2017年度のILSでは、シナモンさんを含む24社のAIに関わるスタートアップとお会いしました。当初はAIを用いた材料探索を目的としていたので、シナモンさんからAI-OCRの説明を受けた時は方向性が違うと思ったわけです。
しかし、会社に戻って再検討したところ技術文書のデータベース化という長年の課題解決に繋がるかもしれないと思い付き、シナモンさんと再会しました。この展開は思ってもみなかったことであり、数多くのスタートアップに会えるILSのおかげであったと思っています。
株式会社シナモンと昭和電工株式会社は、2018年7月、AIを用いた技術文書活用システムの共同開発を開始した。シナモンが持つAIを活用した文章読み取り(OCR)技術をもとに、昭和電工が設立以来70年以上に及び蓄積してきた技術文書をデジタルデータベース化する。これにより、昭和電工は技術伝承を行いやすくするナレッジインフラの構築、シナモンはより高度な自社サービスの開発に繋げる。
昭和電工は、1939年設立の有機、無機、アルミなどの化学系素材メーカー。80年にわたって、当該領域における技術を開発・蓄積してきた。その技術情報は数万ページという大量の社内文書の形で保存されているが、コンピュータ化以前の古いものは紙の手書き文書の形で各部署に散在していた。
このような古い技術文書の中には、インターネットで検索しても出てこない、同社内にしかない数多くの独自技術情報が存在していることは間違いなく、それらに容易にアクセスできるようにすることで全社的なナレッジマネジメントを可能にし、競争力の高い製品開発などに繋げられる可能性があった。
ILSには当初、AIを用いたマテリアルズ・インフォマティクス(データベースや情報処理技術を活用した材料探索の取り組み)を手がける協業相手を探すために参加し、シナモンにアプローチした。しかし、同社の持つAI-OCR技術を知ったことで、社内文書のデジタルデータベース化の可能性を見出し、提携目的を切り替えることにした。
シナモンは、最先端の非定型帳票対応AI-OCR「Flax Scanner」や、ユーザー特化型AI音声認識エンジン「Rossa Voice」という自社開発製品を提供する、2016年10月設立のスタートアップ。2017年当時は、4月に「Flax Scanner」をリリースしたばかりで、実績がまだ少ないこともあって大手企業などにアクセスする機会が限られていた。
そこで、製品の導入機会を探るためにILSに参加。アプローチを受けた昭和電工に「Flax Scanner」を紹介したところ、後日、社内文書のデジタルデータベース化への活用の打診を受ける。示された技術文書のコンディションや内容が、従来の「Flax Scanner」が対象とする文書よりもAI-OCRとしての難易度が極めて高く、この開発により自社の技術力向上や高度な製品開発に繋げられるチャンスと踏み、昭和電工との共同開発を決めた。
昭和電工が保有する手書き技術文書の例(抜粋)
両社では共同開発を通じて、手書き文字を含む技術文書をAIで自動読み取りし、電子テキスト化する機能および利便性の高い検索機能を併せ持つ、技術文書の活用を目的としたデータベースシステムを開発する。
これまでの「Flax Scanner」のユーザーは、銀行や保険などの金融業界が主。定型的な欄に1行だけ書かれているといった文書が多く、手書きの場合も丁寧に書かれているものがほとんどで、AIでの自動読み取りが行いやすい状態にある。対する昭和電工の古い技術文書は、文章が何ページにもまたがり、どこに何が書かれているかがまちまちだ。手書きゆえに走り書きのような崩れた文字が多く、また古いものでは紙質も劣化しており、AIで高精度に自動読み取りを行うにはノイズが多い状態にある。さらに、化学系素材メーカーであるため、技術文書中には多くの化学式も含まれている。
「AI-OCRとして、難易度が高いレベルの文書」とシナモン代表取締役CEOの平野未来氏は言う。この開発に成功すれば、昭和電工と同様のニーズを持つ化学メーカーや製薬会社などへも提供できる可能性が拓ける。
一方、昭和電工としては、この技術文書活用データベースを全社的に展開する思惑がある。ILSに参加した融合製品開発研究所計算科学・情報センターがまず共同開発を行い、他の事業領域へのカスタマイズを行う計画だ。「これにより、自社固有の技術を全社的に伝承しやすいインフラを構築し、競争力のある製品開発に繋げていきたい」と同センター長の奥野好成氏は話す。
両社の共同開発スキーム
2017年度のILSでは、シナモンさんを含む24社のAIに関わるスタートアップとお会いしました。当初はAIを用いた材料探索を目的としていたので、シナモンさんからAI-OCRの説明を受けた時は方向性が違うと思ったわけです。
しかし、会社に戻って再検討したところ技術文書のデータベース化という長年の課題解決に繋がるかもしれないと思い付き、シナモンさんと再会しました。この展開は思ってもみなかったことであり、数多くのスタートアップに会えるILSのおかげであったと思っています。
スタートアップにとって、組みたいと思うのは規模の大小ではなく、新たなものを創りあげるというパッションの大きさ。その点、昭和電工さんは、最難関ともいえる古い技術文書のAI-OCRの共同開発に熱心に取り組んでくださっており、多くの示唆や知恵をいただけています。
また、当社はべトナムにも開発拠点があるのですが、国の規制などで技術文書を持ち出せないという壁もありました。これも、昭和電工さんと一緒にスキームを考え、クリアできています。
こういった提携相手と短時間で、しかもいろいろな業界の大手企業と出合えるILSは、貴重な機会だと受け止めています。
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