オープンイノベーションは異業種間の交流や提携によってイノベーションを生み出すものであり、ビジネスを成功へと導く鍵となることが期待されます。
本記事ではオープンイノベーションがなぜ注目されているのかについて解説しています。また、成功させるためのポイントや、どのようなことに活用できるのか、ILSが生み出した国内大手企業と国内外のスタートアップとのオープンイノベーションの具体的な活用事例なども併せてご紹介します。この記事を読めば、オープンイノベーションの活用方法やメリットがわかるでしょう。ぜひビジネスで活用してみてください。
オープンイノベーションとは
オープンイノベーションとは、イノベーションを達成するために、自社以外も含めたあらゆるリソースを活用して市場機会の増加を目指すことです。欧米企業と比べて日本企業は実施率が低いものの、注目度は上がってきています。
NEDO・JOIC「日本におけるイノベーション創出の現状と 未来への提言(概要版)」
概要と目的
オープンイノベーションの意義は、自社内のイノベーションの効率化にあります。内閣府でも、オープンイノベーションは、自社内外のイノベーション要素を掛け合わせることにより、できるだけ短い期間で最大の成果を得ることと定義されています。
内閣府「オープン・イノベーション」を再定義する ~モジュール化時代の日本凋落の真因~
このように、社内外の豊富な知識や技術を共有することで、新たな発想や技術革新につながることを目的としています。これまでも日本企業はイノベーションによって新しい技術を生み出してきました。
近年はITツールの進化や、目まぐるしい社会環境の変化から、自社のリソースだけでイノベーションを起こすのは困難です。こうしたことから、企業においてオープンイノベーションを取り入れることには意義があると考えられます。
背景と日本におけるオープンイノベーション
最初にオープンイノベーションという概念が言及されたのは、2003年の米ハーバード大学経営大学院の教員であったヘンリー ・ チェスブロウ氏による発言です。
チェスブロウ氏は「Open Innovation -The New Imperative for Creating and Profiting from Technology」の中でオープンイノベーションを次のように定義しています。
オープンイノベーションとは、 組織内部のイノベーションを促進するために、 意図的かつ積極的に内部と外部の技術やアイデアなどの資源の流出入を活用し、その結果組織内で創出したイノベーションを組織外に展開する市場機会を増やすことである。
引用:NEDO「オープンイノベーション白書 第三版」より
かつてのイノベーションとは、既存モデルを改革して、市場に対してインパクトを与えることだと考えられてきました。しかし、2000年を境に消費者のニーズの多様化が始まりました。また、プロダクトサイクルの短期化、予測困難な時代への突入といった要素も生まれています。
こうしたことにより、従来のやり方ではイノベーションを起こすのは困難になりました。実際に日本でも90年代以降、研究開発効率は急速に低下し、閉鎖的なやり方ではイノベーションに限界があることが明らかになってきています。
クローズドイノベーションとの違い
オープンイノベーションの反義語として、クローズドイノベーションという言葉があります。クローズドイノベーションとは、自社のリソースだけでイノベーションを起こすことをいいます。
自社が持つ知識や技術を基にしてイノベーションを起こすことが、これまでの日本企業における特徴でした。ただ、開発の過程が極めて閉鎖的であるという問題点がありました。また、イノベーションが一定のレベルでストップしてしまう、といったデメリットも指摘されています。
今日の社会では、ITツールを駆使してあらゆる情報にアクセス可能です。そのため、特定のリソースに依存してしまうことは望ましくなく、オープンイノベーションが国内外で注目されています。
オープンイノベーションのメリット
オープンイノベーションには、企業のビジネスを促進させるさまざまなメリットがあります。メリットをきちんと考え、適切なやり方で進めることでオープンイノベーションを成功へと導くことが可能です。
スピードの向上
オープンイノベーションにおける最大のメリットは、事業スピードの向上です。自社だけではなく、外部の組織や機関のリソースを取り入れることにより、事業推進の促進が期待できます。
新しい事業を推進しようとする際、自社のリソースだけでは新しいアイデアが生まれません。場合によっては、事業が立ち行かなくなってしまいます。外部からのリソースや考え方を取り入れることで、効率的に事業を進めるための方法を活用することが可能です。それだけでなく、立ち上げにかかる時間を大幅に短縮させることもできます。
また多種多様な情報を取り入れることは、消費者のさまざまなニーズの発見にもつながります。。企業を取り巻くビジネスの環境が目まぐるしく変わる今日では、事業スピードは重要です。新しいビジネス環境に対応できるように、オープンイノベーションを取り入れていくことが必要となります。
コストの削減
多くの企業において気になるコストの問題も、オープンイノベーションによって解決することが可能です。外部からもたらされる知識や技術は、短期間での開発やコスト削減のきっかけになります。
今までに着手したことのない事業に取り組むとなると、多大な時間とコストがかかってしまいます。事業の基盤が整っていない状態であれば、まずは外部のアイデアや技術を導入することから始めるのが得策です。
外部から新しい人材を確保したり、新しいアイデアや技術について学んだりすることにより、事業が推進しやすくなります。特に製品開発においては研究への投資コストを大幅に削減できるため、その分の資金を他に回すことが可能です。またコスト削減について悩んでいる時は、他社の事例から学ぶことが問題の解決につながりやすくなります。
新たな技術やアイデアの蓄積
これまでに自社にはなかった革新的な技術やアイデアを獲得できるのも、オープンイノベーションの大きなメリットです。イノベーションを起こそうとなると、限られたリソースだけでは限界があります。そこでさまざまな業種と連携して事業を進めることで、これまでには思いつかなかったアイデアや革新的な技術について知ることができます。
自社だけではなく、他社が持っているアイデアや技術を取り入れることで、そこから新しい技術を生み出すことが可能です。そして獲得された技術は、携わった企業や人材に蓄積されていきます。新たな技術やアイデアの蓄積は、今後の事業促進において、大きな貢献が期待できます。
オープンイノベーションのデメリット
事業スピードの促進や新たな技術の蓄積といったメリットがある一方で、オープンイノベーションにもデメリットが存在します。ビジネスにおいてオープンイノベーションを成功させるためには、デメリットも考慮に入れておく必要があります。デメリットを最小限に抑え、オープンイノベーションを成功に導きましょう。
情報漏洩リスク
前述したように、オープンイノベーションを起こすには、外部との協力が必要不可欠です。しかし、外部と技術やアイデアを共有することは、同時にそれらを流出させてしまうリスクを持ちます。
特に機密性の高い情報は、意図的に流出される可能性があり、流出したことによって競合他社の模倣戦略により市場でシェアを奪われるおそれがあります。そのため、オープンイノベーションを推進するにあたっては、技術やアイデアの取り扱いに十分に注意しなければなりません。
具体的には、会社内で技術やアイデアについての取り扱いについてルール作りを行い、外部に公開できる範囲を限定しておくなどが有効です。機密性の高い情報がある場合は、前もって流出しないようにルール作りをしておきましょう。
利益率低下
たしかにオープンイノベーションは、他社と協力して事業スピードを促進できるというメリットはありますが。しかし、協力は利益率の低下につながりやすいです。オープンイノベーションを推進していくにあたっては、利益配分や費用負担について協力する企業ときちんと決めていくことが必要です。
クローズドイノベーションであれば、自社だけですべて事業を行います。そのため、実質的に利益を独占できますが、オープンイノベーションの状況によっては利益を分け合わなければなりません。このようなデメリットがありますが、クローズドイノベーションで費やす時間やコストが削減できることを考えると、メリットの方が大きいといえます。利益や費用は大きなトラブルになりやすいため、事業を行う前にあらかじめ企業同士が納得できるように配分を決めておくことが大切です。
自社内の推進力低下
オープンイノベーションには他社が持つ技術やアイデアを活かせるというメリットがあります。しかし、一方で自社での研究開発を停滞させてしまうリスクも存在します。
事業推進の際に必要な技術やアイデアは、すべて他社から教えてもらえばいいという考えは禁物です。そのような考えは、自社で新しい研究を行うモチベーションの低下につながりかねません。
自社における研究開発の推進力が低下すると、競合他社に対する優位性がなくなることにつながります。オープンイノベーションにおいて大切なことは外部に依存しすぎないことです。あくまでも必要なリソースは部分的に活用することに留め、必要な技術開発はきちんと行っていく必要があります。
オープンイノベーション成功のための5つの重要要素
前述したように、オープンイノベーションにはメリット・デメリットがあります。オープンイノベーションを成功させるには、できる限りデメリットを少なくし、メリットを大きくしていくことが大切です。以下の5つの重要要素を念頭に置くことで、オープンイノベーションを成功に導くことができます。
人材
オープンイノベーションを成功させるためには、推進役を担うキーパーソンの存在が必要不可欠です。また、オープンイノベーションを推進するキーパーソンは固定することが望ましいです。
オープンイノベーションでは、外部組織との協力が不可欠です。そのため、キーパーソンが頻繁に交代してしまうと、事業の停滞やミスコミュニケーションといった問題が起きやすくなります。そうなると、オープンイノベーションの継続が難しくなります。オープンイノベーションを推進する際には、トップ層、 ミドル、 現場それぞれにおいてキーパーソンとなる人材を決めておくことが大切です。
発想や考え方
オープンイノベーションを成功に導く際には、しっかりとした発想や考え方を持っていることが重要です。単純に「自社が持っていない技術やアイデアを取り入れたいから」という理由だけでは、外部と協力してもさしたるメリットを得ることができません。むしろ先ほどのような、自社事業の停滞というデメリットをもたらすことになります。
オープンイノベーションはあくまでも、自社が行っている事業や目的を実現する手段に過ぎません。オープンイノベーションが目的化しないように、トップ層から担当者までがきちんと発想や考え方を共有していることが大切です。
市場
ビジネスにおいては、市場の調査は必要不可欠です。市場にどういったニーズがあり、自分たちに何が求められているのかを把握しておかなければ事業を成功させることはできません。オープンイノベーションにおいては、必要に応じて他社が持つ市場に関するデータの活用も検討しましょう。
アイデアや発想を共有することで、今まであやふやだった市場のニーズを浮かび上がらせることができます。さらに外部組織と協力し合うことは、今までは開拓できなかった新しい顧客を獲得するきっかけをつくることにもつながります。
研究
他社と提携していても、自社での研究開発は続けていかなければなりません。すべて外部に依存するのではなく、必要に応じて技術やアイデアを吸収することで、クローズドイノベーションよりも早く安価に研究開発ができます。オープンイノベーションによって得られた経験やノウハウを蓄積しつつ、それを活かせるように研究開発をしていくことが重要です。
知的財産
オープンイノベーションでは、知的財産の取り扱いが非常に重要です。分かち合うことで事業推進の材料として利用できるのはもちろん、自社で使用していない知的財産を他社に活用してもらうことも可能です。
他社から知的財産を分けてもらうばかりではなく、自社が持っている知的財産をどう活かしてもらえるか考えることも重要です。オープンイノベーションでは、知的財産を利用してもらうことで自社に利益が還元されることになります。それだけでなく、新しい研究開発を行うきっかけが生まれる可能性もあります。
オープンイノベーション成功のポイント
オープンイノベーションでの事業成功のためには、
- 明確なビジョンを持つ
- 人材確保と組織構築
- 連携によるスピードアップ
- 適切な支援サービスの活用
という4つのポイントをおさえておく必要があります。これらのポイントをおさえることにより、オープンイノベーションが推進しやすくなります。
明確なビジョンを持つ
明確なビジョンを持っていることは、組織のあり方や新規事業の進行に大きな影響を与えます。どういった目的があって、いつまでに何を具体的に行うのかか、どうしてオープンイノベーションを推進するのかといった明確なビジョンを持つことが必要です。
トップ層から現場まで同じビジョンを共有することにより、方向性のブレを防ぎ、意思決定がしやすい環境を整えることができます。オープンイノベーションでは、社外組織との連携スピードが遅れると事業の進行が停滞してしまう可能性があります。そのため、意思決定しやすい環境は重要です。
人材確保と組織構築
事業において、オープンイノベーションを進めるには人材の確保も重要です。必要となる人材を自社で採用するのはもちろん、他の企業との業務連携、大学や研究機関との産学連携などを通して確保することもできます。
また社内組織の構築もオープンイノベーション推進には不可欠です。オープンイノベーションを推進しやすくするには、既存組織とは別にオープンイノベーション専門の部署を立ち上げることが必要です。自社がオープンイノベーションを進めるにあたっての方向性や課題を組織で分析し、適切な対応策を講じることで成功の可能性を高めます。
連携によるスピードアップ
オープンイノベーションで連携が必要なのは社外組織だけではありません。社内においても、あらゆる組織と必要に応じて連携することで、オープンイノベーションによる研究開発のスピードを早めることが可能です。トップ層から現場に至るまで、きちんと理解と協力を得られる体制を整えておきましょう。
もちろん外部組織に対しても、適切な連携先を見つけたり、円滑なコミュニケーションができたりする環境を構築していく必要があります。このように社内外で緊密なやり取りができる環境を整えることで、業務や意思決定のスピードも上がり、事業や研究開発が進みやすくなります。
適切な支援サービスの活用
新たにオープンイノベーションを推進するにあたって頭を悩ませるのが、連携を行う外部組織探しです。数ある企業から自社の事業に協力してくれる企業を探すのは容易ではありません。
そこで役に立つのがオープンイノベーションのプラットフォームです。プラットフォームをうまく利用することで国内外に存在する数多いスタートアップの中から自社の目的やニーズに合致した企業を探す事ができます。事業に合った支援が得られるように、まずは目的を再確認しておきましょう。
また必要に応じて外部企業との積極的な接触やネットワークコミュニティを形成するなどして、連携しやすい環境をつくっていくことも重要です。
オープンイノベーションの事例
現在オープンイノベーションを実施しているのは海外企業が中心ですが、近年では国内企業でも推進する動きが強まっています。
それに伴い、オープンイノベーションによって事業に成功した企業が増えています。ここではそうした企業の成功事例をいくつかご紹介します。
事例1 花王株式会社
花王株式会社は2021年6月に名古屋大学発のスタートアップである株式会社ヘルスケアシステムズと協力して、自宅で気軽に健康状態を確認できる郵送検査サービスの開発を実施しました。このサービスの開発では花王が持つ「⽪脂RNAモニタリング」技術と、ヘルスケアシステムズが持つ郵送検査の知見が役に立ち、着実に開発が進められています。
花王の⽪脂RNAを常温で安定して保存・輸送できる技術と、ヘルスケアシステムズの郵送検査事業に関するノウハウが研究開発のスピードに大きく貢献しました。一般の人を対象にした実験が行われ、2023年の検査キット発売を目指しています。
ヘルスケアシステムズ×花王「『皮脂RNA』を用いた郵送検査サービスを共同開発」
事例2 三井化学株式会社
三井化学株式会社は「電力を生む発電家」と「電力を買う需要家」が直接売買できるシステムを備えたプラットフォームを提供するスタートアップであるデジタルグリッド株式会社と連携し、再生可能エネルギー導入のためのデータソリューション型ビジネスを実施しています。
この事業ではデジタルグリッドが持つ電力取引のプラットフォームと、三井化学の診断・予測ノウハウが大きく貢献しています。デジタルグリッドでは、すでに再生可能エネルギーを取引するプラットフォームを構築しており、発電量を正確に予測できる三井化学のノウハウがプラットフォーム参加者の増加につながっています。
デジタルグリッド×三井化学「再エネ導入の推進にむけ資本業務提携」
事例3セコム株式会社
警備システム会社であるセコム株式会社は、オープンイノベーション「推進担当」を設置することで、外部組織と連携しやすい仕組みを構築しています。また積極的にアイデアを共有できる場として「セコムオープンラボ」を開催し、議論を通じてさまざまな課題を解決するアイデアをシェアしています。こうした取り組みは、株式会社NTTドコモとの共同による「バーチャル警備システム」、「セコム・ホームセキュリティ」と「Apple Watch」を連携させた「SECOMカンタービレ」アプリなどを生み出すきっかけになっています。
セコム株式会社「オープンイノベーションによる“共想”の取り組み」
ILSでも、行動認識AI技術を持つ株式会社アジラと出会い資本業務提携を締結。アジラ社が独自開発を進める行動認識AI技術を、セコムグループのセキュリティサービスにおける価値向上や、新たなサービスの創出につなげる狙いがある。現在、AIとセキュリティを組み合わせた領域を中心に、顧客からのニーズに対応した個別のサービス開発を進めています。
事例4ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社では2015年7月より、国内外でオープンイノベーションに協力してくれるパートナー企業を募集する「Softbank Innovation Program」を開始しました。提携企業が持つ革新的な技術や、ノウハウとソフトバンクのリソースを活かし、新たな価値を創出することを目的としています。
「Softbank Innovation Program」はこれまでに3回実施されており、AIやIoT、VRなどを活用した事業の推進に大きく貢献しています。企業規模に関わらず、多くの企業と連携してオープンイノベーションを実施しています。
ソフトバンク株式会社「第3回 SoftBank Innovation Programの選考結果を発表」
オープンイノベーションを成功させるために
消費者のニーズの多様化、プロダクトサイクルの短期化、予測困難な時代への突入により、これまでのようなクローズドイノベーションでは新規事業や研究開発の推進が難しくなりました。そうしたことを受けて、国内企業でもオープンイノベーションを実施するところが増えています。
オープンイノベーションを推進させることで、自社にはないアイデアや技術などのリソースを活用でき、事業スピードを促進させることができます。ILS(Innovation Leaders Summit)では大手企業とスタートアップとの新事業提携のための商談会を開催し、第10回実績では大手企業105社、国内外のスタートアップ625社が参加、約1,000件の協業案件が実現しています。オープンイノベーションの推進について悩んでいることがある方は、まずILSのパワーマッチングレポートの資料請求をおすすめします。個別相談会も実施中です。