オープンイノベーション促進税制とは?メリットや要件について

オープンイノベーション

オープンイノベーション促進税制は、企業のオープンイノベーション導入をサポートする制度です。

ただ実際どのような制度なのか、適用するためには何をすればいいかわからない方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、オープンイノベーション促進税制の仕組みや具体的なメリット、適用要件などについて解説していきます。

オープンイノベーション促進税制とは

オープンイノベーション促進税制は、企業およびその投資部門がスタートアップ企業などに投資をする際の所得控除制度です。スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目的に、国内の事業会社またはその国内CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が、スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得すると、その株式の取得価額の25%を所得控除できます

自社でオープンイノベーションの導入を検討しているが、コストがネックとなっているときに役立ちます。2020年に経済産業省がスタートアップをはじめとした企業への投資を促進させることを目的としてスタートさせました。

オープンイノベーション促進税制

オープンイノベーション促進税制の概要

先述した通り、オープンイノベーション促進税制ではスタートアップ企業とのオープンイノベーションを目的に、国内の事業会社またはその国内CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が、スタートアップ企業の新規発行株式を一定額以上取得すると、その株式の取得価額の25%を所得控除できます。

また、令和5年度税制改正により、2023年4月1日以降にスタートアップ企業の成長に資するM&A(議決権の過半数の取得)を行った場合は、その取得した発行済株式についても同制度の対象となります。オープンイノベーションとは、他社が持つ技術やアイデアを積極的に取り込み、自社の技術向上や新商品の開発を行う経営戦略の1つです。

オープンイノベーションの種類とは?種類ごとの事例や活用のポイント

オープンイノベーション促進税制は、企業のビジネスモデルの刷新を目的として創設された制度です。この制度を活用することにより、スタートアップ企業が自社のビジネスを行いやすくなるだけではなく、出資する企業も節税というかたちで恩恵を受けられます。

令和5年度税制改正による変更点

国は国内企業のさらなるオープンイノベーション促進を目指し、令和5年度税制改正でオープンイノベーション促進税制の内容を変更することを決定しました。主な変更点としては以下の2点です。

変更点①M&A型の新設

1つ目の変更点はM&A型の新設です。変更前は新規発行株式を取得する場合でしかオープンイノベーション税制の対象となりませんでした。しかし、令和5年度税制改正でM&Aによって発行済株式を取得した場合でも控除対象となる変更がされています。株式取得額が5億円以上のM&Aが対象となり、所得控除の上限額は1件あたり50億円です。

また所得控除を受けるには、5年以内にM&Aをしたスタートアップ企業が成長要件を満たしていることの証明を受ける必要があります

変更点②新規出資型の見直し

2つ目の変更点は新規出資型の見直しです。この見直しにより、すでにオープンイノベーション促進税制(新規出資型)の証明を受けている場合であれば、当該証明を受けた出資先スタートアップ企業への追加出資(新規発行株式の取得)は所得控除の対象外となります。ただし、追加出資によって議決権の過半数を有することになる場合には、所得控除を受けることが可能です。

所得控除の上限額は1件あたりは12.5億円であり、M&A型と合わせた場合は一事業年度内あたり125億円まで控除を受けることができます。

オープンイノベーション促進税制の5つのメリット

オープンイノベーション促進税制は、出資をする企業と出資を受ける企業の双方にメリットがあります。具体的なメリットは以下の5つです。

①スタートアップが出資を受けて成長できる

スタートアップ企業の成長にとって欠かすことのできないのが資金です。大企業と比べて資金面での問題が大きく、なかなか成長できないスタートアップ企業も少なくありません。オープンイノベーション促進税制には、所得控除といったわかりやすいメリットがあるため、企業からの出資が集めやすくなります

またオープンイノベーション促進税制の要件として、出資する側には資金面以外で必要な協力をすることが必要とされています。そのためスタートアップ側としては、出資する企業が持つ設備やサプライチェーンなどを活かして、自社の事業を行うことが可能になります。多方面での協力を得られれば、出資を受ける企業は事業を行いやすくなるでしょう。

②出資企業は投資しながら節税できる

オープンイノベーション促進税制は、出資する企業にとって高い節税効果を得られるのが魅力です。オープンイノベーション促進税制で設定されている所得控除は出資額の25%です。法人税率が23.2%の場合であれば、その25%となる出資額の5.8%ほどの法人税を抑えることが可能になりま

また内部留保として資金を持て余している企業も存在します。使わない資金をそのままにしておくより、新技術や独創的ビジネスモデルへの投資を行う方がメリットが大きくなるでしょう。

オープンイノベーション促進税制であれば、投資によるリターンだけではなく、所得控除のメリットも同時に得られます。普通に投資をするのではなく、オープンイノベーション促進税制を通した投資の方が少ない出資で多くのリターンを得ることが可能です。

③中小企業でも出資がしやすい

オープンイノベーション促進税制では、大企業だけではなく中小企業でも出資を行うことが可能です。大企業であれば1億円以上の出資が制度の要件となっています。しかし、中小企業であれば1,000万円から出資することも可能です

また、オープンイノベーションはノウハウ不足といった自社に足りない経営資源を補う手段でもあります。投資をしながら経営資源を補えるのは、中小企業にとって大きなメリットといえるでしょう。

④M&Aによる出口戦略が容易になる

投資をする企業にとっては節税メリットがあり、スタートアップは出口戦略でM&Aを実現することが容易になります。M&Aによる出口戦略が容易になることで、ベンチャーキャピタルから出資を受けることが期待できます。また、IPOと比較しても出口戦略の期間が短くなるため、新事業に取り組みやすくなることもメリットです。

⑤自社のイノベーション促進につながる

スタートアップ企業は、既存企業にはない技術やノウハウを持っている場合があります。オープンイノベーション促進税制を通した投資は、出資を行う企業が自社にないノウハウを知るきっかけにもなります

投資先に自社事業と関連した企業を選べば、そこから自社に役立つ技術やノウハウを取り入れることができます。新しい技術やノウハウの導入は、自社におけるイノベーション促進につながります。

オープンイノベーション促進税制の要件

オープンイノベーション促進税制は、どんな企業でも利用できる制度ではありません。税制を利用するためには適用要件を満たしている必要があります。

本税制でいうオープンイノベーションとは、対象である法人がスタートアップ企業が持つ革新的な技術やノウハウを活用して、高い生産性が見込まれる事業や新たな事業の開拓を目指す事業活動のことを指します。具体的には、以下の3点を満たすことが必要です。

  1. 対象法人が、高い生産性が見込まれる事業または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと
  2. ①の事業活動において活用するスタートアップ企業の技術やノウハウが、対象法人に不足しており、なおかつ革新的なものであること
  3. ①の事業活動を実施するにあたって、対象法人からスタートアップ企業にも必要な協力を行い、その協力がスタートアップ企業の成長に貢献するものであること

対象法人(出資側)の要件

対象法人となる出資を行う企業の要件は以下の通りであり、いずれにも該当している必要があります

①青色申告書提出法人であること

②スタートアップ企業とのオープンイノベーションを行うことを目的としていること

③以下のいずれかの法人に該当すること

  • 株式会社
  • 相互会社
  • 中小企業等協同組合
  • 農林中央金庫
  • 信用金庫及び信用金庫連合会

またこの対象法人が主体となるCVCも以下の要件を満たすことで、オープンイノベーション促進税制の対象になります。

  1. 上記の対象法人が出資割合の過半数を占める
  2. 投資事業有限責任組合(LPS)のうち
  • 対象法人の国内完全子会社が無限責任組合員(GP)となっている
  • 対象法人が単独の有限責任組合員(LP)となっている民法上の組合

スタートアップ企業(受け手側)の要件

出資を受ける側であるスタートアップ企業の要件は以下の通りであり、いずれにも該当している必要があります

  1. 株式会社であること
  2. 設立して10年以下であること
  3. 未上場であり、なおかつ未登録であること
  4. 既に事業をスタートさせている
  5. 対象法人とのオープンイノベーションを行っている、またはこれから行うこと
  6. 一つの法人グループが株式の過半数を保有していないこと
  7. 法人以外(LPS、民法上の組合、個人等)が3分の1超の株式を保有していること
  8. 風俗営業や性風俗関連特殊営業を行う会社ではないこと
  9. 暴力団員などが役員もしくは、事業活動を支配する会社ではないこと

出資要件

本税制を適用するにはいずれの出資要件を満たす必要があります

  1. 資本金の増加を伴う現金による出資であること
  2. 1件につき1億円以上の出資であること(中小企業であれば1,000万円以上、スタートアップ企業が海外法人であれば:5億円以上)
  3. オープンイノベーションを目的とした出資であること
  4. 取得株式を3年以上保有する予定であること
  5. 純出資などのための出資ではないこと

要件に関するQ&A

以下資料より抜粋してご紹介します。

オープンイノベーション促進税制 の利用を検討されている 事業者の皆様へ

Q1:他社がGPである国内LPSに対し、当社の完全子会社がLP出資を行う場合、親会社の当社は本税制の対象法人になりますか。

対象法人の国内完全子会社による出資に関しては、スタートアップ企業とのオープンイノベーションはその国内完全子会社が行うものと見なされます。そのため、本税制の対象は国内完全子会社であり、親会社は対象法人に該当しません

Q2:出資を受けるスタートアップ企業の株主構成には制限はありますか。

出資の段階で発行済株式の過半数を一つの法人、またはその子・孫・曾孫会社で取得しているスタートアップ企業への出資は対象外です。また法人がその発行済株式総数の3分の2以上を取得しているスタートアップ企業も対象外です

Q3:1億円以上の出資に関して、分割出資して累計額が1億円になる場合は対象になりますか。

1回の払込みの金額が1億円以上である出資のみが対象となり、分割出資で累計1億円となる場合は対象外となります

オープンイノベーション促進税制の注意点

オープンイノベーション促進税制を利用するには、特別勘定の経理と出資後5年間にわたる特別勘定の扱いと、3月末決算企業における税制利用申請フローについて確認しておく必要があります。

特別勘定の経理と出資後5年間にわたる特別勘定の扱い

本税制で所得控除を受けるためには対象となる取得株式の25%以下の金額を特別勘定として経理しなければなりません。対象法人は、株式を取得した日から5年間は特別勘定を維持するこが求められます。

もし5年以内に対象法人が特別勘定を取り崩す場合は、取り崩した金額分を取り崩した事業年度の税務申告で益金算入します5年間でスタートアップ企業とのオープンイノベーションを行っていると認められない場合にも特別勘定を取り崩さなければなりません。取り崩した金額分は、取り崩した事業年度の税務申告で益金算入することが必要です。

3月末決算企業における税制利用申請フロー

3月末決算でオープンイノベーション促進税制を適用する流れは以下の通りです。

4~5月:経済産業省への事前相談①(30日以内に回答)

8~11月:経済産業省への事前相談②(30日以内に回答)

2~4月:経済産業大臣への証明書交付申請(事業年度末日の60日前〜30日後)

               経済産業大臣による証明書の交付(60日以内に交付)

6月:経済産業大臣の証明書とともに税務申告

税制適用に必要な証明書は、対象法人の事業年度終了後にまとめて交付されます。なお、事前相談は必須ではなく、任意となっています。

所得控除を受けた翌事業年度以降も、5年間継続してスタートアップ企業とオープンイノベーションを行う場合は、事業年度末ごとに経済産業大臣に報告し、継続証明書の交付してもらう必要があります

オープンイノベーション促進税制を活用するために

オープンイノベーション促進税制は出資する側、受ける側双方にメリットがある制度です。制度の利用のためには、適用要件を確認して申請手続きを行う必要があります。

オープンイノベーション推進のためにはマッチングが非常に重要となります。そのためにはさまざまな事例に目を通し、マッチングのヒントを知ることが必要です。

アジア最大規模のオープンイノベーション祭典「ILS」では総商談数2,890件、うち協業案件が969件創出されている実績(第10回ILS実績)をもとに、オープンイノベーション最前線レポートを無料進呈しております。以下から資料を取り寄せ、今後のオープンイノベーション活動に役立ててください。

著者
ILS事務局

アジア最大規模のオープンイノベーションのマッチングイベント「Innovation Leaders Summit(ILS)」を開催。
ILSとは、大手企業のアセットとスタートアップのアイデアやテクノロジをマッチングし、グローバルイノベーションを生み出すことを目的に経済産業省後援のもと発足したプロジェクト。
2023年12月に開催したILS2023において、メインの事業提携マッチングプログラム「パワーマッチング」は、国内外の主力VCなどで構成する約100名のILSアドバイザリーボードが推薦する有望スタートアップ812社(内、海外企業266社)と大手企業113社が参加、3,121件の商談が行われ1,032件の協業案件を創出した。アジア最大級のオープンイノベーションカンファレンス。

主催: イノベーションリーダーズサミット実行委員会(SEOU会、ドリームゲート/株式会社プロジェクトニッポン)
後援: 経済産業省/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)/東京都/日本政策金融公庫/オーストラリア大使館(第10回ILS実績)
運営: 株式会社プロジェクトニッポン

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