【概要】
イノベーション100委員会座長である安藤国威氏(JIN常務理事、元ソニー株式会社 代表取締役社長)より、イノベーション100委員会についての説明を行った。
【スピーカー】
イノベーション100委員会座長 安藤国威氏
【概要】
「企業からイノベーションを興す上で経営者の役割とは」では、4名の経営者委員をお招きして、経営者として大切にしている思いやこだわっている行動、推進している取組み、経営者にしかできない役割について伺った。
【スピーカー】*写真左から
日本電気株式会社代表取締役会長 遠藤信博氏
日本取引所グループ取締役兼代表執行役グループCEO 清田瞭氏
第一三共株式会社代表取締役社長兼CEO 中山讓治氏
コニカミノルタ株式会社代表執行役社長 山名昌衛氏
【モデレーター】
JIN専務理事 西口尚宏氏
失われた20年に対する悔しい思いを持ちながら、世の中に貢献する課題解決にグループを挙げて取り組んでいる。イノベーション100委員会の趣旨に賛同し、経営者として日本の産業界の次の時代の発展のために活動したい。
製薬業界は患者さんを治す喜びを共有できる恵まれた産業だが、同時にイノベーションに100%依存している業界。健康は国のインフラであり、国民の皆様の理解なしではこの産業が伸びることはない。医療の問題、抱えている現状をお伝えしたい。
日経平均株価は1989年の最高値から大きく落ちている一方で、時価総額は昨年に最高値を記録した。日本企業も新しい企業がイノベーションを起こしているのだ。イノベーションを生み出す素地について話をしたい。
人間社会に対して価値を創造してご提供するのが企業の役目であり、経営の観点から一番重要なことは、価値創造とその場の継続であると考えている。企業が継続的に価値を創造するということは、イノベーションそのものである。
何のためにイノベーションをやるのか、が大切である。根源的には遠藤さんのおっしゃった人間社会。人間のクオリティや豊かさにおける根源的な課題を発見することが重要ではないか。
製薬会社の場合、価値は明確で、今病気にかかっている人を治せるかが原点である。一方、持続的な経営において問題となってくるのが価格の問題である。国民が、どういう医療を自分たちで持ちたいのか選択していかなければならない段階にある。
安全・安心・効率・公平を軸とした「社会ソリューション」を、ICTで作り上げることによって大きな貢献をしたいというのが弊社の共通認識である。この方向感でICTを磨くとともに、その技術でどれだけ人間社会を豊かにできるかを常に考えている。
コアコンピタンスとなる技術や顧客基盤を組み合わせて、足りないものはオープンにして課題解決をしている。顧客起点で、顧客も気づいていない課題を洞察し、顧客やスタートアップ、大学、政府とエコシステムを作り一緒に解決していくことが重要である。
投資の世界での持続的な企業価値の向上と、ビジネスとして社会に与える価値という2つのものが一体化してきていると感じている。長期に投資してリターンを求める投資家は多数いる。取引所としても、将来の企業価値向上のために長期の資本をリスクマネーとして供給するファンクションが重要と思っており、サステナブル投資に興味を持つ投資家を呼び込むための市場運営をしたい。
イノベーションを継続的に起こす努力、仕組み、文化が企業の中にあることが重要である。またいかに優れた技術であっても、人間社会にとって価値がなければイノベーションとは言えず、人間の本質的欲求を理解することが重要である。更に欲求の動向から、今後求められる領域を推定する能力が重要である。
世界の5極でビジネスイノベーションセンターを立ち上げた。トップから現場まで全員、当社のカルチャーに縛られない外部人材に任せた結果、世の中の技術をうまく組み合わせるなど、これまでできなかったことができるようになった。このように、最初から世界に出て世界の人材を登用するプロセスを作ってきている。
創薬で成功する条件は最先端のサイエンスをどう見出して信じるか、それを支える人をいかに社内で持つかだ。一方で社内だけに拘らない。サイエンスと知恵が結びついたときに画期的なものができるが、知恵者は世界中にいる。サイエンス、人材、リスクマネジメント、アライアンスを駆使し、繰り返しながら千に一つ、万に一つの成功を継続して実現するというのが我々のアプローチである。
取引所では、人手で行われていた売買を全てコンピューターに置き換えた。既にあるものをどう使うかもイノベーションであり、イノベーションは見えないところに沢山ある。フィンテックの波も大きな時代の変化をもたらすと考えており、取引所でも資本市場のインフラ競争力を高めるために必要なミッションと捉え、例えば他社と協働でブロックチェーンの実証実験を行っている。
創薬の世界では、いかにイノベーティブなベンチャーを見つけて、そこと連携できるかが重要だ。ベンチャーは持っている化合物を絶対的に信じており、子供のように思っている。それを大企業側が一方的に切り捨ててはならず、上から目線ではなく、相手の立場や気持ちをわかった上でコミュニケーションを行っていくことが大事である。
連携の前に、成し遂げたいこと、目的を共有することが重要。そこに到達するまでのやり方には違いがある。お互いの違いを認め、相手の立場になって、なぜこだわるのかを聞いた上で、しっかりコミュニケーションをする必要がある。最初はできるだけ目的を俯瞰して、その後はトライしてみないとわからない部分も多い。日本のパートナーでも海外のパートナーでも同じであり、共通のやり方が必要である。
もう一つ大事なのは、気質が合うかが大事である。データに対して真摯に向き合っているか、安全性を十分尊重しているか、何より患者さんをどこまで意識して仕事しているかが一番大事なベースの価値観であり、そこが外れていると上手くいかない。
協力関係を結ぶこと自体に意味があるわけでなく、新たな価値を創り出すことに意味がある。価値の共有が大事である。何のために、どのような価値を一緒に創り出すのか、というところを両社がしっかり腹落ちして共有していなければ、紆余曲折を乗り越えることはできない。AI分野における弊社と東京大学の連携も、ビジョンの共有に非常に大きな主眼が置かれており、人間の倫理観とAIの関係も含めて、相互にビジョンを共有して進めようという話になっている。人間社会はどうあるべきかから外れては、継続的な企業の発展は期待できない。
グローバルな事業といっても、結局は人材がサービスを作る。日本人であろうとなかろうと人材の力をいかに引き出すかが経営である。日本人以外の人材が強いものとして、構想力とデータ解析やディープラーニングなどのサイバー技術があり、これらは日本人の課題と考えている。ただし、人間社会の課題を解決するにはサイバー世界ではなく、最後は現実のフィジカルな世界を良くしていかなければならない。そのために、日本の製造業はIoT時代にふさわしい進化したデバイスを作る力を持つ必要がある。現場でリアルタイムかつ高速に課題を解決する、そのための製造業の将来のあり方を考える必要があり、その際には日本人のいいところや伸ばしたいところを組み合わせて考えることが重要になる。
ICTソリューションの世界では、特にAIの活用は倫理観が重要なファクターになる。倫理観は宗教に根ざすものでもあり、グローバルに倫理観を理解することが重要である。また、新興国と先進国では要求されるものが違う。基本的なところは人間の本質であるため同じだが、必要とされるもののレベル感が違う。グローバルな顧客をどう意識的に分類してソリューションを提供するかが重要である。
市場の仕組みを理解することである。日本では同じお金で名医に診断してもらえるし、いい薬も使えるが、世界的にはこれは特殊である。国ごとに市場の仕組みを意識しながら市場導入をしていかなければビジネスとして成り立たなくなる。
指針3「価値起点の仕組み整備」である。価値起点で事業を作ることが企業にとって重要であり、これが原点である。その意味では、指針1,4,5は仕組み、指針2「経営の増築」はマネジメントのあるべき姿と捉えており、原点の指針3、次に指針2を大切にしている。指針1,4,5はマネジメントの下でどういう仕組みを作るかという観点で見ている。
指針1「変革ビジョンの発信と断行」が経営者にとって重要である。新しいイノベーションを興すための変革のビジョンを経営者が発信し、それに対して社員がどう反応するか、その仕組みまで作らなければ価値が無い。その意味で指針4「挑戦の奨励」と指針5「越境の奨励」が非常に重要である。社員の思考を広げてイノベーションを推進させるため、新規事業を経営陣に直接提案する取組みを現在行っている。
指針2「経営の増築」と指針4「挑戦の奨励」である。イノベーションの核になる人を他のチームとうまく共存させることが大事だ。そのために指針4はかなり意識しており、尖がった人を残しながら、かつ全体がうまく回るように気をつけている。
どれも大事である。変革はマインドセットである。社内が変わることがゴールではなく、お客様さまの変革まで実現しないといけない。そういう会社のカルチャーを作りあげることが重要である。同時に、ビジネスは結果を出さなければならない。それぞれの領域でオーナーシップ、俺がやらないと誰がやるという気持ちを持たせることが重要である。
失われた20年と話したが、日本人のポテンシャルは衰えていない。皆さんが自分で立ち上がって、あきらめず高みを目指してやりきってほしい。また、何もかも一人でやろうとせず、オープンにやることも重要。オープンにやれるための胆力を持った人間力を磨いていけば、すごいポテンシャルがあると思う。頑張ってほしい。
基本は価値観であり、自分が何を成し遂げたいかを常に確認しなければいけない。なぜかというと、ベンチャーやイノベーションは必ず失敗する。しかし、失敗するまでとことん信じてやらなければ、本当の成功は見つからない。そのとき、自分は何の為にやっているのかが支えになる。是非あなたの夢を信じて頑張ってほしい。
イノベーションは難しそうに見えるが、世の中に存在しない新しいものを生み出すのがイノベーションだと考えるから難しいのである。今すでに存在しているもの、技術、知識、議論をどう使うか、使い方が新しいということも十分イノベーションである。誰でもイノベーションは身近にある。ふとしたときに何でもないアイデアをつないで、思いつくこともあるだろう。それを拾い上げて積み上げていくことが経営者として大事だと思っている。
いつもプレゼンテーションの最後にStrong Will and Flexible Mindという言葉を伝えている。例えばセンシティビティを持てと言われるが、生まれながらにセンシティビティを持っている人はいない。何かに注力し、なんとしても価値を創りあげたいという強い意志を持っていれば、自然とセンシティビティが磨かれる。価値創造に対する強い意志を持ち続けること、そして考え続けることが重要である。また、心の柔らかさは、色々な人の意見を聞く能力を高め、かつ様々なところにコンタクトする能力を高める。そういう意味で、いつも皆様にはStrong Will and Flexible Mindと申し上げている。是非この2つを意識して、価値創造を成し遂げていただきたい。