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提携事例

「皮脂RNA」を用いた郵送検査サービスを共同開発

公開日:2022年10月24日 / 執筆:ILS事務局

株式会社ヘルスケアシステムズと花王株式会社は2021年6月、花王が独自開発した「⽪脂RNAモニタリング」技術とヘルスケアシステムズの郵送検査の知見を⽤いて、⽣活者が⾃宅に居ながら健康状態の把握ができる、ヘルスケア分野の郵送検査サービスの開発を共同で始めた。両社はサービス実現に向け、「⽪脂RNA」を安定的に取り扱うことができる郵送検査キットの開発を2023年内の発売を⽬指して進行中。すでに⼀般の人を対象にした実証実験にも取り組んでいる。

花王の背景と狙い

花王は消費財メーカーとして、原材料調達からR&D、生産、販売までを垂直統合による自前主義で拡大してきた。ただ、「近年は消費者ニーズの多様化と、変化スピードへの対応が課題となっていた。こうした中で、新しい花王に生まれ変わろうという方向に進んでいる」(寺田氏)という。

具体的には、ヘルスケア領域における社会課題を解決することを目的に、2021年1月にライフケア事業部門を新設し、さまざまな企業との共創を狙いつつ、新規事業開発をスタート。寺田氏によると、「当社はもともと衛生領域をコアドメインとしつつも、ヘルシア(特定保健用食品・機能性表示食品シリーズ)といった、生活習慣病の予防領域を膨らませようとしている。さらに皮膚疾患や脱毛症など我々の近傍領域についても、新たな取り組みを進めていきたい」と説明する。

今回、花王がILSに参加した背景には、「未経験領域で新事業を立ち上げるためには、特定分野に強みを持つスタートアップ企業と協業することが必要だと考えた」(本間氏)ことがある。そうすることによって、「アジャイルに製品やサービスの開発を進め、スピード感をもって新たなプロダクトを世の中に出せるようになるのではないか」と本間氏は語る。

ヘルスケアシステムズの背景と狙い

ヘルスケアシステムズは名古屋⼤学発ベンチャーとして、「未病」をテーマにした郵送検査キットの開発、販売を⼿がけている。同社の瀧本代表は「私どもは大学の技術シーズをテーマにすることが多く、大学にはシーズがたくさん眠っている。ところが肝心な部分の特許は、その大部分が大企業に紐付いている」と語る。

このため大学のシーズを基に事業化を進めることは困難だった。例えば、化粧品メーカーなどは肌の評価方法に関する多くの特許を押さえており、花王もそうしたメーカーの一つ。ただし「その評価方法は商品開発が目的だったため、利用されていない。これを当社で使わせてもらえないかと考えたのが、花王に協業を提案したきっかけ」(瀧本氏)となった。「私どもは検査によって可視化した後のソリューションも重要だと考え、花王が抱える課題についても知りたかった」(細谷氏)。

瀧本氏は、「大企業との協業では、信頼関係を構築することがとても難しい」と話す。ともするとスタートアップ側が卑屈になったり、大企業に成果をすべて持って行かれるのではないかと疑心暗鬼になったりしがちだという。ところが「花王の寺田さん、本間さんがオープンに話して頂いたことはもちろん、新サービスを当社の商品として出させて頂くことは、大変ありがたく思った」と振り返る。

提携内容

花王は商品開発の基礎研究として、ヒトの肌や毛髪などに関する検査技術を蓄積してきた。こうした検査技術は、本人さえも気が付かないまま忍び寄る疾患に対して、その人に最も適合する最善手となるサービスの提供につながると考えられる。花王とヘルスケアシステムズは、⽪脂RNAの郵送検査を検討している。

ヒトの細胞は、DNAの情報を元に、RNA(リボ核酸)を介して作られるタンパク質によって構成される。RNAには、ヒトの細胞をつくる元となる情報が詰まっており、近年はRNAを解析することで疾病などの原因究明や治療に貢献できるとの期待が高まっている。花王は⽪脂RNAを採取後、常温で安定的に保存・輸送できる技術を構築しており、ヘルスケアシステムズは郵送検査事業の商流や豊富なノウハウを持つ。

花王は、「ヘルスケアシステムズ社がミッションとして掲げる『生活習慣のミスマッチをゼロにする』に共感し、瀧本代表の熱い想いもお聞かせ頂いて、協業をお願いした」(寺田氏)と明かす。

検査の用途については対象者によって課題が変わるといい、年齢や性別などに応じてさまざまなことが分かる可能性がある。一例としては、アレルギー疾患が考えられる。現状では、病気前の領域は検査薬もなく、医者にかかることもできない。ただし、病気になる前の段階において、対応策を提示することはできる。瀧本氏は「未病領域ではデータの力が非常に重要になると考えており、まずは検査で自分の状態を把握し、その次に行動変容を促せるようにできればいい」と青写真を描く。
2021年3月のILSでマッチングし、6月には協業が決定、商品はあえて花王のブランド名を前面に出さない。「当社はこれまで、新しい事業を始める際には、単独で行うというスタンスが強かったと思います。ただ、新しいことをやろうとすると、社内議論などでものすごい時間がかかります。今回はむしろ、経験のあるスタートアップさんから学びつつ、たとえ我々が裏方に回ることになるとしても、新しいやり方でスピード感をもって進めてきました」と寺田氏は語る。
現在、花王とヘルスケアシステムズは、両社の混成メンバーでプロジェクトチームを結成し来年の発売に向けて検討を進めている。今後は郵送検査サービスの種類の拡充を目指す。

花王の提携ストーリー(ILS2021)

ILSパワーマッチング

商談リクエスト数※1

81

商談数※2

36

後日に再商談した社数
事業提携に至った社数

4

3

  • ※1) 大手とベンチャー双方からの商談リクエスト(商談依頼)合計。
  • ※2) ILS当日に、事前のリクエストによってマッチングした相手と商談した数。
花王株式会社 ライフケア事業部門 ソリューションビジネス開発部 部長
 寺田英治氏

ILSについては、1次スクリーニングが済んだ企業がラインナップされているため、サーチの時間を短縮できます。スタートアップの発掘は砂の中からダイヤモンドを見つけるようなもの。CESなど欧米の他イベントにも参加したことがありますが、ILSは参加スタートアップの質が良く協業確率が圧倒的に高いということが、実感として言えます。

株式会社ヘルスケアシステムズ 代表取締役社長
 瀧本陽介氏

私どもとしては、ILSを通じていわゆるシーズ技術を持つ大企業様との連携を模索していました。花王様とも今回の協業で多くを学ばせて頂いております。ILSは参加大手企業のボリュームだけでなく、質がとても高いと感じています。商談当日のプレゼンは短時間で少人数であるため、スタートアップ側は高い熱量で自社を売り込まなければならないのですが、むしろ功を奏しています。マッチングの仕組みがうまくできていると感じます。

ヘルスケアシステムズ社を推薦したILSアドバイザリーボードメンバー
独立行政法人中小企業基盤整備機構 江村 寛計