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新事業創出支援カンファレンス

13:10 キーノートスピーチ

「世界で活躍するプロ経営者の流儀」
~LIXIL社長(アジア人初の米国GE元上席副社長)が推し進めるGE流イノベーションと求められるリーダーシップとは~

 東京大学を卒業後に就職した日商岩井(現双日)から、米国の大手電機機器メーカー・ゼネラル・エレクトリック(GE)に転職したのは35歳の時。これからリーダー、経営者としての力が一番身についていくタイミングだったと思いっています。

 米国では長くシリコンバレーに家族で住み、東海岸と西海岸を行き来しながら、働きました。ジャック・ウェルチ流の経営手法を間近で見てきたこともあり、短期に最大の結果を求める、超株主資本主義の徹底など、私の頭の中はすっかりアメリカンとなりました。そんな生活のなか、リーダーとして何が一番大事かというと、人を育てること、そして、変革を起こすこと。この両輪を回し続けなければ、企業は持続成長できないという要点を学びました。

 そもそも、GEの歴史はイノベーションの連続です。1879年に白熱電球を、1913年に医療用X線官を発明。1927年、世界初の家庭向けテレビ放送放映、1941年、米国初のジェットエンジンを開発、1976年、CTスキャナーを開発――。そうやって、世の人々が必要としているものを常に最初に発明してきたんですね。この世界が直面する課題の解決に常に貢献する企業でありたい。これが、GEの信念であり精神なのです。

 創業者のエジソンから始まり、その後、GEには約130年の間に9人のCEOが生まれ、経営を担ってきました。「成功の核となり、魂となるのは人」。GEの人材育成の基礎は、ダイバーシティであり続け、それゆえ長期的成長が実現したのだと思っています。

 GEは、米国、ドイツ、インド、中国にグロバールリサーチセンターを配置し、世界に2万5000人の技術者と、2500人の科学者を抱えています。優れた技術、サービス、ビジネスモデルは、オープンな多様性のなかから生まれると信じています。世界の知恵を集積させ、リバースイノベーションも大事にする。そんな考えの下、会社として変革を起こす人材を育て続けてきわけです。

 GEで学んだ一番重要なことは、「持続的な事業の成長には強いリーダーが必要」「リーダーの使命は人材育成と変革」。この2点だと思っています。そして私は、25年間、GEでキャリアを積み上げ、今から3年前の2011年8月にLIXILグループのCEOに就任しました。「60歳になったら日本のために何かをしたい」という思いを実践に移したのです。私の持てる力をすべて注ぎ込んで、LIXILグループのグローバル・イノベーションを成功させるために。

 日本に新しい風を送り、新しい文化を創出するための会社として私が選んだのがLIXILグループ。2年前は住生活グループという社名でした。ちなみに、LIXILとは、「住=Living」と「Life=生活」を掛け合わせた造語で、住生活そのものを表しています。その名のとおり、当社は、幅広い住生活分野の、サッシ、外壁・タイル、エクステリア、トイレ・バスルーム・キッチン、内装建材など、幅広い分野の会社が集まったグループ会社です。それぞれ小さな会社が壁を取り払ってまとまった大きな会社となり、大きな影響力を持つ。これがグループ化した大きな理由の一つです。

 住宅やビルなど、生活空間の中には、イノベーションできる場所がいくらでもあります。例えば約50年前に生まれたシャワー付きトイレ。これも大きなイノベーションでした。ただし、住空間でイノベーションが起きると、残念ながら電力需要が大きくなってしまいます。そういった社会問題への対応・対処も大事です。

 米国、英国、そして日本も、早期のゼロカーボンの実現を目指しています。当社は、東京大学生産技術研究所と提携し、エネルギーマネジメントの実証実験を共同で行うスマートハウスの実験住宅「COMMAハウス」を東京大学駒場リサーチキャンパス内に建設。住み心地のよさをしっかり考えながら、様々なデザイン、再生可能エネルギーの技術を用い、ゼロカーボン化に向けた研究を進めています。ちなみに、大企業やベンチャーも含め、20社以上がかかわっている協業体制です。よりたくさんの分野からアイデアを集め、新技術を生み出し、エネルギーを自己生産、自己消費できる住空間をつくりたいと思っています。

 少し話を変えます。LIXILグループの経営ビジョンは、「住生活産業におけるグローバルリーダーとなる」です。長く国内市場を中心にやってきましたが、LIXILとなってからは海外へ積極的に出ていく方針にチェンジ。国内年商1兆2000億円をどうやって2兆円のビジネスにもっていくか。海外年商400億円をどうやって1兆円にもっていくか。国内では新規事業を、一方、海外ではM&Aを促進させる。この2つの戦略でもって、営業利益も高めていく。そんな思いを抱き、3年前に新体制、LIXILがスタートしたのです。

 海外においては、米国で138年の歴史を持つ「アメリカンスタンダード ブランズ」を子会社化し、世界に通用する強い水回りブランドと、北米における広い販売網を獲得。イタリアのハイエンド・カーテンウォールなど建材大手の「ペルマスティリーザ」を買収。さらに、ドイツの高級水栓金具メーカー「グローエ」の買収により、アジア・北米・欧州という三大地域でのプラットフォームを確立。これにより、海外年商1兆円達成の基盤が整いました。

 M&Aをする際のポイントは、対象企業が持つ圧倒的なブランドと製品・技術力、充実した流通網、収益性、そして、何よりも人です。M&Aによる人材の多様化によって、世界中の知が集まります。その知をどうやってうまく結び付けることができるか。それがM&Aおよびイノベーション成功の大きな鍵だと思います。

 もちろん、国内のベンチャー企業との協働も進めています。優れたEDS技術(木材の改質技術)のイー・ディ・エス研究所との事業化推進。ほか、シャープなど大手企業との協働にも取り組んでいます。

 当社には毎日、ベンチャー企業、大手企業の方々が多くいらっしゃり、様々な協働に向けた話し合いが行われています。会社にしろ、人にしろ、私たちが求める共通したポイントは、「自社製品・サービスに対する熱い情熱」「強い使命感とこだわり」「特定分野における幅広い見識、経験」「柔軟な発想と対応」。この4つが挙げられると思います。

 では、イノベーションを起こすリーダーシップとは何なのでしょうか。マイケル・ポーター博士は、「変革は自然には起こらない、特に成功しているといわれる会社では、変革を何としてでも避けようとする勢力が働く」と説明しています。

 実は変革とは、プロセスなのです。今、現状に満足している人には絶対に変革は起きません。では、何を求めればいいのか。世界の素晴らしい人や会社を見て、知り、今自分がいる場所よりも、もっと素晴らしい場所にいきたいと思うことが必要。そして、その場所を仲間に説明し、共感を集め、みんなが動き出すことによって、今よりも高い状態に持っていく。これが変革であり、そのプロセスです。

 GEには、このプロセスを実現するための教育体制があり、チェンジ・アクセラレーション・プロセス=CAPと呼ばれています。イノベーションは生まれながらの変革者しかできないものではなく、誰にでも実現できるプロセスなのです。

 リーダーが持つべき最初の要素は危機感です。外界の変化を常に気にしながら、次の行動に移す準備をする。次に、リーダーが動き出す際、周囲から「どうすればいいのか?」という不安の声が挙がるでしょう。その時に、「ここにいけばいい」という明確な場所を示してあげる。これが「Vision」。そして、共感を生む「Communication」、チームを動かす「Execution」がある。これがリーダーに必要な要素だと思います。

 今、グローバルサプライチェーンがどんどん発達し、世界中の優れた技術が簡単に、すぐに手に入る時代になりました。そんななか、メイドインジャパンだけではもう世界とは戦えません。ビジネスアイデアが生まれたら、常に世界をしっかり見て、世界のニーズを取り入れることを考えながらビジネスモデルを構築すべき。その際に、チームを組むなら、ぜひダイバーシティを意識すること。圧倒的な爆発力が生まれるはずです。

 アイデアはそこらじゅうにあります。シリコンバレーの友人で、10回起業してすべて失敗した人、3回とも成功させた人がいます。私自身も、国内外で多くのビジネス案件に投資しています。そこで、私は何を感じているかといいますと、ビジネスに約束されたものなどない、しかし、だからこそ面白いということ。ベンチャーには大きな夢があるということです。だからこそ、ベンチャーを応援し続けなければならない。LIXILグループのCEOとしてはもちろん、個人としてもベンチャーを支援し続けていきます。

 国内のベンチャーを取り巻く環境を改善させると同時に、「出る杭は打たれる」「2度目の挑戦ができない」などといった、悪しき文化も変えていきたい。米国では、何度失敗してもチャレンジできる文化が根付いています。60歳になっても、70歳になっても、80歳になっても、新しいビジネスに挑戦できる日本をみんなでつくっていきましょう。そんな未来を共に歩み、支えていかれるみなさんと一緒に、私も一所懸命頑張りたいと思います。