供

③富士フイルムシステムサービス(株式会社JX通信社 x 富士フイルムシステムサービス株式会社)

富士フイルムシステムサービス株式会社は、報道機関にビッグデータ情報を提供する株式会社JX通信社と、2021年9月から資本提携を行っています。資本提携の目的は、ビッグデータリスク情報サービスの拡大を図ることです。

富士フィルムシステムサービスが、オープンイノベーションを実施した背景には、防災分野において早くリリースできる製品・サービスを持つパートナーを求めていたことがあります。両企業の提携は、自治体からの罹災証明発行に関する相談がきっかけとなっています。相談をきっかけとして、防災分野における事業展開の模索が始まりました。

またJX通信社としては、報道機関向けであった情報配信サービスを拡大させたいとする狙いもあり、提携の後押しとなっています。業務連携での事業として、JX通信社が主に報道機関用として提供してきた ビッグデータリスク情報サービス「FASTALERT(ファストアラート)」を、富士フイルムシステムサービスが得意とする地方自治体へ提供しています

「FASTALERT」は、複数のビッグデータからAIを用いて自然災害や事件、事故、SNS炎上など、さまざまなリスク情報を集めており、公共分野での応用が期待されています。また「FASTALERT」のデータマイニング技術をマーケティングに応用したサービス「KAIZODO(カイゾード)」についても業務連携を行い、ビジネスの拡大を図っています。

第8回ILS提携事例・株式会社JX通信社 x 富士フイルムシステムサービス株式会社 ビッグデータリスク情報サービス領域で資本提携、ならびに双方のシナジーを追求する業務提携

④東京建物(株式会社スペースマーケット x 東京建物株式会社)

東京建物株式会社と株式会社スペースマーケットは2018年11月に資本提携を行い、相互のノウハウの活用を行っています。東京建物がオープンイノベーションを実施した背景には、不動産供給量の増加や、ライフスタイルの多様化といった環境の変化による新規事業開発の必要性向上があります

そうした背景から、東京建物では短期間でも物件を借りられるビジネスが必要となりました。そのため、不動産のシェアリングエコノミーで定評のあるスペースマーケットとの提携を行っています。

スペースマーケットとしても、新しく市場を開拓するためには、不動産大手との連携が必要との考えがありました。両企業の思惑が合致する形で、資本提携が実現しています。

東京建物が管理する物件を、スペースマーケットが貸し出すことを事業内容としています。休業日で使われなくなっているマンションのモデルルームや、再開発地域の未利用物件の活用などが主な取り組みです。

両企業とも「将来的に場所は体験やサービスと一体で提供される」とのビジョンを共有しているため、資本提携がスムーズに進みました。今後は新たなビジネスの創造のために、2社だけでなく、さらに多くの企業との提携や協業機会の拡大を行っていきたいとしています。

株式会社スペースマーケット x 東京建物株式会社  不動産の新しい活用や提案の推進に向け資本業務提携の締結

⑤資生堂(ドリコス株式会社 x 株式会社資生堂)

株式会社資生堂と、ドリコス株式会社は、2017年6月6日にそれぞれのリソースを融合した製品企画で包括的業務提携を行いました。ドリコス株式会社は、ユーザーの生体データに基づいたサプリメントを開発する企業です。

資生堂がオープンイノベーションを実施した背景には、多様な利害関係者との協力でビジネスの発展を促進させたいとの狙いがあります。従来の資生堂では、自社内の特定の部署による研究開発が行われていました。しかし、部署や企業のつながりを超えて、横断的なプロジェクトを推進することで、新しい価値の創造を目指しています。

ドリコス側としても、サービス品質の担保、流通・販売チャネルの確保を安定して行いたいとの狙いから、資生堂との業務提携に至りました。資生堂が持つ化粧品開発のリソースと、ドリコスのオーダーメイド・サプリメントマシン「healthServer(ヘルスサーバー)」のノウハウを融合させることで、製品企画や新規ビジネスの開拓を行っています。

業務提携後は、自分の好みの香りにカスタマイズできるアロマディフューザー「BliScent」を開発し、アメリカ市場で好評を得ています。今後も両企業ともお互いのノウハウを活用した商品開発を行っていくとしています。

第3回ILS提携事例・ドリコス株式会社 x 株式会社資生堂 オーダーメイドサプリメントマシンの仕組みと資生堂のリソースを融合した製品企画で包括的業務提携

⑥三井化学(株式会社Z-Works x 三井化学株式会社)

三井化学株式会社と、株式会社Z-Worksは、バイタルセンシング材料を活用した介護支援システムの共同開発を実施しています。株式会社Z-Worksは、人感センサーによる介護支援システムを開発している企業です。

三井化学がオープンイノベーションを実施した背景には、自社が開発した張力センシング基材「PIEZOLA(ピエゾラ)®」の活用方法を模索することにありました。そこで、介護分野でシステム開発を行うZ-WorksとILSで出会い、彼らに白羽の矢を立て、業務提携を行っています。

医療分野では、薬事承認などで実用化までに時間がかかってしまいます。しかし、介護分野であれば、社会実装を短期で実現できるため提携が実現しました。

Z-Works側としても介護支援システム「LiveConnect(ライブコネクト)®」のセンサーの精度を向上させたいとの考えから、今回の提携を行っています。三井化学が持つ「PIEZOLA(ピエゾラ)®」のノウハウにより、呼吸・心拍数などのデータが取得しやすくなり、「LiveConnect(ライブコネクト)®」による睡眠深度の可視化が実現しました。

2020年10月に全国展開をはじめ、現在までに医療機関45施設750床に導入されています。三井化学によると、Z-Worksが持つ介護現場の知見が今回のシステム開発に大きく貢献したとのことです。

第6回ILS提携事例・株式会社Z-Works x 三井化学株式会社 イタルセンシング材料を用いた介護支援システムの開発

⑦三洋貿易(株式会社カレアコーポレーション x 三洋貿易株式会社)

三洋貿易は「最適解への挑戦」をスローガンに、全社一丸で新規商材の開発を目指し、ILSにも2018年から参加しています。ILSで出会ったカレアコーポレーションの非接触バイタルセンサーに注目。マッチングにより、用途が広く多様な商品性が期待できることから、三洋貿易の自動車関連等における顧客ネットワークを活用して、価値提供の可能性をともに探り、提案・開発を推進しています。

今後はたとえば家畜の出産・発情期をセンシングによるデータ取得・分析で予測し、生産性を向上させることが可能ですが、それを三洋貿易の畜産飼料部門でサービス化したり、認知症・うつ病の予測・経過観察機能をライフサイエンス領域で活用するなどが考えられます。

このようにスタートアップの持つ技術と大手企業の持つアセットを融合させることで協働を推進していく事例がILSでは多く生まれています。

株式会社カレアコーポレーション x 三洋貿易株式会社 非接触バイタル・メンタル検知センサーの製品化に向けた協業

オープンイノベーションを成功させるために

オープンイノベーションには、事業スピードの向上、コスト削減・新たな技術やアイデアの蓄積といったメリットがあります。またオープンイノベーション成功のためには、自社の目的に合致した企業と提携し、適材適所で組織を構築していく必要があります。
ILS(Innovation Leaders Summit)では大手企業とスタートアップとの新事業提携のための商談会を開催し、第10回実績では大手企業105社、国内外のスタートアップ625社が参加約1,000件の協業案件が実現していますオープンイノベーションの推進について悩んでいることがある方は、まずILSのパワーマッチングレポートの資料請求をおすすめします。個別相談会も実施中です。

著者
ILS事務局

アジア最大規模のオープンイノベーションのマッチングイベント「Innovation Leaders Summit(ILS)」を開催。
ILSとは、大手企業のアセットとスタートアップのアイデアやテクノロジをマッチングし、グローバルイノベーションを生み出すことを目的に経済産業省後援のもと発足したプロジェクト。
2023年12月に開催したILS2023において、メインの事業提携マッチングプログラム「パワーマッチング」は、国内外の主力VCなどで構成する約100名のILSアドバイザリーボードが推薦する有望スタートアップ812社(内、海外企業266社)と大手企業113社が参加、3,121件の商談が行われ1,032件の協業案件を創出した。アジア最大級のオープンイノベーションカンファレンス。

主催: イノベーションリーダーズサミット実行委員会(SEOU会、ドリームゲート/株式会社プロジェクトニッポン)
後援: 経済産業省/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)/東京都/日本政策金融公庫/オーストラリア大使館(第10回ILS実績)
運営: 株式会社プロジェクトニッポン

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