新事業創造カンファレンス
第三部レポート

第3部
イノベーションのキーパソン
「始動」と「未踏」2つの人材育成プロジェクト/政策紹介

パネルディスカッション
「始動 Next Innovator」の成果と展望」

【概要】
経済産業省では、2015年から「始動 Next Innovator」(以下、「始動」)という次世代のイノベーションの担い手を育成するプログラムを実施している。「「始動 Next Innovator」の成果と展望」では、始動の卒業生3名を御招きして、同プログラムの魅力について伺った。
パネルディスカッション/「始動 Next Innovator」の成果と展望
スピーカー*写真左から
【モデレーター】
アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部シニア・マネジャー 那須 もえ氏 

【パネリスト】
リンクウィズ株式会社 代表取締役 吹野 豪氏
チョーヤ梅酒株式会社 製造部生産技術部門長 菅健 太郎氏
日本電信電話株式会社 研究企画部門プロデュース担当部長 竹上 慶氏

始動プログラムについて

那須氏
那須氏

アクセンチュア株式会社 那須氏(以下、那須氏):
「始動」は2015年に始まり、今年で3年目を迎えている。合言葉はThinker to Doerであり、考えるだけでなくアクションを起こせる人を目指すものである。毎年120名が参加しており、卒業生は240名に上る。「始動」の特徴は、日本の産業を代表する事業家、起業家、VCによるメンタリングが行われることであり、120名が切磋琢磨して事業計画を書き上げる。審査、ピッチ大会を経て選考された20名がシリコンバレーに行き、更に事業計画をブラッシュアップする。近年では女性の参加も増えており、またベンチャー企業だけでなく大企業、自治体、研究機関からの参加もある。

自己紹介

吹野氏
吹野氏

リンクウィズ株式会社 吹野氏(以下、吹野氏):
静岡浜松市で産業用ロボットの制御アルゴリズムを開発している。地方発、ものづくり、BtoBベンチャーである。「始動」には2015年に参加した。創業当時、資金がなく補助金を探しているときに、経済産業省のホームページで始動を発見した。当時はそれほど大きな志はなかったが、「始動」を卒業した今は大きな志を得ることができている。

菅氏
菅氏

チョーヤ梅酒株式会社 菅氏(以下、菅氏):
チョーヤ梅酒は社員130人の中小企業である。売上が落ち続けている状況をなんとかしたいという思いから、独学で新規事業計画書を作り、社長からもやってみろと言われた。しかし、いざやるとなると自分の事業計画に自信を持てなかった。そこで大阪で開催されていた新規事業部の勉強会に参加したところ、そこのメンターが「始動」の1期生が中心であり、「始動」を紹介してもらい、自身の事業計画をブラッシュアップするために2016年に「始動」に参加した。

竹上氏
竹上氏

日本電信電話株式会社 竹上氏(以下、竹上氏):
入社して20年になるが、キャリアの半分は新規事業に携わってきて、今も研究所の技術を使った新規事業を検討するチームに所属している。これまで、会社の柱になるような新しい事業ができていない、グループ企業を見ても世の中を変えるようなものができていないという問題意識があった。0から1を作る発想をどうしたら会社に持ってこられるかと考えて、色々なプログラムを探していたときに、「始動」を見つけ、2016年に参加した。

始動により事業化した新規事業の紹介

那須氏
那須氏

「始動」は、事業をどう実現するかにフォーカスしており、実際に皆さんの活動も事業化されている。そのあたりを紹介いただきたい。

吹野氏
吹野氏

産業用ロボット向けの制御アルゴリズムを作っている。日本のモノづくりの技術をソフトウェアで集約し、モノづくりのノウハウを海外に売っていきたいと考えている。この事業は正に「始動」の中で立ち上がっていった。参加当初、創業から2カ月程度、取締役3人、売上は0だった。我々は考える前にDoしてしまっており、もう少し考えないといけない状況だったが、頭のいい人がたくさんおり、事業計画にも親身にアドバイスを頂いた。3年目になって無事、事業が立ち上がっており、非常に良いプログラムだったと感じている。周りが大企業ばかりで最初は肩身が狭かったが、開き直ってぶつけていった後半は非常にプラスになった。

菅氏
菅氏

The CHOYAという商品を昨年から発売している。これまでは、主にタレントを使って広告しており、年齢、性別、飲むシーンを提案するプロモーションをしていたが、この商品は全く違うアプローチを取っている。「始動」では、色々なバックグラウンドの方に事業計画書を見てもらったが、チョーヤの強みについて色々と聞かれた。自身も103年の歴史を勉強して強みを考え直したところ、創業者一族が農家と作り上げた原料の梅が強みであることがわかった。そこで、The CHOYAには、特別な梅を使って作ったもので梅酒というよりチョーヤという飲み物である、という意味を込めたキャッチフレーズを使うことにした。

竹上氏
竹上氏

「始動」でアドバイスを頂いて事業化した商品は、デジタルサイネージである。コンテンツ制作コストを削減するというコンセプトで、会社のWebサイトをサイネージ用コンテンツに自動変換してくれるものである。もう一つはリアルタイム配信である。Webサイトの重要情報、例えば緊急災害時の避難所情報などを、リアルタイムで好きな場所に割り込んでプッシュ配信できる。大きな特徴は他社のサイネージにも割り込めることであり、例えば犯罪者の画像を一斉表示するようなことができる。

事業化までの困難と、始動による支援

那須氏
那須氏

事業化までの道程は厳しかったと想像される。ベンチャー企業、中小企業、大企業それぞれの難しさがあったはずだが、「始動」がどう役立ったかをお話し頂きたい。

菅氏
菅氏

弊社には新規事業部がない。新しいことを立ち上げた経験があるのは、創業者一族メンバーだけであり、アドバイスを社内から求めることができないという難しさがあった。「始動」には、同じ立場のメンバー、事業を立ち上げたことがあるメンバー、経験豊富なメンターがおり、目から鱗のアドバイスを多く頂き、早々にアイデアをピボットできたことがよかった。

竹上氏
竹上氏

新規事業セクションで困るのは既存事業からの批判的・否定的な反応だ。既存リソースを活かせているか、貴重なリソースを本当にそこに割り当てるのか、遊んでいるのではないかと言われることもある。「始動」を通じて精神的な胆力が身に付いた。「始動」に参加している経営者、ベンチャー企業と話すともっと苦労しており、忍耐力と継続力で続けている。例えばパナソニックの本間社長も、美容家電事業は3年くらい失敗の連続だったと仰っていた。そんなことでくじけてはだめだと思えるようになった。

那須氏
那須氏

菅さんからも、会社の役員会では後になるほどどんな質問も受けられるようになったと聞いている。

菅氏
菅氏

「始動」では100人以上からの質問に受け応えする機会があり、出尽くしたのではないかというくらい質問があった。本番の役員会での質問も、「始動」で受けた質問ばかりで、すらすら回答できた。

吹野氏
吹野氏

「始動」に出る前は小さなことを考えていた。3人で今までやれないことをやり、売上も4千万くらいあればいいと考えていたが、そうではないと気づかせてくれたのが「始動」だった。こういうお客さんがいて、こういうニーズを解決できて、こういう社会課題がクリアになるなら、その市場はもっと大きい、それならばもっとチャレンジしろと激励してくれたのが「始動」である。

始動でできた、つながり

那須氏
那須氏

「始動」の横のつながり、縦のつながりは深く、そこが励みになったと聞くことが多い。

吹野氏
吹野氏

良い志をもった友人ができたことは非常に大きい。このILSでも、初日、二日目と始動メンバー同士で相談しあった。チョーヤの菅さんとは、大阪イノベーションハブで一緒にメンターをしており、世代を超えたつながりができてきた。

菅氏
菅氏

始動メンバーはいい意味でのライバルである。やっている人からは物凄いスピード感が伝わってきて、自分ももたもたできないという思いになる。社内で閉じこもっているだけではこのスピード感でやっていけなかったと感じる。

吹野氏
吹野氏

みんなが頑張っているのを見ていると、自分を律せられる。

竹上氏
竹上氏

刺激もそうだが、「始動」はイノベーションを起こすことをテーマに集まっており、そういう志を持った異業種の方とネットワーキングできるのが非常に良い。自身もサイネージ事業の延長で、色々なメーカーや、全く切り口が違う会社で同じ志を持った方とスピーディにアイデア交換をしている。また、違う会社の社内研修に混ぜてもらうこともあり、知の交流ができている。

参加前後のDoer度合いの変化

那須氏
那須氏

「始動」の合言葉でもあるが、「始動」への参加がきっかけで、これまでよりもっと顧客の話しを聞いたり、ユーザの声を拾いにいったりするようになったと聞く。

竹上氏
竹上氏

行動の質、時間の使い方が変わった。大企業では、社内を説得するための材料を作ることが多いが、それでは顧客の求める本質的価値からずれてしまうので、なるべく社外で時間を使うようになった。例えば情報収集をする際、これまでは同業界の展示会などに行くことが多かったが、違う業界を見てどんな社会課題を解決しようとしているのかを見るようになった。

菅氏
菅氏

街頭インタビュー、外国人へのインタビューをしている。外注してしまいそうな調査も自分の足でやってみるというのは学びになった。

吹野氏
吹野氏

プロダクトを世界に出そうということが、会社で決まってきたことが一番大きい。東海地方はモノづくりが盛んで、あの周りで仕事をしていれば会社が成り立つので、それで満足してしまうこともある。そうではなく、東海地方からアジア、世界へどうプロダクトを届けるか考えるようになり、やるべきことが大きくなった。

始動の魅力

那須氏
那須氏

最後に「始動」の魅力を一言で言うと。

竹上氏
竹上氏

従業員の多い会社にも、志を持って新しいネタを考えている人がいる。社内にいるとその炎が消えてしまうかもしれないが、「始動」に参加することで大量の燃料を注いで大きくしてくれる。事業計画には、最高のメンバーから直接指導をもらえる。自身も散々言われたが、それだけ広い観点、視野、価値観、ネタを持っている人が集まっている。ネタを持っていて志がある人とは、是非、同じメンバーとしてつながりたい。

吹野氏
吹野氏

自身も辛辣なコメントを数多くもらった。メンタリングだけでなく始動メンバーからも厳しい声をもらえる。一人の個人、イノベーターとしてどう生きて行くかは、ベンチャーも大企業も関係なく、志をぶつけ合って磨き上げられる。自身の回りに250人近い熱い人がいると思うだけで心強い。

菅氏
菅氏

キャッチフレーズであるThinker to Doerを最初に教えられるが、全編を通じてその内容になっている。自身はこれまでPDCAのPから始めることを教わってきたが、行動が遅いことも自覚していた。始動には行動の早い人が多く、DPCAになっていた。今はDoから始めている。Doでやってみて失敗すれば次に何をやるか決まる。動きが早くなった。正にThinkerからDoerになれることが「始動」の魅力である。

パネルディスカッション
「未踏プロジェクト」の成果と展望

【概要】
経済産業省では、2000年から「未踏プロジェクト」(以下、「未踏」)を実施し、1,500名超のクリエータを輩出してきた。「「未踏プロジェクト」の成果と展望」では、「未踏」の卒業生とプロジェクトマネージャーをお招きして、同プログラムの魅力について伺った。
パネルディスカッション/「未踏プロジェクト」の成果と展望/スピーカー
スピーカー*写真左から
【モデレーター】
東京大学 名誉教授 未踏事業統括プロジェクトマネージャー 竹内 郁雄氏 

【パネリスト】
KDDI株式会社 ソリューション事業企画本部副本部長 クラウドサービス企画部長/未踏事業プロジェクトマネージャー 藤井 彰人氏 
メディアアーティスト 筑波大学助教デジタルネイチャー研究室主宰 Pixie Dust Technologies CEO 落合 陽一氏 
Takram 代表取締役 田川 欣哉氏

未踏プログラムについて

竹内氏
竹内氏

東京大学 竹内氏(以下、竹内氏):
「未踏」は2000年にミレニアム事業として始まった。ミレニアム事業で現在も続いているのは「未踏」だけである。「日本にもビル・ゲイツを」といううたい文句で始まり、これまでに1,500名超の未踏クリエータを輩出してきた。分野はシステム、ソフト、アプリ、ハードまで多様であり、卒業後の進路は起業、アカデミア、企業にほぼ等分される。現在も毎年20~30名のクリエータを輩出している。採択されたクリエータはプロジェクトマネージャーのもとで自由に研究開発を進める。成果は日本版バイドール法により本人に帰属し、それをもとに起業する人もいる。

自己紹介

田川氏
田川氏

Takram 田川氏(以下、田川氏):
「未踏」には2回採択された。「未踏」では、プロジェクトマネージャーが、若手の研究者やアイデアを持っている人を、その人の価値観で自由に選び、予算がつき、半年で開発する。自身は当時20代で、デザインとエンジニアリングを混ぜたようなアイデアを持ち込んだが、コンピュータサイエンス分野の人もいた。最強の動物が集まって園長が鞭でたたくようなイメージ。異種格闘技で、それぞれの得意なフィールドがあるが、そこから引っ張り出されて、合宿やプレゼンをして、思ってもみないコメントをもらう。面白いのは、勝ち負けがはっきりしていることで、スーパークリエータに選ばれるかどうかがモチベーションになり、そこで切磋琢磨する。半年でかなりストレッチさせられた。戦った仲間が同窓生になるのもその仕組みの面白さがあるからだ。

落合氏
落合氏

メディアアーティスト 落合氏(以下、落合氏):
大学2年生で応募して3年生で採択された。スーパークリエータを取らないとまずいという肌感覚はあった。社会は正解な人を評価するが、20代前半に評価基準のない中で勝つ方法を模索する経験はこたえたし、パワーが出た。何もわからない中でものを作るのが楽しいと思っていたが、自分がものを作ってお金もらえることがわかった。大学に行きながらお金を稼げるようになり、お金をもらいながら研究する大切さ、ファンディングに対する意識が身についた。

藤井氏
藤井氏

KDDI株式会社 藤井氏(以下、藤井氏):
「未踏」では、学生が応募し、プロジェクトマネージャーが審査して採択し、9ヶ月育成して最後に成果報告会をする。特に優秀な人はスーパークリエータに認定される。育成期間の間に何回か合宿をし、プロジェクトマネージャーは月に1、2回個別ミーティングで指導して最終日を迎える。自身はプロジェクトマネージャーとして2009年から参加したが、クリエータのパワーに触発されてはまっていった。「未踏」は、シリコンバレーと同じ匂いがする動きができている。卒業生が活躍しているのは、2000年からできた未踏クリエータのコミュニティが相乗効果を出しているからで、お互いに助け合ったり情報交換したりして、スターを更に高いステージに上げている。これまでは、事業成果が出ているのか、という話しばかり聞いていたが、今はそれを聞かれても怖くない。

田川氏
田川氏

テックベンチャーで可能性がある、ユニコーンくらいになりそうなのは、ほぼ「未踏」の人という感じ。スマートニュースの代表、プリファードネットワークスの社長と副社長、グノシーのCEOも「未踏」出身である。

未踏コミュニティ

竹内氏
竹内氏

1,500名の卒業生が未踏コミュニティを作っており、同期も上下のつながりも強い。合宿ではOBOGがクリエータと同じくらいの数呼ばれて、激しく情報交換する。お互い切磋琢磨しながら成長していき、縦のつながりが深くなっていくので、同期だけでなく大きなマスとしてコミュニティが成立している。プリファードネットワークスの社長も「未踏」出身で、尖った集団をトヨタなど大企業がオープンイノベーションに使っている。

藤井氏
藤井氏

「未踏」のエンジニアのコミュニティが、更にその下の若手学生を育てていく。このよい循環がITの層の厚さを作る。

落合氏
落合氏

TakramはTakramで、うちはうちのラボでエコシステムがある。未踏クリエータが独自のエコシステムを色んなところで作り始めている。未踏マフィア化している。

田川氏
田川氏

うちにもスーパークリエータが4人くらいいる。

落合氏
落合氏

うちにもスーパークリエータが2人いる。今は、「未踏」第2ステージになっている。「未踏」出身者が独自に作ったコミュニティで出てきた若手が認印を押すようになっている。バージョン2のような面白いバトルになっておりドキドキしながら見ている。

藤井氏
藤井氏

最近はもう1層下の、「未踏」に応募してくる人を教育、トレーニングするコミュニティを「未踏」の卒業生がやっている。多層のコミュニティを構成しているのが最近の動き。

落合氏
落合氏

僕が開催したワークショップに応募した小中学生のお子さんが、次に応募するのが未踏ジュニアという面白い流れができている。

イノベーションと未踏

藤井氏
藤井氏

「未踏」のクリエータは、育成期間中にはそこまで事業プランを書かない。それをやると角が全部取れてしまう。ビジネスの発展性は最大限に活かしたいが、事業プランまではやらない。それがクリエータの伸びる力を開花させている。採択する際にスーパークリエータになるだろうと思って採択してもだいたい外れる。何が伸びるかわからない中で、コミュニティで鍛えられて伸びて行くのが「未踏」である。種をビジネスとしてどう伸ばせるか、回りのサポートで引っ張り上げてほしい。

田川氏
田川氏

「未踏」が素晴らしいのは、組織やプロジェクトではなく人物に予算をつけているところである。人物の可能性にかけるプロジェクトで、更にその人物のセレクション基準はプロジェクトマネージャーの価値観に委ねているのが面白い。目利きのフィルターをかけて選ぶのが大事だ。企業がオープンイノベーションをやるときも、目利きを介在させたり、名伯楽だったりする。また、若手がぐっとくる、エンゲージメントが高まる要素は2つ。1つは学習意欲、好奇心で、この場所は圧倒的に伸びるという環境を作ることでストレッチする。特に若手は化ける可能性があり、「未踏」ではそのケミストリーのメカニズムが設計できている。2つ目は、伸びることが活躍に直結するかである。ビジネスプランは関係ないと言いつつ、先輩でベンチャー企業を作って成功している人が見えているので、成功が他人事でなく感じられる。ここで成果を出せばファンドが付くかもしれない、というのが見えてやるのはかなりインセンティブになる。その元を辿ると、「未踏」の基軸に人物があるのがコンセプトだということだ。

落合氏
落合氏

異種格闘技戦なのに勝敗をつけることが、日本社会には必要。しかもそれが金で評価されるわけでもない。スーパークリエータというタイトルには興味がないが、勝負に勝つのは好き。ゲームになってはいるがルールがない状態は好み。そういう人材をどれだけ育てられるかが勝負になる。ルールが決まっている中でどう勝つかという勝負がビジネスでは増えてくる。ルールがない中で、自分でルールを作ってその中で気持ちよくなるように制度設計しながら戦うことは、社会に出ても教えてくれない。それを20代前半に分かると生き方がブラッシュアップされる。

落合氏
落合氏

未踏減税を提案したい。未踏クリエータが立ち上げた事業者の法人税を安くしてはどうか。起業支援の金を出すより税金を安くしたほうがよい。助成金は使い切って終わってしまう。本気でやろうと思っている人には減税のほうが重要。CTOに未踏事業の人を置きたくなり、テックベンチャーが育つ。数十億円もらって利益を出しても税金を払わないでよい特区を作るよりは、人に根ざしてその企業を重用したほうがよい。

未踏クリエータ

藤井氏
藤井氏

最初はプロジェクトマネージャーとして、提案書ベースで採択することにしていたが、だんだん改心した。9ヶ月の育成期間があるが、絶対に必要なのはパッション。最低限の提案書は必要だが、本人に「世の中変えてやろう」、「こんなに面白いのになぜわからない」というパッションがないと伸びていかないし、もたない。例えば、「マーケットがこれくらいあるからこの提案で10%リーチして売上がこれくらいで」というプレゼンもあるが、そうでなく「君は、本当は何をしたいのか」をプロジェクトマネージャーのときは必ず聞くようにしている。そうでないと9ヶ月間でさえもたない。これをやりたかったから頑張るという気持ちにならない。人物で選ぶというのは凄く重要だ。

田川氏
田川氏

どう考えてもエネルギーレベルが高い。そういう人を巻き込んでいくのがベンチャー。テクノロジーもあるが、優秀な人はそういうのに巻き込まれて渦になっていく。人物の魅力も含めてエネルギーレベルの高い人をどれだけ見つけられるか。それをテックの領域でやるのが「未踏」。

藤井氏
藤井氏

インタビューをしたときに、未踏事業はこうあるべきだと主張して来た人がいた。採択した。ビジネス的には成功してないが新しいことをやっている。

落合氏
落合氏

「未踏」の採択者で、C言語を覚えるより先に国際会議の応募が通った人がいた。パッションが凄かった。プロジェクトマネージャーは内なる炎を見つける能力が高い。

終わりに

竹内氏
竹内氏

最近お付き合いした会社で、「未踏」のような尖った人を尖ったまま使いたいという社長が結構いる。こういう人といかにうまく付き合って、彼らのパワーを引き出すかを是非考えてほしい。

田川氏
田川氏

こういう話しをし続けて「結果はどうなのか」と言われ続けた10年間だった。しかし今はグノシーなども出てきて、ロジックはわからないが、結果として出てきている。政府も企業も興味を持っていただいて、真似をするなり、大きくするなりして、やり続けてほしい。この動きをどんどん加速するようお手伝い頂きたい。

落合氏
落合氏

「未踏」のようなプログラムを使うのに重要なのは、父性とテンプレート化。テンプレート化して頭を使わない作業に落としてやること、それと自動化。その3つを会社内で仕込むと、尖っていても誰にも迷惑がかからない。

藤井氏
藤井氏

成果報告会が2月にある。まずはそこに参加していただいて、いいアイデアがあれば会社の中で使ってもらってもいいし、エンジニアに注目して人を採用してもよい。是非、「未踏」で検索して頂ければありがたい。

イノベーション政策
ベンチャー支援政策の今後

イノベーション政策/ベンチャー支援政策の今後/スピーカー
【スピーカー】
経済産業省 経済産業政策局 新規産業室 新規事業調整官 石井芳明氏  

政策の今後

経済産業省のベンチャー、イノベーションの関係の政策について、今後、どう進めていくかをご紹介したい。
2013年に成長戦略が打ち出されて、政府が一貫してイノベーションの促進ということを政策の柱にしている。日本再興戦略のなかで、産業の新陳代謝とベンチャーの加速についてうたっている。直近の「未来投資戦略2017」でも、イノベーション、ベンチャーを見出す、好循環の仕組みをつくっていくのが大事である。
現在の状況をみると、第四次産業革命により産業がどんどん変わっていく状況になっている。これにより、米国、欧州、アジアなどで、イノベーションの競争が起こっている。IT、バーチャルの世界では、日本は遅れをとったものの、まだまだ勝ちにいける。
このようななか、経済産業省で掲げているのが、Connected Industryという考え方で、既存のいろいろな事業で、ITを取り入れる、IoTを取り入れる、AI、ビッグデータの解析をとりいれることにより、より強い産業に生まれ変わっていくことを進めたい。さらに、それを人々の暮らしに取り入れることにより、より豊かな暮らしが生まれてくるというのが「Society 5.0」という政府が提唱している考え方である。
少子高齢化などの社会課題をイノベーションにより解決していくことが大事で、政策を打ち出している。
エコシステムという面では、大企業だけではなく、ベンチャーや大学などのセクターが共存共栄していくようなシステム、生態系をつくれないかということ。特に、力を入れているのがグローバル展開で、世界のイノベーションが起こっている拠点との繋がりをつくっていく。それから、人材育成のプログラムでは、「未踏」や「始動」などで、イノベーションの担い手をつくっていく。さらに、ILSもそうだが、オープンイノベーションを進めていく予定である。
それに加えて、規制緩和、政府調達、気運の醸成、手続きの簡素化などを、政府自ら変えていく。

プロジェクトの紹介

グローバル展開では、世界のイノベーションの拠点に、エッジが立ったベンチャー企業を派遣する「飛躍 Next Enterprise」というプログラムである。シリコンバレー、シンガポール、オースチン、ヘルシンキ、ベルリンなどのイノベーションの拠点と繋がっていくということ。これによって、日本ではベンチャーがあるということを世界に訴えていく。これまで、日本から情報発信が充分ではなかった。この他にも、JETROなどを中心に様々なプロジェクトが実施されている。
人材育成では、「始動」もそうだが、ドゥアーというように行動する人材をつくる。大企業、ベンチャー、大学、自治体など、所属は問わず、イノベーションを起こしたいという人材を集め、日本の第一線の経営者、投資家、コンサルタントから薫陶を受けて育っていくプログラムを実施している。「未踏」についても、さらに強化していく。

成長促進、ファイナンスの面では、中小企業基盤整備機構、NEDO、デッドファイナンスでは、日本政策金融公庫、DBJ。エクイティでは、産業革新機構、クールジャパン機構といった政府のプレイヤーがどんどん動いていく。技術開発では、特にNEDOにおいてプログラムを強化しているし、身近な資金調達であれば日本政策金融公庫、グローバルに戦う企業のリスクマネーでは、産業革新機構が引き続き、お金を入れていく。

エコシステムをつくっていくうえで非常に重要な要素は、オープンイノベーションであり、日本においては大企業がオープンイノベーションに取組んでいけるかどうかが大きなポイントになっている。この第5回ILSもその一環であるが、最初の回では千人程度であったが、今回は6千人を超えている。マッチング参加者も、最初は担当者であったが、今では事業部門の役員、あるいは経営者自らお越しになるケースもあり、かなり大企業の真剣度が増してきたと思っている。この動きをさらに強化していきたいと考えている。この分野においては、制度論よりも運動論が重要である。

経営者100人の委員会である「イノベーション100委員会」は、オープンイノベーションの手引書を書いて提案している。この委員会には、現在30者余りの経営者が入っているが、効率と創造といった2階建ての提案をしている。これは、既存事業は大事であるが、新しい事業をしっかりやっていく仕組みをつくること。特に大事なのは、新しい事業を決める時の意思決定、事業の評価、人事評価、キャリアパス創造といった仕組みづくりを経営者がやるということを提案している。もう一つは、若手を含めてイノベーションに取組む人が試行錯誤できる仕組みをつくること。さらに、組織内外の壁を乗り越えるということも発信していただいている。

具体的な方策は、イノベーション100委員会の報告書に掲載されているし、委員会の模様をメディアでも公開しているので、興味がある方は、それらの情報にアクセスしていただき、内容をみてヒントにして欲しい。

事業会社と研究開発型ベンチャーの連携について、まず、基本戦略を決めてベンチャーとの連携に取組んでいく。どの分野、規模、期間なのかを双方が理解した上で進めることが大事であり、その全貌を確認して欲しい。
大企業とベンチャーが連携する際の基本的な考え方を3つ紹介したい。1点目は、画期的なイノベーションは正しいプレイヤーから出てくるということ。往々にして、大企業からベンチャーをみると、技術力が低い、製品の完成度が低いといったように下位にみがち。日本企業の傾向として、ここを疎かにしてしまい、出遅れてしまう。伸びる芽として伸ばしていくというストーリーを会社の経営方針として描けるかが大切である。2点目は、成功の確率は低いということ。ベンチャーキャピタルが投資する事業でいうと、ホームランが出る確率は1割。予め、原因が全く違うということを理解して仕組みがつくれるかどうかがポイント。3点目は時間がかかるということ。先ず、失敗事例が出てくるなかで、我慢できるかどうか。そして、続けることで成功を得ることができるかどうかが勝負。予め、事業の期間をしっかり決めて、失敗しても事業を続けることが大事。

政府としても自ら活動していく。規制改革ではグレーゾーンの解消の他、特定のエリアで特定の産業を対象に規制を変える試みを進めていく予定である。それから、政府調達では、政府自らベンチャーからの調達を加速する。例えば、群衆のなかの危険者の特定、水難救助、自動車の安全な停止など、政府のニーズに対してベンチャーからの提案を待っている。また、それを応援する大企業からの提案を待っている。それから、オンラインシステムなどを活用して手数料の簡素化も進める。実際には、日本ベンチャー大賞の募集を新しいシステムでやっていく予定であり、幅広い応募をお願いしたい。

イノベーション、ベンチャーを生み出す持続可能な好循環をつくっていきたいので、支援策をご活用いただきたい。また、ご提言も遠慮なくお願いしたい。