オープンイノベーション(OI)とは、企業が外部から新たな技術やアイディアを募集・集約し、革新的な製品・サービス・ビジネスモデルを開発する手法である。OI実現に向けた9つのステップを理解する前に、まずOIが目的ではなく手段であることを正しく認識して欲しい。
9つのステップの1番目はイノベーションの型の理解である。イノベーションには持続型と破壊型の2タイプある。ステップ2はOIの重要度の理解である。自前主義がすでに限界に達しているだけでなく、製品やサービスのライフサイクルが急速に短命化しているからこそ、外部との連携を通じたイノベーション創出が重要である。ステップ3は外部環境の変化を捉えることであり、その上でステップ4として未来志向で組織としてのあるべき姿を明確にする。すなわちステップ3を踏まえて5~10年後の自社のあるべき姿を定義し、その時点のユーザー向けの製品・サービスを再定義するのである。
ステップ5は社内リソースの明確化である。これは自分たちが何者かを見定め、社内に眠る技術や知見を掘り起こす作業である。ステップ6はイノベーションの土壌を耕すことであり、そのためにはハッカソンやアイデアソンの主催・運営などを通じて、OI推進の当事者として0→1で製品・サービスを生み出す経験を積むことも一つのポイントである。
特に重要なのはステップ7の先進的な組織の理解、ステップ8の3階建て組織の実装、そしてステップ9のイノベーションを会社の文化にすることである。先進的な組織は、1階がコアビジネス(儲ける)、2階が新規事業(勝つ)、3階がイノベーションを起こす(実験場)という3階建て構造になっており、長期的未来志向で動く。階によって達成すべきゴールが異なるので、KPIや評価制度は別に設計する。最後のステップ9において大事なのは、3階部分を統括するChief Innovation Officer(CIO)の存在である。社内でイノベーションをブームにすることで本質的な価値向上に繋がる。
日本のユニコーン(時価総額1,000億円)と認定できる企業は、現在上場している企業を含めても、無いに等しい。ユニコーンになりたいベンチャー企業は、例えば5年後に投資先企業のexit valueが1,000億円になるとして、割引率を50%とすると、現在のPost Money Valuationは約130億円、VCから20億円調達する場合のVCの持ち分は15%程度という数字を念頭に置く必要がある。日本では20~30百万円の投資額でVCの持ち分が30%という事例が少なくない。ベンチャー企業側の数字設定がずれてしまっていることが日本初ユニコーンの少なさに繋がっている。
資本政策の手引きでは、①資本政策を知る、②立てる、③調達を実行するという、3段階のあり方を示している。手引書の基本メッセージは「Valuation上げろ!!」である。具体的にはシード期にはコンバチブル証券、すなわちCN、あるいはCEで投資を受けて、この時点でのValuation付けを回避する。その上でシリーズAまでの時間を稼ぎ、不確実性をはずし、できる限りPost Money Valuationを上げる。例えば、海外市場参入や海外からのエンジニア人材の雇用も考えることも必要になる。
オープンイノベーションを通じて事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携し、各企業が成長発展していくことが重要だが、成功例が少ない。その大きな要因は「連携の壁」である。「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第二版)」では、7つの連携の壁の存在を示し、その克服方法を多様な事例を基に明らかにしたことがポイントである。
7つの壁 | 克服方法 | |
1 | 経営陣、中間層・現場のVB連携の必要性の理解、コミットの不足 | コミットメント、社内啓蒙、人事上の手当て |
2 | 外部連携する領域設定が不明確 | 戦略テーマを踏まえた検討領域の決定 |
3 | VB連携に合った組織・権限の未整備、人材配置 | ベンチャー連携を担う組織・権限の整備、技術やベンチャー企業を理解している人材の配置 |
4 | うまくいかない連携先探索 | 戦略的意図をもった探索、適切な探索手法の選択、VBコミュニティでの評判向上への尽力 |
5 | うまくいかない連携先との契約・知財の交渉 | 契約・知財の交渉おけるベンチャー企業とのWin-Win関係の構築、法務・知財部門のベンチャー連携ノウハウ強化 |
6 | 既存事業部門・他部門との調整が困難 | トップコミット、優先順位の明示、早めの事業部巻き込みと根回し |
7 | 連携開始後の共同研究や実証実験のマネジメント力の弱さ | 連携推進体制・場の整備、マイルストーン・KPIの設定と運用、状況に応じた目標の再設定 |
現在の収益源は1980年以前に作られたものであり、それ以降の新しい事業基盤がない。会社の将来のためには新規事業創出が必須である。そこでビジネスモデルファースト&徹底したオープンイノベーションを戦略の柱とし、誰も考えないことをやることが基本的な方針である。大事にしていることは、新規事業のネタがあったらそれがブルーオーシャンなのか、売り先のストーリーをまず考え、その後はオープンイノベーションで進めることである。すなわち必要技術は外部から取り込みインサイダー化する。特に一番の競合をインサイダー化し、競争しないことが重要である。事業化においては積極的に周囲を巻き込む動きを意識している。
オープンイノベーションは非常に重要な手段である。実践において特に気にしていることは、連携先とお互いの強みを持ち寄り、競争力のあるサービスを短期間で構築していくことである。2015年10月に立ち上げたプログラムでは、デジタル全般を対象領域としつつ、IoT、ブロックチェーンに特にフォーカスしており、対象領域の事業を行うベンチャー企業や起業家を全面的に支援している。プログラムだけでなくファシリテーションもほぼ内製化し、テイラーメイドで推進していることが大きな特徴である。このプログラムはオープンイノベーションの文化が全社に根付くまでの過渡的な活動として捉えている。KPIは大切だが、オープンイノベーションのKPIはよくわからない。逆にKPIを気にしすぎてイノベーションの芽を摘んでしまう方を懸念すべきだと考える。