洋服パターン生成スタートアップと完璧なパートナーシップを実現し、ヨーロッパ市場を開拓

ブラザーの背景と狙い

通信・プリンティング製品、工業用・家庭用ミシンなどを展開するブラザー。未来の事業ポートフォリオに向けた新規事業の創出や、主力事業のビジネスモデルの変革のため、独自の最先端技術を有するスタートアップとの協業を積極的に進めている。

新ビジョンAt Your Side 2030では、人々の「生産性と創造性をすぐそばで支え、社会の発展と地球の未来に貢献する」をテーマに、協業による新規事業の創出を始め、より多くのお客様とつながり、今まで以上に継続的な価値提供を果たしていくためのデジタル変革まで推進している。

ILSには、ブラザーの多様な独自技術やグローバルネットワークに、スタートアップ等含む外部との連携強化や投資推進を掛け合わせて、事業や新価値創出の機会を探索する場として2014年から参加。同社の海外での取引は、売上の80％以上を占めることから、ILSでの海外スタートアップの探索は新規プロジェクトを行う上で重要なインフラとなっている。

Fitdexの背景と狙い

ユーザーの体型に合わせた洋服パターン生成の技術を有するFitdexはAIを駆使し、ユーザーが計測したサイズを同社独自のアプリケーションにインプットすることで、個々の体型にフィットした型紙を生成するシステムを実現。型紙は数秒間のうちに生成され、Eコマースで販売している。同社が提供するソリューションは家庭でも、注文服のアトリエでも活用できる。

とくに同社が重視するのが女性向けの展開である。女性向けのオーダーメイド服は男性と比べ選択肢が限られ、開拓の余地があるという問題意識を持っている。AIを含む技術は発展し続けており、オーダーメイドによる自動計測技術の発展も進むと考えている。こうしたFitdexの技術力と信頼性を担保するパートナーを求め、ILSに参加した。

提携内容

新型コロナの流行は、ブラザーが手がける家庭用ミシン販売の市場に追い風となった。家に閉じこもる生活が中心となり、初心者も含め裁縫を始める人が急増したためだ。とくにマスクは国・地域によっては一時期、品薄になったこともあり、自分のマスクを縫い始めたことも大きい。マスクにとどまらず、外出して洋服を買いに行く代わりに、自分の服をハンドメイドする人も増えた。

そんな中、2021年に開催されたILSにおいてFitdex社からの商談リクエストがあり、両者が出合う 。両社の提携は主に、共同ブランディングと共同マーケティングだ。具体的には、Fitdexが型紙をオンラインで販売するサイトFayma.comを起点とし、ブラザーのブランドネームを掲げて割引キャンペーンを展開したほか 、両社が共催したイベントの一つである「Sewing Competition」では、利用者がFaymaの型紙で作った洋服をSNSでシェアして競い、優秀者にはブラザーのミシンが贈られた。「ブラザーといえば、私の母ですら知っているほどヨーロッパでも知名度がある。より多くの顧客に個々のユーザー体型に合わせた型紙を提供することは、大量生産を避けて地球環境を守るという我々の目指すところだ。ブラザーの掲げるサステナビリティとも合致する」（FitdexのMartins Bute CMO）。

ブラザーにとっては、裁縫をする一般ユーザーが楽しみを広げる機会を提供することで家庭用ミシンの販促につながるとともに、Faymaにとってはブラザーのロゴやブランドイメージの提供も受けたことで、サイトに対する信頼度が増した。

ブラザーの欧州販売拠点であるBrother Sewing Machines Europe GmbH のシニア・マーケティングマネージャーであるロネ・オウレ氏は、Fitdexとの提携について「顧客のクリエイティビティやクラフトマンシップを刺激し続ける、完璧なパートナーシップだ」と話す。洋服を縫う上で、型紙作りはとくに初心者にとっては大きなハードルだ。洋服は体型に合わせた立体的な構造であるため、着る人のサイズを反映させた型紙の作成は手間がかかる。Fitdexの計測・型紙作成のシステムは、スマホのアプリを使って計測し、型紙をPDFファイルでダウンロードして使える。さらに動画などによる解説も提供されるなど、「顧客の負担を減らす上で大きな役割を果たしている」（オウレ氏）。裁縫の最大の難所ともいえる型紙作りを容易に克服し、裁縫の楽しみに没入していく手助けになるからだ。

ブラザー工業の提携ストーリー（ILS2021）

• ※1) 大手とベンチャー双方からの商談リクエスト（商談依頼）合計。
• ※2) ILS当日に、事前のリクエストによってマッチングした相手と商談した数。

ブラザー工業株式会社 新規事業推進部 プライマリー・エキスパート
山本 拓人 氏

ILSは近年、海外のスタートアップコミュニティとのネットワークを拡大しており、特色のある海外スタートアップが多く参加していることは、一つの大きなアドバンテージと考えている。今回のFitdex社はラトビアの会社だが、私どもが投資しているベンチャーキャピタルファンドのネットワークでも、さすがに殆どカバーされていない。ILSに参加していなければ、Fitdexと出会うことは難しかったと考えられる。

Fitdex Ltd. Co-founder, Product Development
　Martins Bute 氏

我々のように小さな国に存在する企業にとって、裁縫業界におけるリーディングカンパニーであるブラザーと、その素晴らしいチームに出合うことができた。これによって、より多くの人に当社技術を活用したソリューションを届けられるようになった。