シリコンバレーでユニコーンを2社創出したシリアルアントレプレナーを直撃インタビュー

グローバルスタートアップの作り方

グローバルスタートアップを日本から輩出するために必要なノウハウをお伝えしているコラムの第6弾、今回は、シリコンバレーのシリアルアントレプレナー兼投資家であり、17社の企業と2つのユニコーン、そしてIPOを成功させたご経験を持つギャリー・ファウラー氏(GSDベンチャー・スタジオ
共同創業者兼CEO)にユニコーン企業創出の鍵を教えていただきました。

ユニコーン企業について

ユニコーンとは?

ベンチャーキャピタル業界では、評価額が10億ドル(約1,040億円)を突破したスタートアップをユニコーンと呼んでいます。

この言葉が初めて使われたのは、Cowboy Venturesの創業者であるAileen Leeが、評価額が10億ドル以上に達した39社のスタートアップをユニコーンと呼んで議論していた時だそうです。評価額がこのような素晴らしい数字になったスタートアップという稀な光景を強調するために作られました。業界に「ユニコーン」という言葉が紹介されて以来、この言葉はその意味を保ち、今でもスタートアップ業界の例外的な成功例を表すために使われています。唯一変化があったのは、それぞれの成長のキャリアにおいてこのマイルストーンに到達したスタートアップの総数です。

ユニコーンになることで得られるメリット

ユニコーンの背後にあるのは、単に素晴らしいアイデアだけではありませんーそう思われがちですが。実際には、ユニコーンは、以前から存在する問題に対する優れた解決策を提供しています。魅力的なアイデアではなく、適切なソリューションを生み出すことが、ユニコーンの条件なのです。

ユニコーンになるということは、さまざまな意味があり、非常に有益なことです。一つは、ユニコーンは独自の市場を定義したり、成熟した市場の中に自分たちのための新たなスペースを作ったりできます。破壊的イノベーションの新しい波に他の競合が追いつこうと追随しますが、しばらくの間、ユニコーンはその市場で最強のプレーヤーとなれます。これにより、資金調達、人脈の構築、忠実な支持者の獲得、そして急速な成長において大きなアドバンテージを得ることができます。

また、ユニコーンの影響力が高まるにつれ、ネットワーク内での地位や消費者からの信頼性も高まっていき、信頼と評判が構築され大きな強みとなります。ユニコーンはエグジットを成功させるため、成長の過程で競合他社を凌駕し、自社の価値を高め、投資家や顧客との関係を強化していくのです。

ユニコーンであることのデメリット

ユニコーンが計画したエグジットに向かう際、IPOに最適な「窓」は非常に小さく、正確に特定するのは難しいということを理解する必要があります。一方で、スタートアップ業界はスタートアップ企業に急成長と急拡大を求める大きなプレッシャーを与えており、これが早すぎるIPOのリスクとなっています。この場合、ユニコーンは、その評価額や業界内での地位の可能性を十分に達成できず、その活動を短くしてしまいます。

一方で、ユニコーンは、プライベートキャピタルからの資金調達に時間をかけ、IPOまでの道のりを延ばしているケースもあります。一般投資家にとっては、ユニコーンがまだ急成長しているうちにIPOまで到達することが、市場シェアや、破壊的イノベーションによって得た強力なリーダーシップを失うリスクを避けるために重要です。

ベンチャーキャピタル業界では、市場や製品カテゴリーを定義するための競争が加速しており、ユニコーンは資金調達だけに頼ることはできません。株式公開は、早すぎても遅すぎてもいけない、適切なタイミングで行うことが重要です。そうしないと、会社の長期的な成功が危ぶまれます。

ギャリー・ファウラー氏が輩出に携わった2社のユニコーン

ClickSoftware

私は、ClickSoftwareの初期の経営陣の一員として、マーケティングとビジネス開発の上級副社長を務め、NasdaqでのIPOを成功させました。
ClickSoftwareはユニコーンになりました。ClickSoftwareは、サービス会社がフィールドサービスの従業員をスケジュールしたり派遣したりするのに使われるソフトウェアを開発し、2019年に13億5000万ドルでセールスフォースに売却されました。

同社のソフトウェアには、高度な意思決定アルゴリズムが搭載されており、マネージャーがビジネスのやり方を最適化することで、1日、1週間、1ヶ月、1年でより多くの業務をこなせるように支援します。当社の技術によって業務の効率化が図られたことで、企業はコストを抑えながら顧客サービスを向上させることができました。

Yva.ai

2つ目の会社は、David Yangと共同で設立したYva.aiです。Yvaは、高度なニューラルネットワークと人工知能の助けを借りて、企業が潜在的に持つ生産性を引き出し、リモートチームを適切に管理することで優秀な人材を定着させる、他に類を見ないAIソリューションです。Yvaは、企業内のコミュニケーションの分析・調査をし、管理者に継続的なフィードバックを行うことで、リモートチームの生産性や幸福度を高めます。他にも、従業員同士が互いにコーチングを行い、幅広い分野で常にスキルを向上させることもできます。

ユニコーンを創出するには

スタートアップがユニコーンになるために必要な要素とは?

ユニコーンになることは、公園を散歩するようなものではありません。さまざまな要因が、さまざまなスタートアップの成長と成功を後押ししてきました。しかし、今日のユニコーンの成功を導く最も一般的な要因の中には、特定の資質があります。

第一に、ユニコーンはそれぞれが事業を展開している業界のこれまでの形態を際立って破壊していることです。最も伝統的な例としては、人々が日常的な交通手段を再定義したUberや、旅行業界と人々が旅行中に宿泊施設を見つける方法に大きな変化をもたらしたAirbnbが挙げられるでしょう。スタートアップが設立された後にその業界が変わっていれば、それはユニコーンになる可能性があるということです。

また、彼らの製品やサービスによって唯一無二の体験が得られ、それによって人々の習慣や行動をも変え得るかどうかを見極めることも、ユニコーンになり得るスタートアップを探す際に役に立つでしょう。ユニコーンは、自分たちの製品やサービスに対する需要を常に生み出し、ユーザーがその必要性を常に感じられるような空間を作り出す方法を知っています。独自のニッチを開拓したり、既存の市場に全く新しい方向性を導入したりと、ユニコーンは自分たちの領域を明確にし、競争の先を行くために継続的にイノベーションを行っています。

多くのユニコーンは、最先端の技術に深く根ざしています。ユニコーンがそれぞれの市場に導入するイノベーションは、何らかの形で最新のテクノロジーに支えられています。Uberのドライバーと潜在的な乗客をマッチングさせるスマートアプリケーションや、Airbnbが他人の住居を旅行者に自宅のように感じさせることにも。それぞれのイノベーションはテクノロジーを活用して業界を再定義し、最適化しています。

他にも、顧客との強い感情的な繋がりを育むことに重点を置き、簡単でシンプルかつシームレスな方法でユーザーの苦痛を解決することに尽力するなど、顧客を大切にする姿勢が多くのユニコーンに見られます。簡単に言えば、ユニコーンはユーザーの生活を向上させ、徐々にユーザーの生活に欠かせない存在になっていくのです。今では、Uberなしでどこかに行くことも、Spotify以外のプラットフォームで音楽をストリーミングすることも想像できないという人々も多くいます。

さらに、これらの企業は原則として非上場であるため、正式なIPOまでの間に評価額を最大化することができます。

スタートアップが多額の資金を調達するには?

資本を調達するために重要な要素は、課題解決に対する確かな事例を持っていることと、誰を狙うのかを知っていることの2点です。前にも述べましたが、スタートアップを設立して資金を調達するということは、良いアイデアを持っているということではありません。差し迫った問題に対する具体的な解決策を持ち、自社のスタートアップがもたらす付加価値を説明できることを意味します。

次に必要なのは、資金を調達するために誰とつながればよいかを正確に把握することです。資本を獲得するためには、自分のアイデアの価値や会社の将来性を示すことができる、投資家やメンターとの強力なネットワークを構築することが重要です。また、説得力のあるプレゼン資料を作成して、自分のアイデアをアピールして感心させるためには、聞き手についても下調べが必要です。彼らのペインポイントは何か?彼らの投資ポートフォリオはどのようなものか?彼らのニーズを念頭に置いてデッキをデザインするには、どのようにアプローチすればよいのか?これらを把握し、確実に狙いを定めましょう。

スタートアップがグローバル化するには?

スタートアップがグローバル化するためには、信頼できる収益源を確立し、現在の市場で確固たる地位を築いた後でなければなりません。そのためには、綿密な計画と戦略が必要です。

スタートアップがグローバル化を計画する際には、以下について問いかけるといいでしょう。

  • 進出したい国の文化にどれだけ精通しているか?
  • 新しい国際市場に参入する際の物流面での困難さ(法的、制度的)をどの程度認識しているか?
  • 私たちの製品やサービスについて、現地のターゲット層の認知度はどの程度なのか?
  • そして、新しい国に進出する際のインフラはどのようなものになるのか?

成功は、どの国に進出するか、その過程で何を考慮すべきかについて企業がどれだけ調査するかにかかっています。

スタートアップからスケールアップするためにはどうすればいいですか?

スタートアップの初期段階を乗り越え、迅速に規模を拡大する準備ができている企業を前提として話しますが、スケールアップするには、まず製品と市場の適合性をしっかりと確立する必要があります。これにより、成長の一貫性とペースが決まります。これは、成長を続けるために選択する市場です。

次に、急成長の資金を調達するために、資金調達によって安定した収益源を生み出します。製品やサービスをテストし、市場での適合性を確認した今、成長の加速を続けるためには資金の裏付けが必要です。成長と収益の増加に伴い、成長を促進・加速する技術スタックへの投資を行い、スケールアップのプロセスを測定可能で摩擦のないものにしましょう。

最後に、チームのより具体的な役割を定義し始めます。会社は、プロジェクトのあらゆる側面に協力するゼネラリストの集団ではありません。それぞれのプロフェッショナルには、自分の専門性が発揮され、さらに成長を促すような特定の仕事の範囲が必要なのです。

スケールアップからユニコーンへと成長するには?

ユニコーンは10億ドルの評価額で定義されますが、ユニコーンになる企業は利益より早く成長することを優先しています。 優先順位をつけるとしたら、利益は2番目になります。

留意すべき点は、投資家は優れたソリューションを持つユニコーンに投資する一方で、成長を牽引する運命にある有望なチームにも投資するということです。ユニコーンになるための準備をする際には、採用プロセスも投資の一つだと考えてください。製品やエンジニアリング、セールスやマーケティングなど、最も貢献できる分野で有能な人材を採用することに注力しましょう。そして、あらゆる分野での成長を支えるために、しっかりとした人材のパイプラインを構築しましょう。

ユニコーンがIPOするのに適した時期はいつですか?

IPOに適した時期は、ユニコーンごとに異なりますが、会社がIPOの準備ができているかどうかを理解するのに役立つ指標がいくつかあります。

何よりもまず、会社の正確な財務予測を行えるかどうかを見るといいでしょう。会社の成長過程において、財務的に安定した正確な予測ができる段階になったら、その会社がIPOのような大きなステップを検討し始めることができるという良い指標となります。評価額の予想についても同様で、現実的かつ信頼できるものであることを確認してください。

経営幹部を見てみましょう。会社の急成長をうまく導ける経営陣もいますが、再調整を計画する場合には、外部から必要な専門知識を持つリーダーを引き入れることも必要です。

また、四半期ごとの財務諸表を前年同期比で予定通りに作成してきた実績も必要です。これは、将来的に公的報告の厳しいプロセスに備えるためのものです。

次のユニコーンへ

ギャリー・ファウラー氏から次のユニコーンへのメッセージ

競合他社が追いつこうとしている間に素早く行動しましょう。IPOを急ぎすぎず、かといってIPOを始めるまでに時間をかけすぎてもいけません。ボールを打った時に一番飛ばせる
”スイートスポット” を見つけて、あなた達の可能性を最大限に引き出してください。

関連情報

●今回のインタビューの原文(英語)は、シリコンバレーベンチャーズのブログ

https://siliconvalleyventures.site/archives/7232)にてご覧ください。

●Gary Fowler氏の番組「Silicon Valley Tech&AI」に、シリコンバレーベンチャーズCEOの森若幸次郎が生出演し、Entrepreneurship
for Global Innovationをテーマに対談を行いました。

対談の様子が、YouTubeにアップされております。

https://youtu.be/39R-oBsV8A0)にてご覧ください。 

著者
John Kojiro Moriwaka(森若 幸次郎)

世界と日本を繋ぐイノベーションプロバイダー、ゼブラ企業経営者、Nextユニコーン支援者、講演家、英語司会者、コラムニスト

株式会社シリコンバレーベンチャーズ 代表取締役社長兼CEO
株式会社モリワカ 専務取締役兼CIO
情報経営イノベーション専門職大学 客員教授
Startup GRIND Fukuoka ディレクター
Startupbootcamp Scale Osaka メンター
など多数

19歳から7年半単身オーストラリア在住後、ハーバードビジネススクールにてリーダーシップとイノベーションを学ぶ。約6年間シリコンバレーと日本を行き来するだけではなく、近年はイスラエル、インド、フランスなど世界中のスタートアップエコシステム10カ国以上を訪れ、英語での高い交渉力を活かし、グローバルスタートアップや大企業支援を行う。「日本各地でのスタートアップエコシステムの構築方法」や「どのように海外スタートアップと協業しオープンイノベーションを起こすか」を講演やコラム等を通じて発信。国内外アクセラレーター支援、ピッチ指導(英語・日本語)も行う。

著書「ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?」

趣味:ラップ(Gifted名義で「Down Wiz Us(feat. Dirty R.A.Y.)」をリリースし、全国ダウンロード第一位)、絵画、詩、社交ダンス、将棋、家族との時間

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