【スピーカー】
ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC) 創業者兼CEO Timothy Rowe氏
イノベーションとは社会で実用されるべきであり、社会的に重要な位置づけとなるものを指す。つまり、次世代の社会的課題の解決や経済に良好な影響を与えることに直結すべきである。例えば、Kauffman Foundationの統計によるとスタートアップは、米国の雇用創出、引いては経済の好循環に貢献している。既存企業の雇用が現状の景気状況に著しく左右される一方、スタートアップは将来的投資として人材採用を実施しており、景気動向が芳しくない時期にも雇用を行い、景気回復後に投資分を回収できればいいという考え方だ。また、同統計では、スタートアップは米国で年間300万件以上の雇用機会を創出しており、スタートアップの存在がなければ米国経済は現状より低迷していたと推測できる。
過去には、ヒューレット・パッカードやスティーブ・ジョブズなどガレージのような閉ざされた場所でイノベーションを産み出してきた。一方、現在はヒトや組織が「集積」する場所でイノベーションが生まれる。別の組織同士が集まることで組織間を超えた情報交換と学びが生まれる。また、人が集まる場所には先駆者的なロールモデルが存在する。リスクを負い挑戦するようなロールモデルが身近にあることで刺激を受け、周りの人間もリスクを負うようになる。 スタートアップが成功するには、資金、アイデア、才能という3つの資源が必要である。日本には資金、アイデア、才能を有する人材が揃っている。一方、この3つの資源を効果的に融合させることが、イノベーション・エコシステム構築のポイントである。
イノベーション・ハブのような場所を東京につくる必要がある。イノベーション・ハブは新しい概念ではなく、ボストンには1800年代より存在していた。例えば、アレクサンダー・グラハム・ベルとトーマツ・エジソンは同じビルで研究を実施していた。日本では、浜松でヤマハやホンダのような世界的企業が生まれており、イノベーション地区の効果であるといえる。CICはマサチューセッツ工科大学(MIT)に隣接する2つのビルを拠点としており、800社のスタートアップ企業が入居している。スタートアップ企業が一箇所に集積することで更なるスタートアップの呼び込みに繋がるだけでなく、VCの投資額も1999年から2016年で140倍になった。
日本のベンチャーエコシステムには5つの改善ポイントがある。①大学は基礎研究に注力し過ぎず商業化とスタートアップの立ち上げに目を向けること、②大企業は製品改良ではなくイノベーションを志向すること、③日本がもっとリスクをとること、④日本のイノベーション地区を集約させること、⑤他の組織の人と協力すること、である。
【スピーカー】
ジョンソン・エンド・ジョンソン
イノベーション ポートフォリオ・マネジメント &ビジネス・オペレーションズ シニアディレクター
Sanjay Vinaik氏
イノベーション創出のプロセスは農業と同様である。まず種まきし、育て、収穫する。その過程の中で互いに学び合うことが必要である。イノベーションを創出するにあたり、大企業はジレンマを抱えることになる。何故なら、まず「何の種」を植えるのかを明確にしなければならないことに加え、イノベーションの種は世界中に点在している他、技術の複雑性も増している。また、大企業はオープンイノベーションにおいて、失敗する確率の高さと従来型の財務モデルでは適用できない現実を受け止めなければならない。イノベーション創出はリスクを伴うものであり、失敗や変革を経て成長していく過程であることをまず受け入れなければならない。その上で、創生期(種まき)に重要な点が、「リーダーのビジョン」、「グローバルに才能を発掘する能力」、「財務エンジアリングや評価」である。
J&Jでは、Chief Scientific Officerが「J&Jにおけるイノベーションとは、世界中のリソースやアイデアを連結・融合できるネットワークを構築すること」というビジョンを掲げている。また、ビジョンを実行する際に、自社のビジネスの将来的な方向性を明確にし、世界の何処を拠点として新しいイノベーションの種をまくかを考慮すべきである。J&Jでは、常に何処が次世代のイノベーションのハブ・スポットとなるか検討しており、これまでにカリフォルニア、ボストン、ロンドン、上海の4拠点を設置している。
育成期では、種をまいた事業のポートフォリオ管理と最適化が重要である。アライアンス・マネジメントの場合、関係者間の共通の成果に注力することが重要である。独自の成功に目を奪われるのではなく、互いの役割と責任を明確にし、適材適所の人材を配置することを考えるべきである。相互に効果的に連携するためには、連携分野に精通した専門家を配置し成果を社内外に共有することも大事である。種をまき成長させる過程の中で重要なもう1つのポイントは、優先順位を決めて対応することである。
最後のイノベーションの収穫期で重要な点は、収穫は早すぎても遅すぎても駄目ということである。イノベーションに向けた能力を組織内で醸成できたと判断した状況で刈入れを行うことになる。
【スピーカー】
株式会社NTTドコモ 執行役員・イノベーション統括部長・工学博士 栄藤 稔氏
新規事業は0から1を創出する。企業が肥大化する程、100を110にするにも困難な状況に置かれる中、0から1を生み出すためには異なる能力を有する人材が必要となる。大企業の場合、既存事業は1階部分で運営する一方、新事業を創出するために2階部分を構築すべきである。0から1を創出できる人材を集め、1階とは別設計で新事業創出に取り組ませる。経営者には、1階と2階の2つの文化をどのように許容しマネジメントするか、その手腕が問われる。
ロッキード・マーティンでは、新事業創出に従事するチームに対しては「Skunk Works」という既存の人事制度とは別の独立した人事評価制度を導入している。実際に同チームからは数多くの画期的なジェット機や航空機が創造された。既存の人事制度では、従業員は新事業に携わることで正当な評価を受けられない、また昇進できないのではないかという懸念を抱く。組織として、「個人をどう尊重するか」、「組織を俊敏にする」、「組織内にイノベーション組織を作る」ことを考えるべきである。
NTTドコモの39worksは創設から2年が経過し、社内外の人材を活用したチームで日々新たな事業創出プロジェクトに取り組んでいる。シリコンバレーのスタートアップを見ると、①ハスラー、②ハッカー、③デザイナーという人種が集まって起業している。新事業を産み出すチームには、社内の人材だけではなく社外のリソースを積極的に取り入れること、さらに個々人にCEOやCTOなど明確な役割を与えることが重要である。大企業の場合、プロジェクトの計画の議論ばかりが為されるが、実際にチームをつくり、プロジェクトを進める中で適切にロールを動かすことも大事である。
スピーカー*左から
【モデレーター】
各務 茂夫氏 東京大学・教授/産学協創推進本部イノベーション推進部長
【パネリスト】
Timothy Rowe氏 ケンブリッジ・イノベーション・センター(CIC)創業者兼CEO
Sanjay Vinaik氏 ジョンソン・エンド・ジョンソン イノベーション ポートフォリオ・マネジメント&ビジネス・オペレーションズ シニアディレクター
栄藤 稔氏 株式会社NTTドコモ 執行役員・イノベーション統括部長・工学博士
日本は大企業が基礎研究、応用研究をしてイノベーションを起こしているのが実態である。
米国も昔はそうだった。80年代になり、科学技術の細分化やコーポレートガバナンスの強化という話が出て、いかにオープンイノベーションをしていくか、という話題が上るようになった。
1999年と2016年のボストンの違い。ボストンが閉鎖的と言われてきたところからどのように変わったか。
文化は変えることができる。もともと持っている力と出来てきた力(ネットワーク)で変革する。米国におけるイノベーションの1番はベイエリアだが、ネットワークの1番はボストンである。ボストンには昔、128という道がありDECなどの会社が並んでいた。問題は会社間の移動に自動車が必要だったことである。今はMITから歩いて5分以内のエリアに大半の企業が集積している。
Googleは色々なベンチャー企業を買収している。M&Aを重ねて自らの企業に取り込もうとしている。外部のリソースをいかに取り込むか。
日本はなかなかM&Aができない環境である。シリコンバレーは人材獲得のために実行することがあるが、これは日本では難しいため一緒に組むことになる。受託ベースでR&Dアウトソースが始まっているように感じる。
イノベーションを起こす人材が興味を持っているのは人的リソースである。買収に目を向けているのではない。最も優秀な人材が中心になって科学を推し進めるという認識がある。J&Jのリソースだけではできない、他社も人材を集積して科学を推し進めるという認識がある。イノベーションを実現するためにコラボレーションをベースにしているのであり買収を前提にしているわけではない。
栄藤さんは大学をどう思うか。
デバイスやバイオ系は大学発ベンチャーが成功を収めている。AIやIOTはビジネス設計が出来ていないといけない。ビジネスの実装と開発が同時に出来ないといけない。
米国ではMITやハーバードはスタートアップの活動が盛んである。スタートアップを立ち上げる練習の場を作ることが大事。ほとんどは人事開発が目標で活動している。Googleで少し働いてから起業するというケースも多い。
米国で大企業と大学の共同開発というと、大学へのアプローチが大事。優秀な人材の確保もコラボレーションの目的になっている。
大企業のイノベーションの拠点がケンブリッジにできた。これは学生の発掘が主目的。世界中の様々な拠点に優秀な人材の獲得のために出向いている。東京も同様になるためには、コミュニケーション能力をもった優秀な人材の輩出が必要である。
組織のなかでいくら制度を作ってもアントレプレナー的な存在がないといけない。
2階建ての組織でないとだめだと思っていた。2階部分にいる人材は真面目に取り組んでいても1階の人からみると遊んでいるように見えるのが現状ではないか。
インベンションがイノベーションになるには伸びしろが必要と言われる。
インベンションがイノベーションになる為には別の才能が必要である。イノベーションをやっている人が傍にいれば出来るようになる。周りがやっているひとが居たら自分もできるようになる。
インベンションが個人とすれば、イノベーションはチームスポーツだと思う。勝つためにスポーツをするならば自分はチームの中で何をしなければいけないのかを理解しないといけない。J&Jが何をしようとしているのか、自分たちの知見を理解することをやっている。薬だからつくるのではなく、患者の役に立つことを理解してやっていかないといけない。自分たちの興味のあるところないところではなく、しっかりと自分たちのやりたい領域で組むべき会社とやっていくべき。
出口シナリオを描いてやっていくべき。技術、ビジネス、創造性の3つを持っている人はユニコーンであり、これらを持っていない人は他の人と組むしかない。