シリコンバレーの最新トレンドとして、「ポストスマホ」「AIファースト」「既存産業の破壊」の3つの軸からご説明したい。
1つ目の「ポストスマホ」について。スクラムベンチャーでは、図のようにスマートフォンを中心として、これからは我々を取り巻く環境すべてが、スマート社会化していくことを想定している。スマホの次にそのスマート社会化の中心を担うのは、自動車、家、店舗の3つである。それらを取り巻くテクノロジーとしてAI、ロボティクス、ブロックチェーンなどがある。
米国では、この自動車、家、店舗において続々と新たな展開がはじまっている。
例えば、自動車の領域ではFordがアマゾンアレクサを搭載し、コネクテッドカーを開発している。自動運転も、Uberの子会社のOTTOが自動運転トラックによる高速道路の長時間走行、そして荷物の配送に成功した。Audiは2017年中に世界初の自動運転レベル3の車を発売する予定だ。スクラムベンチャーズでも自動運転用マップのスタートアップに投資をしている。
家ではAIスピーカーが急速に普及しており、いつ、どの部屋で何をしているかを把握しはじめている。AmazonはLGと共にネットにつながる冷蔵庫をつくり、Walmartは冷蔵庫まで配送するサービスを始めている。
店舗のイノベーションという点ではAmazonが、AmazonGoという無人コンビニをシアトルでテストしている。無人店舗の実現には数年はかかるだろうが、長期的にこの領域は大きく変化する。Adidasは3Dプリンティングでパーソナライズされたスニーカーの販売を始めており、WalmartやEC受取専用店舗などがある。
スマートフォン、そして自動車、家、店舗を中心としたスマート社会化は急激に進んでいる。
2つ目の「AIファースト」。これからはAIがプラットホームとなる時代。今後、ヘルスケア、リテール、モビリティなど幅広い領域に影響を与える。身近な例では、グーグルが40の言語を翻訳、発話できるヘッドホンや、AIが撮影をするカメラなどを発表している。
3つ目は、「既存産業の破壊」。現在起こっている変化は全く新しいものではなく、既存産業をディスラプトする形で生まれている。例えば自動車産業は、UBERなどの登場により製造業からサービス業に変化している。Eコマースの盛り上がりにより、リアル店舗が大量に閉鎖に追い込まれている。米国では既存産業の破壊が目に見えておこっている。
過去最多の770社の日本企業がカルフォルニアに進出した。日本企業がシリコンバレー進出をするための要諦5つをお話ししたい。
まずは、「1.社長直轄」。新規事業部門ではなく、社長直轄組織として取り組むことが大切。例えば、GMは社長直轄組織の活用によって、この業界をリードするようになっている。
次に、「2.独自仮説の検証」。トレンド情報収集ではなく、独自仮説の検証を行う、ということ。現在、ソフトバンクはライドシェアビジネスへの投資など、モビリティの分野で存在感を持っているが、これは独自の仮説をもって、資金を使っているから。
3つ目は「3. 1stカスタマー」。無料トライアルではなく1stカスタマーとして採用することが重要。数千万の小さなお金で良いので、イノベーションのタダ乗りではなく、実際に買うことが大切。
4つ目は、「4.大企業<ベンチャー」。大企業よりベンチャーのほうが優れている、というマインドに切り替えること。ディズニーのような大企業でもスタートアップとの協業を積極的にすすめている。スターウォーズの新キャラクターはスタートアップの技術を中心に作成された。ディズニーのような大企業のコアプロダクトをスタートアップが担う状況が米国では起こっている。
最後は「5.デジタル企業化」。ITの活用に関して、ITベンダー任せではなく、自社がデジタル企業化する必要がある。CitiのCEOは「自らがテクノロジー企業となる」と宣言している。
1〜5いずれもシリコンバレー進出には欠かせないポイントだが、まずは取り組みやすい項目からでも検討してみていただきたい。
HEART CATCH 西村 真里子 氏(以下、西村氏):
どのような活動をしていくとイノベーティブになれるのか、を掘り下げていきたいと思います。まず自己紹介をお願いします。
Plug and Play Japan Managing Partner Phillip Seiji Vincent 氏(以下、フィリップ氏):
Plug and Play Tech Center(以下、PnP)でIoT、モビリティを担当していた。またPnPで唯一日本語が喋れるので日本企業も担当し、PnPジャパンの代表でもあります。PnPはアクセラレータ、インキュベータ、投資家のハイブリッドなモデルで1000万円くらいを投資しています。SVでもっとも投資している件数が多いと思いますが、同時に平均投資額は最も少ないと思います。グローバルにソーシング、大企業を巻き込んでいる、というのが特徴で世界には25の拠点があります。東京は23拠点目です。グローバルという観点では、例えばメルセデスと連携してモビリティスタートアップをシュツットガルトで行ったりしています。
大企業との連携はPnP側から提案をして進めているのでしょうか。それとも大企業から手を上げていただき進めているのでしょうか。
メルセデスのケースは先方からやりたい、ということで始まった。メルセデスの経営陣がSVのPnPに来て、2時間で投資意思決定を行うプログラムに参加した。その内容が好評で、これをシュツットガルトでもやりたい、ということで始まった。
500 Startups Japan 澤山 陽平氏(以下、澤山氏):
500 Startupsはグローバルなシード投資を行っている。2010年からの累計で1,900社以上投資している世界で最もアクティブなシード投資家だ。500〜1,500万円くらいの小さな投資をたくさん行っている。社名の由来も、もともと500社に投資をしようということで500 Startupsである。我々の取り組みで特徴的なのはエコシステムを構築するという点。起業家育成だけでなく、大企業や投資家のための教育プログラムも提供している。日本でも起業家育成、企業向け教育プログラムを行っている。
神戸でアクセラレータをやっているが、神戸はもともと機運があったのか。それとも機運、エコシステムを作りに行ったのか?
神戸市長が500のサンフランシスコオフィスに来て、なにかやれないか、ということで議論を進めた。自治体と連携したプログラムは500としては初である。
World Innovation Lab 松本 真尚 氏(以下、松本氏):
1999年に会社をつくり、Yahooとの合弁をCEOとして指揮した。その後、孫さんとずっと仕事をしており、ヤフーの最後の役職はChief Incubation Officer。ソフトバンクグループでの最後の仕事はインドの財閥と合弁企業を作ることで、Chief India Officerと社内では言われていた。その後、2013年にWilを設立した。大企業のオープンイノベーションを促進するということをミッションとしており、日本には日本の良いところがあると考え、シリコンバレーのマネではなく、シリコンバレーのいいところは取り入れながら日本にマッチした新しいカタチがあるのではないか、という思いでやっている。
大企業にはWilを出島として使ってもらい、ビジネスクリエーション、投資、イノベータ育成という切り口でやっている。失敗をするならWilを使ってもらう、という考え方である。投資の規模はかなり大きい。アメリカへの投資は少額にはなる。LP向けには研修プログラムを提供したり、経産省とは始動プログラムでご一緒させて頂いている。
大企業が嫌がる失敗とは?
大企業は下からあがっていくのでリスクテイクをしないカルチャーになっており、チャレンジできない。与えられたことをやると偉くなるという構造になっている。それではイノベーティブな活動ができないので、何かあったらWilのせいで失敗したよ、というように説明してよいことにしている。
私自身はIBM、アドビ、グルーポンをへて現在の会社を創業した。アドビにいたときFlashを担当していたが、スティーブ・ジョブズがiPhoneにはFlashを採用しない、と表明したことで、これから本格的にスマホファーストの時代に変わることを強く感じた。自分も変わっていかなければならないと感じた。
パネリストの皆さんにお聞きしたいのは、自社のやっていることで他社には負けない、という強みがあれば教えて頂きたい。
0から1ではなく1から10にフォーカスしているところが強みになっている。ある程度プロダクトができていて、チームもある。場合によっては月に少し売上がある、というところにフォーカスしている。01は短期ではどうしようもない部分がある。
皆さんの話を聞いていて、同じところに関心があると思った。その中でPnPとしては場作りを行っている点が強みだと思う。ピッチやパネルディスカッションをやりながら新しいことができる場所をつくっている。SVには年間5万人がくるが、PnPにくれば新しいこと、面白い人に会える、という場所にしたい。
プログラムとしてはWilが一番歴史が浅いが、特に気にしているのはマインドセットのチェンジである。スキルではなくマインドを変えていくということが大事だと考えている。日本の場合は、×がつくことを怖がる。それをまずチャレンジしよう、ということに変えていかないといけない。当たらないかも知れないがバッターボックスに立つこと恐れてはならいない。
SVでは×は勲章として扱われる。失敗しても良い場所だ。
新しいことをすると数をこなすしかない。500で投資している案件でも100億円以上の企業価値になるような成功は5%しかない。小さい失敗を重ねて行くことが重要
日本企業の存在感はどうでしょうか。
存在はしているがインパクトは残していない。PnPは2,000社ほどベンチャーを見ているが、そのなかで日本企業は1,2社程度だ。
わたしも同感である。大企業もスタートアップもである。500のアクセラレータからはこれまでに600社ほど輩出しているが、日本からの参加は5,6社程度ではないか。大企業も例えばデモデイには参加するが、その後に繋がった例は少ないかもしれない。
メルカリの米国CEOはFacebookの戦略担当VPだった。これは存在感を示している例だと思う。また、ソフトバンクは存在感をもっている。過去にわたしは孫さんと仕事をしていた経緯があるが、現在、世界中からの問い合わせのほとんどは、孫さんを紹介して、ということが多い。
存在感を高めるために、どういうことをすればよいか?
情報収集として一人だけ置く、というのはスキップしたほうがよい。チームがいて、ディシジョンメーカーがいるという状況にする必要がある。
バジェットをもち、意思決定できること、長期間いることが重要である。3年位だと厳しい。人間関係で案件がはいってくる。今は良い案件には資金があっても投資ができない状況である。
Wil代表の伊佐山は17年アメリカにいてスタンフォードも卒業しているが、それでも入り込むことが難しい。やはり企業としては人事異動もあるが、コーポレートで引き継げる体制が必要になる。また、シリコンバレーの駐在はピッチャーに当たる。日本のキャッチャーのフォローをしていくことが重要で、担当者レベルでなく、コーポレートとして来てもらうことが重要だと考えている。
日本のエコシステムをどう見ているか?
変わってきているがまだまだ、という印象。大きな資金調達はできないし、大企業と連携も難しい。海外からみると、残念ながらまだまだといったところだろう。
かなり変わってきている。実際にベンチャー投資額の統計をみるとアメリカとは大きな差があるが、拡大している。ただ、日本は2000年頃のトラウマがある。現在の流れを潰さないようにして、失敗することを許容して継続していかないといけない。
フィリップさん、澤山さんはSVからみた日本、ということでWilとはすこし立場が違うかもしれない。日本はかなり改善している。起業家でもExitを経験して二週目、三週目をやっている人もいる。10年前のSVの状況くらいにはなっているのかもしれない。
情報収集は、英語が読めれば日本でもできるので、リサーチではなくてチャレンジが増えていかないといけない。日本には大企業に資金と人材がある。ただ、やることはベンチャーと同じでやはり失敗する。日本の大企業がやるような事業計画書を書いて、その進捗を見る、というのではなくスプリットランをしていくことが大切。100のパターンを書いて、そこから20を選び500万円でいいから張っていく、というやり方で進める必要がある。
スタートアップのグロースに必要なことは?
まずチームが大事。コアチームでどこを目指すのか、をはっきりしておく。コアチームの修正は難しい。
同意見だ。どのマーケットでどの位を目指すのか。
日本は非常に良い場所で、チャンスがある。世界の課題は高齢化。日本でペインポイントを捕まえると世界に通じるかもしれない。
パネルディスカッションのグラフィックレコーディング結果