東京大学エッジキャピタル 代表取締役社長・マネージングパートナー
グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージング・パートナー
ブレークスルーパートナーズ株式会社 代表取締役・マネージングディレクター
伊藤忠テクノロジーベンチャーズ 投資部 ディレクター
グローバルベンチャーキャピタル株式会社 マネジメントパートナー
早稲田大学大学院ビジネススクール 教授
本日は、たくさんの方々にご来場いただき、誠にありがとうございます。ご来場者の50%が企業の新規事業ご担当者、30%がベンチャー企業の関係者、20%が様々なベンチャー支援ご担当者と聞いています。
このパネルディスカッションでは、私を含め5名のベンチャーキャピタリスト(VC)が登壇し、大企業とベンチャー企業の提携のこれから、また、我々がその仲介者として、どのような支援ができるのかを探っていきたいと思っています。
まずは、昨今のベンチャーを取り巻く状況を共有しておきましょう。①ベンチャー企業への投資が活況を取り戻している ②ベンチャー企業がメディアに取り上げられることも増えており、ベンチャー企業への注目が高まっている ③第四次ベンチャーブームと呼ぶべき状況になっているが、この流れをブームで終わらせないために、ベンチャー企業と大企業のコラボレーションを促進することが重要ではないか。
さらに、ベンチャーと大企業のコラボについて、深堀しますと。①大手企業にとってグローバル競争下、自前だけで全ての事業開発をするのは無理 ②ベンチャー企業との連携もしくはM&Aで事業開発をしたいと本気で思っている(現状には問題あり) ③大企業の資金や人材といったリソースがベンチャー企業と組み合わさることで、ベンチャー企業側も事業成長を加速できる ④ベンチャー企業と大企業、そしてその間をつなぐVCなどの支援者の役割分担が、イノベーション創出のためには重要。そんな問題提起ができるのではないかと思っています。
大企業は、新事業創出を加速するため、ベンチャーとのコラボを進めるべきだということは、双方が納得している認識だと思えるのですが、新事業創出に対する満足度を調査したところ、大企業の7割以上が、新事業創出に満足していないことがわかりました。その阻害要因を調べてきますと、財務的リスクがある、出会いのマッチング機会が乏しい、技術的リスクがある、これら3つが大きな理由として挙げられているようです。そんな前提を踏まえまして、4人のパネリストの方々に、自己紹介を交えて、お話をいただきたいと思います。では、郷治さんからお願いします。
株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝です。本日はよろしくお願いします。私は、東京大学法学部を卒業後、通産省(現経済産業省)に入省し、「投資事業有限責任組合法」起草にかかわりました。その仕事が、私がベンチャーキャピタルの仕組みに始めて携わるきっかけとなりました。
UTECとは、社名に東京大学を冠していますとおり、東京大学の承認する「技術移転関連事業者」として、研究成果や研究人材を活用するベンチャー企業への投資を行うベンチャーキャピタルファンドです。「投資事業有限責任組合法」が1998年に施行され、その後に新興上場市場が整備され、ベンチャー企業のIPOの道が広がったことはよかったのですが……。投資資金の流れはIPO直前のものが多く、技術開発時、研究開発時に必要とされるリスクマネーがなかなか動かない現状を見て、何かが思っていたイメージとは違うという思いがふくらんできました。
2003年、スタンフォード大学経営大学院(MBA)を修了し、帰国した時、ちょうど国立大学が国から独立して法人化されていました。その流れのなかで、大学の技術をビジネス化したり、技術を企業に移転していく動きが始まろうとしていました。大学自身で投資することはできないけれど、大学として「投資事業有限責任組合」をつくりたいというお話をいただきまして、これはぜひやってみたいと。2004年に退官し、UTECの創業に参画しました。2006年からは、当社の代表取締役を務めております。
それから14年間を経まして、これまで3本のファンドを運営しており、50社ほどへ投資しています。私たちの投資先は大学の先端的な技術を使ったものが多いものですから、大企業にはできない何か光るものがあると自負しています。そこを認めていただき投資先を大企業に支援いただきたいのですが、先ほど長谷川先生がおっしゃったような、阻害要因の存在もよくわかります。そこで、投資先ベンチャー企業と大企業との関係を、私たちは以下のように考えています。
一つは、ベンチャーによる大企業への製品・サービス提供です。そのベンチャーにできて大企業にできないもの・できないことを考え道を探します。次に、ベンチャーと大企業の共同開発。例えば、大学は創薬などの基礎技術は強いですが、企業は市場の個別の疾患に対するアプリケーションが強い。お互いの強みを生かして、協働するといった関係です。
3つ目は、最近増えているのですが、大企業からベンチャーへのスピンアウト。ここで、我々VCがよりよいお手伝いができると考えています。大企業にとって、第三者であるVCが介在することで、その事業のバリエーションですとか、ある程度の客観性を担保できます。4つ目は、いわゆるM&Aです。私たちが育てたベンチャー企業を、大企業に買っていただくというケースです。まだまだ決して多くはありませんが、国内外ともに増えていっております。5つ目は、ベンチャー企業が自分たちのできないことを、大企業に委託するアウトソーシングという関係です。
一つだけ、当社の投資事例を紹介させていただきます。昨年の6月に上場した、創薬のプラットフォームを開発するペプチドリームという会社です。ペプチド医薬という分野でして、たんぱく質を構成するアミノ酸がありますが、アミノ酸よりもさらに小さなものをペプチドといいます。人工でいろんなペプチドを見つけ出し、スクリーニングして、本当に薬になるものを探すためのライブラリーといいますか、非常に多数の候補をつくりだすことができる技術です。これを大手の製薬会社と、いろんな疾患分野別に共同開発しています。黒字化に至って、実際に上場を果たしたというケースです。
ありがとうございます。ほかにもたくさんの事例、実績があられるようですが、時間の関係で次の方にバトンを渡したいと思います。では、仮屋薗さん、よろしくお願いします。
皆さん、こんにちは。株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ マネージング・パートナーの仮屋薗聡一と申します。もしかしたら、グロービス経営大学院とか、出版物のほうで、弊社のことをご存じいただいているかもしれません。1996年からスタートして18年活動を続けている、独立系のなかでは、老舗のVCであります。
これまで、機関投資家の方々から約500億円をお預かりし、日本のスタートアップから、上場に近い成長投資まで、IT1企業を中心とした幅広い企業100社ほどに投資させていただきました。そのうち、20社ほどが上場を果たしております。
ベンチャービジネスにとって2013年は、復活の年だったといえるでしょう。思い起こせば2006年にライブドアショックが起こり、翌年にはリーマンショック、そして2011年の大震災と、ベンチャーだけではなくビジネス界は非常に厳しい局面に立たされてきました。昨年のIPO数は約60社と、あの大震災から2年でここまでの復活を見せるとは予想もできませんでした。
2006年から2011年までの間、大企業とベンチャー企業の関係はますます疎遠になっていきました。ただし、2011年の終わり頃から、私は潮目の変化を感じていました。大企業の新規事業創出プログラムや研修講師としての仕事が増えてきたのです。そのなかで、大企業のスタンスが大きく変わったなと。
一つは、大企業のトップが旗を立てて、「ベンチャー企業をパートナーとして取り入れていこう」といった動きが目立ったこと。二つ目は、新規事業開発の部署にエース人材を投入し始めたこと。やはり彼らは気づきも早く、コミュニケーション能力が高い。私たちも研修がとてもスムーズに運ぶようになりました。三つ目は、ベンチャー企業から学べることがたくさんあるというスタンスの変化。それらの変化が多くの大企業に見受けられたこと。とても大事な変局点だったと思っています。
昨年、私たちの投資先が4社上場しました。ベンチャー側は大企業と戦略的資本提携し、安定株主になってもらう。大企業のブランドや販路などインフラの一部を使わせてもらって、成長スピードを高めていく。大企業にとっては成長によるキャピタルゲインと、中長期的な協業による新新規事業の創出。そんな相互関係が昨年までは多かったと思います。
また、新しいところでは、私たちの投資先と大企業のジョイントベンチャーで、いくつかすでに成功しつつあるケースが生まれています。これは資本的な関係ではなく、具体的にお互いの強みを持ち寄って、新規事業を生みだそうというものです。
例えば、人気の写真プリントサービス「しまうまプリント」とCCCのT-CARDの提携による、T-PRINTというサービス。三越伊勢丹とイードの合弁会社、株式会社ファッションヘッドラインの立ち上げなどが挙げられます。どちらのサービスも私たちが支援させていただき、大企業がベンチャー企業をパートナーとして迎え、しっかりとした相乗効果を生んだ好例といえるでしょう。
面白いですね。デパート業界とか、一方、放送局なども昨今、苦しんでおられる業界ですよね。大企業だけでは実現できなかった、とても興味深い取り組みだと思います。
大企業にはものすごい資源が眠っているのです。それは顧客、ブランド、コンテンツ、ネットワーク。これらの資源をベンチャー企業のビジネスモデルをつなげること。我々VCにとっても、ベンチャーにとっても、非常にやりがいのあるオポチュニティだと思います。
ありがとうございました。それでは、赤羽さん、お願いします。
ブレークスルーパートナーズ株式会社の赤羽雄二です。私は製造業のコマツに8年、その後、マッキンゼーにて14年間、日本企業、韓国企業の経営改革、新事業創造にパートナーとして取り組んできました。そのうち、10年間は日本とソウル往復を往復しながら、世界二十数カ国からコンサルタントを動員して、韓国の大企業の経営改革に携わってきました。
そして2002年、日本発の世界的ベンチャーを1社でも多く生み出すべく、ブレークスルーパートナーズを創業。以来、ベンチャー共同創業、経営支援、人材育成、新事業創出支援など、幅広い支援を行ってきました。特に、日本の製造大企業の深刻な状況に胸を痛め、2年前ほどから、経営改革に注力しております。
まずは最近の大企業技術者の創業・経営支援例をご紹介します。Jin-Magic社は、ネットワーク収容能力と体感品質を向上させることができる帯域安定化技術有した会社です。元富士通のトップ技術者が退職後にゼロベースで発明・開発した技術で、間もなく、大手ISPとコラボレーションで市場導入開始予定です。SDN・NFV時代のミドルウェアとして、国内外で高く評価されています。
もう1社は、FunLearding社。社長は大手電機メーカーからの早期退職で、2013年5月創業。英語勉強の苦手な日本人でも脱落せず勉強し続けるよう、徹底的にこだわった英語学習アプリを提供しています。ちなみに、経済産業省の昨年の「目利き・支援人材育成等事業」の支援対象でもあります。
最後が、Eugrid社。常にクラウドに情報を自動同期で保存。ユーザデバイスには情報がまったく残らないため、社員がノートパソコンを持ちだした際の情報漏洩の心配はいっさいありません。こちらも、社長は大手電機製造業の技術者だった方で、 Eugridが2社目の創業となります。この辺りが、現在の私と大企業の接点というところでお話させていただきました。
私にとっては、日本の高度経済成長を支えてきた製造大企業の影響がとても大きいのですが、そこが大失速しています。アベノミクスで調子がよさそうに見えますけど、実態は大変ひどいままです。その状況をお伝えしたいと思います。
まず、世界のものづくりビジネスの現場は、垂直統合から水平分業への変化が不可避な流れになっています。さらに、すべての製品、サービスが何らかの意味でデジタル化されています。それゆえ、グローバルな分業構造の変化、およびデジタル化に適応できない企業は淘汰される時代になりました。ただし、国内の自動車と建設機械は比較的いいです。ちなみに、コマツがなぜ調子がいいかといいますと、大地と戦って土をほじったり運んだりする、ものすごい耐久力、技術力が必要とされる。ここはまだ中国や韓国にはつくれない。しかし、電機系を主にした製造大企業の製品はほとんどどの国でも同じものがつくれるようになった。1年前のデータですが、携帯端末製造の利益の72%をAppleが占め、残りはSamsung。そんな状態が平気で起こっています。
日本は、長期的な雇用関係に基づく「ものづくり」が強みでしたが、その付加価値が急激に減少。過去の成功モデルからの思いきった転換ができないでいます。そんななか、欧米企業は水平分業の時代をリードし、韓国、台湾、中国はその波に飛び乗った。日本の経営者は世の中が変わったのに、対応しなかった、できなかったということです。
高度経済成長時代には、素晴らしい工場長、素晴らしい営業マンが多かった。また、日本人はチームワーク、きめ細かな仕事、徹底的な工夫が得意。これは実は今でも変わらないと思っています。結局、日本人、日本人の組織は、経営の舵取りに必要な意思決定、ダイナミックな方向転換、システム構想力が昔から苦手だったのではないでしょうか。もうひとつ、リーダーを育てる土壌がない。ここ数年での私の結論はそれです。そう考えないと、日本の製造大企業の大失速が説明できないのです。
では、今日の本題。大企業がベンチャー企業との協業を本気で進めるにはどうすればよいか。製造大企業を主とした話をさせていただきます。まず、従来型経営のままでは無理。大胆な経営改革が不可欠です。
まずは、自社の強みを改めて棚卸して、強みの活用にシフトする。血を見る決意が必要です。そのうえで、有望な新しい分野で何ができるのかを洗い出し、成功可能性の高い分野を選定する。そこでは、単なるハードウエアよりもサービス化、プラットフォーム化を。この発想の転換ができていない製造大企業がほとんどです。また、ここが重要なポイントなのですが、新事業立ち上げプロジェクトをできるだけ多数並行して走らせる。ベンチャーと協業する、投資する、買収する、そしてしっかりと活かす。この活かすがとても怪しいと思っています。
大企業が新規事業をやる場合、その売り上げはおそらく、全体の100分の1にもならないでしょう。その際、既存事業の人間が、苦しんで新規事業に立ち向かっている人間をバカにする。そうさせないためにも、既存事業の売り上げ・利益も20~30%増プランを策定し、実行させ、どちらも月次で厳しい進捗会議を行う。それらと同時に、組織活性化につながる人材配置転換、組織階層の削減、コミュニケーション改善、経営体制変更、取締役会正常化を進めるのです。
と、大きく7つほどのポイントをお話しましたが、重要なのはこれらをすべて同時並行で進めることです。一部だけをやっても意味がないのです。ビジョンを変えても、組織を変えても、ベンチャーを買ってもダメ。これらすべてを同時にいっきに、本気でやらないと、経営改革というドアのカギは開いてはくれないのです。
ありがとうございました。では、浅田さん、よろしくお願いします。
はじめまして。伊藤忠テクノロジーベンチャーズの浅田慎二と申します。最初に、弊社の説明を簡単にさせていただきます。私のキャリアともかぶるのですが、1970年の頃から、伊藤忠商事はシリコンバレーのVCに投資をしていました。その投資先のポートフォリオの会社に追加投資をして、当時はハードウエアがほとんどでしたが、面白い会社を日本に持ってくる。そういった事業を30年間繰り返していまして、もっと合理的にVC活動を行うべく、2000年に弊社が設立されました。
弊社は、平たくいえばファンドです。伊藤忠商事から3~4割ファンドに出資いただき、残りは外部の機関投資家の方々からの出資となります。私自身、2012年に伊藤忠商事からスピンアウトした結果、非常に早く投資の決定ができ、事業開発のモデルもスピーディーになりました。
私自身がベンチャー企業と接することがすごく大好きということもあるのですが、接すれば接するほど、個人的な成長を感じます。また、そんな個人としての成長、組織としての成長を感じるなかで、見えなかったビジネスモデルが見えてくる。そこがこの仕事のだいご味だと思っています。
大企業でいいますと、大きな売り上げ、大きな利益を生み出す新規事業しか稟議に通らず、立ち消えていくパターンが多いと思います。ただ、ベンチャー企業といっても決して小さなものではなくて、当社の投資案件であるデザイン・イーコマースのFab社は、アマゾン、イーベイも参入する激戦区で勝負しています。そして、初年度年商が20億円、次年度が100億円。これがベンチャーというくくりに当てはまるわけです。そういった規模、スピードで成長している企業が米国ではベンチャーと呼ばれます。そうは言いましても、私自信は小さな規模のベンチャーを、全員一丸となって支援していくやり方が好きです。
経済産業省の「Jump Start NIPPON」というプロジェクトの中で支援している、電動車いす製造ベンチャーWHILL社があります。創業メンバーは、元日産、ソニー、オリンパス、あとは最近トヨタからの転職者もおりますが、大手企業からスピンオフしてきた若者たちが主なメンバーです。アメリカでは1000億円ほどの市場が見込めるブルーオーシャンで、弊社は資金とアドバイスだけではなく、伊藤忠商事が有する米国ディーラーネットワークなど販路も提供していく予定です。
支援というと、ぼやっとしたイメージですよね。具体的に何をやっているかといいますと、一言で言うとPMです。私自身に電動車いすの製造経験はないわけですけど、PMの経験はありますので、だいたいいつまでに、何をつくらなければいけないのか、工程表レベルのマネジメントも行っています。メンバーのみなさん、大企業のエンジニア経験者なので、プロダクトアウト志向になりがちなんですね。ことあるごとに、「ユーザーさんは何を求めていますか?」「フィードバックはきちんと聞いたのですか?」「それを見せてください」「データはありますか?」などなど、ユーザー視点をしっかり注入しながらPMしています。
そもそも電動車いすベンチャーのイノベーションって何なのか? 今のところ、ハードウエアとしてのイノベーションに留めています。タイヤがユニークで、小さな車輪で、回転がしやすい、段差を乗り越えやすいなどが特徴です。ただ、WHILL社へは、シードステージの投資であって、今後、成長段階によって大型のレギュレーションでやっていく必要がある。今後は、インターネットにつながるディバイスの設計など、そういった発想でディレクションし、より実務レベルの支援をさせていただいています。
では最後に。今日は、大企業の新規事業担当者の方、ベンチャー企業関係者の方がメインのお客さまだと聞いて参りましたが、一番お伝えしたかったことは「ベンチャー支援は本当に面白いです」ということです。つたない説明でしたが、ご清聴いただきまして、どうもありがとうございました。
ありがとうございました。最後に私の自己紹介をさせていただきます。早稲田大学のビジネススクールで教えております。それから、ジャフコ、グローバルベンチャーキャピタルの活動を合計すると21年間、ベンチャーキャピタリストを続けてきました。
今、3つのポイントをフォーカスしていまして、どうやったらベンチャー企業がうまくいくか、大企業がいかにイノベーションが起こせるのか、新規事業を興せるのか、そして3つ目が、その両方にかかわるのですが、ファミリービジネスです。
日本で大胆な意思決定ができる、お金を自由に使えるエンティティ、リスクマネーの拠出先になるかもしれない組織ということで、研究を行っています。この3つをフォーカスすることを一言でいえば、経営者を育成するということにいき着きます。
それでは、ここからはもう少し議論を深めていきたいと思います。では、仮屋薗さんいかがでしょうか?
日本人が持っている競争力。昨今では、おもてなしというキーワードで語られることが多いようですが、私はインターネットのUI、UXどちらにも大事なポイントになってくると思っています。そして、それらに収益モデルをどう掛け合わせていくか。ここが一番難しいけれど、成功可能性の高いポイントだと考えています。
大企業とベンチャー企業が相乗効果の高いコラボレーションを実現するうえで、何かよい方法があるのでしょうか?
2週間前、大企業の研修に呼ばれて伺ってきました。新規事業に関するもので、リーダーを集めて行われたものです。まず、新規事業をどのような観点で選び、運用していけばいいのかを聞かれました。皆さんとても優秀な方で、いろいろなことをすでにわかっていらっしゃる。ただし、一つだけ感じたのは、新規事業を自分事ではなく、まだ他人事で考えているのではないかということ。まずは、新規事業というイシューを、大企業の側が自分事にすることが大切だと思いました。
では、赤羽さんお願いします。
仮屋薗さんのコメントはまさにおっしゃるとおり。個々の担当社員はもちろんですが、経営者自身がちゃんと危機を認識し、人事制度を変えるとか、新規事業に失敗した人を昇進させるとか、周囲の仕組みをすべて整えないといけないですね。
それから手を挙げた人に、それまでいた部署の横で新規事業をやらせるのはダメです。例えば社長室のすぐ近くに新規事業の部屋を置くなどして、経営者の本気を見せることが必要です。
そして中間管理職の方々の苦労を超えて、経営者自身がもっと汗をかき、私が冒頭に申し上げた7つのポイントをすべて本気で同時に進める。そうでないと、新規事業は徒労に終わってしまうでしょう。
もうひとつ、製造大企業には様々な研修が用意されていますが、新規事業にはもっと適した研修のやり方があります。それは、その会社で事業を成功させた、事業部長や取締役、もしくは社長が講師となって、リーダーと共に議論することです。彼らはアントレプレナーであるのにかかわらず、功績から得たポジションで上がりになってしまっている。成功という後光を捨て、お酒を抜きに本気で議論する。ぜひ、実行してみてほしいと思います。
それでは、郷治さん、いかがでしょうか。
研修やセミナーは、どうしてもその場だけの話で終わってしまうことが多いです。当社の支援しているベンチャー企業には、金融機関の新規事業担当者が1年という限られた時間ですが出向してきています。その方は、出向を終えた後、金融機関に戻り、新規事業の創出にかかわる予定だそうです。そういった、実践型のトレーニングも面白いと思っています。
では、浅田さんにお伺いしたのですが、大企業の新規事業担当者と、ベンチャー企業経営者には大きなギャップがあると思うのです。いかがでしょうか?
これは主観的なコメントになってしまいますが、大企業もベンチャーも見てきた経験でいいますと、結局は、新規事業を心からやりたい人しかやれないと思います。私はベンチャー側の視点に立ちながら支援するようにしているんですが、その中には、大企業の新規事業チームにいた人もいます。その人と会話すればわかりますよ。何かと会社のせいにしたり、上司のせいにしたり、市場や環境のせいにしたり、そういう人は「あー、やらされてるんだ」というのがすぐにわかりますから。
また、若い後輩ともよく話しますが、スマフォに詳しくて、デジタルなら何でもお任せという人材でも、新規事業にチャレンジしたくない人間もいるのです。そう言った意味で、本気でやりたいと考えている人を見つけることが、新規事業を立ち上げ、成功に導く一番の方法だと思います。
最近、日本の超優良企業といわれている、キーエンスの戦略個会社であるニプロスの新規事業開発のお手伝いをさせていただきました。ニプロスもVCから言わせれば超優良企業であります。ニプロスの社長は岡田さんという方ですが、ご自身でキーエンス時代にこのビジネスモデルを提案し、稟議が下り、10年前、実際、ご本人が社長を務めることになりました。やはり、考えた本人が自分事としてやることが重要なのだなあと。
キーエンスもある程度の権限と裁量の自由を岡田さんに与え、中長期的に経営を見守るスタンスを貫いたのでしょう。大企業が持つ素晴らしい資源を自分事として使う覚悟、そしてアプローチ。これらがニプロスが今なお成長を続けている一番のポイントなのだと思っています。
ありがとうございます。そろそろ議論が収斂してきました。では、大企業とベンチャーが提携、連携した後で、大切なことは何でしょう? 赤羽さんお願いします。
はい、大企業とベンチャーの連携よりも、新規事業に話が振れてきていますね。大企業が新規事業創出のためのプラットフォームをつくったなら、ベンチャーとやるべきだと思います。そういった意味で、大企業がどんどん新規事業をやることになれば、ベンチャーの出番がたくさん増えていく。そこをしっかり理解してほしいと思います。
会場にいらしている大企業の新規事業担当の方々、社長が本気でやりたいというのなら、答えがあります。本当にやりたい人を見つけ出すことです。1万人の従業員がいるのなら、少なくとも5%はいるはず。しかし、その方々は隠れています。できる部長になっていたり、あるいはできないふりをしていたり。また、大企業には新規事業コンテストなどがありますが、あれは単なるアイデアコンテント。本気でやりたい人間は、そうではなく、24時間、365日、自分がやりたいことだけを考えて、仕上げていく。そんなプロセスがないと、新規事業は成功しません。会社側からアサインされた人に、新規事業はできないのです。
だから、先述したとおり、やりたい人にやらせる、社長直下の組織に置く、人件費以外に1000万円ほどの経費を与える、失敗しても昇進させる。これらのことは、経営者であれば誰でもできる方法です。これが、日本の大企業が新規事業を成功させるための唯一の方法だと思います。やるかやらないか、だけなのです。
御社の社長が本気で新規事業を成功させたいと思っているのなら、ぜひともこのことを伝えてください。
今回のパネルは、少し大企業の新規事業担当者に向けた議論が多かったかもしれません。しかし、ベンチャー企業と接点を持ちたいと思っている大企業が増えているのは間違いありません。私からは1点。ベンチャー企業の方々にお伝えしたいのは、BtoBのビジネススキームをしっかり考えておくこと。ベンチャーにはBtoCモデルが多いかと思いますが、やはりブームで終わりがちです。ぜひ、長くビジネスが継続できるBtoBモデルも視野に入れておいてほしいと思います。それでは最後に、メッセージをお願いします。
私は、大企業とベンチャーのコラボの成功も見てきましたし、失敗も見てきました。ケースバイケースではありますが、大企業の新規事業へのチャレンジは、自社のドメインに近い領域でやった時のほうが可能性が高い。当たり前の話に聞こえるかもしれませんが、ぜひ、積極的かつ慎重に進めていってほしいと思います。
大企業へのコメントはたくさんしましたので、ベンチャーへのメッセージを。ベンチャーと大企業では、文化が違う、言葉が違う、これが顕著です。大企業とのコラボを望むベンチャーは、経営陣、アドバイザーの中に、大企業の文化、言葉、プロトコルを理解し、また、双方の意図、双方の時間軸、双方の意思決定プロセスにこなれている人を、ぜひ一人入れるべきです。その人材がいるだけで、コラボ成功の可能性は飛躍的にアップするでしょう。
大企業の新規事業担当者の方へ。社長が本気なら方法がある。冒頭でお話した7つのポイントをすべてやる。この2点を改めてお伝えしておきます。ベンチャーの方へは、少し残念なメッセージです。大企業に過度な期待はせず、コラボする場合でも、できるだけ多数の大企業と組んでください。おそらく担当者はニコニコ何でも聞いてくれるから、うれしくなるかもしれません。しかし、長く引っ張られて、結局は何もなかったといこともあるのです。
皆さんにほとんど代弁いただきましたので、少しだけ。ベンチャーは小さいとか、曖昧なイメージでとらえられがちですが、小さいままではありません。国内では今、本当に面白いタレントたちがベンチャー経営に携わっています。弊社も、できるだけ多くのベンチャー経営者に会いたい。ぜひ、当社のHPをご覧いただき、アクセスいただければと思っています。
皆さん、貴重なお話をありがとうございました。大企業、ベンチャー企業、ベンチャーキャピタルが共に手を組んで、この第四次ベンチャーブームを終わらせることなく未来に継続していけるよう、頑張りましょう。