株式会社東京大学エッジキャピタル 取締役パートナー 坂本 教晃氏(以下、坂本氏):
まずは自己紹介をお願いしたい。
Johnson & Johnson Innovation Asia Paciffic Innovation Center, Director 楠 淳氏(以下、楠氏):
当社は製薬部門、メディカルデバイス部門など4つの大きな事業部門があり、Johnson & Johnson Innovationはそれとは独立した別働隊であり、スタートアップや大学、製薬企業などからアーリーシーズを見出してグローバルに繋げる活動をしている。日本の技術はすぐにライセンスとはいかないので、当社のグローバルファーマ―の視点を先生方に伝えて、どのようなパッケージであればグローバル展開が可能かどうかのヒントを与えるなど、社会実験的な要素を含む草の根活動をしている。
株式会社メガカリオン 共同創業者 代表取締役社長 三輪 玄二朗氏(以下、三輪氏):
東京大学と京都大学で発明されたiPS細胞から血液をつくるために2011年につくられた企業で、血液を工場でつくることを目指している。今日現在、輸血に使われている血液は100%献血で賄われているが、人生100年時代になると輸血用の血液が足りなくなってくる。これを解決するために、iPS細胞の活用により工業的に血液をつくることが可能となり、現在、人に投与できるステージまで来ている。
クオンタイムバイオシステムズ株式会社 代表取締役社長兼CEO 本蔵 俊彦氏(以下、本蔵氏):
大阪大学発ベンチャーを2013年11月に立上げ、日本とシリコンバレーで研究開発をしている。東京大学の研究者の時代から、現在ではサイエンスが進化し人の存在に関する根源的な問いに答えが出せる状況になった。ただ、大きなインパクトを与えるのは、ビジネスが重要であると考えた。1年のうち、半分は日本、半分は米国におり、大学から企業への橋渡しをどうするのかが大きなトピックとなり、グローバル大企業との連携をどうするのかをスタートアップの視点で経験を共有したい。
大学系のベンチャーキャピタルに勤めており、ITとヘルスケアをみている。最近の上場企業で最も時価総額の高い会社は、ペプチドドリームである。社会的なインパクトが最も大きな企業はイルミナであり、ライフサイエンスやヘルスケアは非常に面白い分野である。当社は、ライフサイエンス分野においてベンチャーのなかでも中心的な役割を果たしている。一般には見えないものを扱い、世界的なインパクトの創出を目指している。そうしたなかで、大企業とベンチャーとの連携は必要条件になっており、情報共有したい。
大企業と連携していくうえで、何がポイントと考えているのかを伺いたい。
iPSが生まれて10年になるが、大企業に期待することは、既にある治験の活用である。我々の最大の課題は血小板の大量生産で、必要な時に必ず供給できる生産体制をつくることである。現在、製薬会社、エンジニアリング会社、素材企業など10数社の協力を得ているなかで、意外な企業にお手伝いいただいている。例えば、たばこのパッケージングを行う企業や、ペンキ攪拌機を製造している企業など、大企業が持っている技術は必ず使えるはずであるという前提のもと、コンソーシアムという形で働いている。
そのような企業をどうやって見つけたか。
これからこのエコシステムを改善できると考えているが、今までは、偶然である。しかし、これからはマッチングができれば日本のGDPをもっと増やせるのではないかと思っている。
人生100年時代ということやヘルスケア分野を考えると、一つの国の一企業が全てやるのではない。遺伝子を早く安く正確に読むための装置をつくるということで競争している。本当にインパクトを出すのであれば、競争して勝つか、一緒にやるかの選択を迫られる。我々からみれば、使えるものは使っていくべきであるが、R&Dの進め方はスタートアップと大企業は違っている。ただ、協業すると決定するまでに時間がかかり、過去の経験が邪魔をする。米国では、ベンチャー企業と提携して成功しなくてもよいと考えている。学ぶべきことは、ベンチャー企業はアピールの仕方、スピード感が違うため、一緒にやることを「学べる価値」として捉えることであり、スタートアップのアプローチの仕方を変えるべきである。
大企業にとって、結果だけでなくプロセスそのものにも価値があるという見方は新しい視点かなと思う。ベンチャー企業として、逆の立場から言いたいことや、みる視点はどういうものがあるか。
日本のスタートアップは、近隣諸国の会社がアクティブで情熱を持っているのに比べると、情熱が伝わらず、予め大企業の特性を学んでどのようなプレゼンが受けるのかを学んでもらいたい。例えば、中国は、シーズがたいしたことはなくてもディールに近づくことがあり、欧米企業のことをよく知っている。もう一つは、日本は、新しいシーズに関して調査をあまりしておらず、スコープも狭いため、入口で切られてしまうことが多いのではないかと思う。きちんとマーケットリサーチをして戦略を練り直してピッチに臨むべきである。
プレゼンまでにかける時間がシンガポールや米国とはかなり違うと感じる。良いベンチャーを見つけるための仕組みについて、詳しく教えてほしい。
当社のインキュベートラボは、米国に9か所あり、来年、上海に1か所できる予定である。米国で言えば、多くのスタートアップが存在するなかで、つぶれるスタートアップはもったいないので助けるということがコンセプトである。インキュベートラボに入ると、当社の世界のエキスパートから大企業ならではの必要な情報にアクセスできる。特徴は、ラボに入ったからといって、当社に紐づく訳ではないということで、当社は、他者に門戸を拡げており、社会実験的な取り組みも行っている。
何故、全社的な巻き込みができたのか。かつ、ノンエクスクルーシブでやるのは大きなチャレンジだと思うが。
当初はいろいろと議論があったが、タケダもアイパークがあるなか、インキュベーションをやるのであれば、新しいことをしないといけないという前提で、スタートアップは絶対に活かすという信念のもと進めた。そこに至るまでのカルチャーがあった。これは、他社とは差別化のポイントでもある。
そもそもグローバルマーケットにどうやって攻略されようとしているのか、伺いたい。
当社の事業の特性上、そもそもグローバルにならざるを得ないが、2011年創業時に最初に苦労したところである。グローバルマーケットは大きすぎ、そもそもスタートアップでは扱えず、最初の2年間は資金が集まらなかった。幸いなことに、産業革新機構の支援が得られた。そもそも、途上国には年金制度もなく、血液が集まらないが、途上国側の期待は高く、それに応えるべく動いている。スタートアップは世界的な企業と組まないとできない。
日本のベンチャーではR&Dを全て海外に置くのは珍しい。決断に至った経緯や苦労を教えていただきたい。
日本では海外で獲得できる優秀なチームがいなかったということである。ただ、あまりグローバルと言い過ぎない方がよいと考えている。いわば目標を達成するために制限を取り払って考えるということに尽きると思う。常に優秀なチームを組成して合理的な判断をして、うまく人を巻き込んでいく。そして良いサポーターがいれば目標を達成することができる。チームをつくるということが非常に重要なことで、何故、日本のなかでチームをつくらなければいけないのか。何をしたいかで、どこに行くかが決まるので、過度にグローバルと言わない方がよい。「やるべきことをやる」に尽きる。
日本市場を手段としてみた場合に、日本のヘルスケアのマーケットの優位点、心配点について、どうみられているのか。
日本は素晴らしい基礎研究能力がある。また、誰もが考えつかないような技術が出てくるという魅力がある。ただし、ノーベル賞を受賞された本庶先生の件は、技術が複雑で一見ロジックがないような、漠然としたことしかない。その上で、具体的に説明できる材料が欲しいと思う。「石」を「玉」に変えるための草の根の活動を如何にシステマチックに日本としてやっていくか、さらに、そこからスタートアップ企業にどう持っていくかといったことに懸念を感じている。
インパクトを出すためには、技術のシーズだけではなく、シーズ+ユーザーインターフェース(物流・流通、マーケティング)のまとめ方が日本は下手だ。シーズ志向が強すぎる。
当社はもう少しで米国企業になるところだった。それを止めた人は、「日本はサイエンスで勝ってビジネスで負けてきた繰り返しで、またiPS細胞でも負けるのか」と言われた。やはり、素晴らしい要素技術を効果的にマッチングができればよい。大企業の方からきらりと光るベンチャーを探し出していただく努力をしていただければよい。
マッチングの効率化という面では、J-StartupやILSの取り組みがある。最後に、J-Startupに選ばれてよかったこと、あるいは期待することをお願いしたい。
恥をさらせる場所だと思っているので、是非、声をかけていただきたい。
囲い込みはよくない。J-Startup企業に対して制約を取り払う思想は素晴らしい制度である。一番、日本人に必要なことは「自信」ではないか。しかし、日本には自信満々でアピールすることを「良し」としない文化がある。また、人生100年時代に「より充実した人生」を過ごすようにするのがヘルスケアの役割であり、単に医療だけではないと考えている。ビューティーやカウンセリングも含まれる。J-Startupは、単にグローバルを支援するということではなく、結果として自信を持つことが増え、優秀な人を育てる状況が生まれるとよい。
ヘルスケア分野のベンチャー企業と大企業との連携は、歴史がなく、本当に成功したケースは多くないと思う。登壇した方々の関わりにより成功事例を積み上げていくことが大事だと思う。それにより自信を持って進められるようになって欲しい。