新規事業開発には大きな可能性がある一方で、フェーズごとに落とし穴も存在します。
企業内で新規事業を任される責任者や経営層にとって、「どこにリスクが潜んでいるのか」「どう備えればいいのか」を見極めるのは簡単なことではありません。
本記事では事業を5つのフェーズに分け、実務で直面しやすい課題と、それを乗り越えるためのフレームワークや施策、外部リソースの活用例などを紹介します。
事業責任者や経営企画担当者が事前に課題を把握し、最適な手を打つための実践ガイドとしてご活用ください。
新規事業の課題解決に外部連携を活用する企業が増えています
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大手企業とスタートアップが3,000件以上の商談を重ね、協業案件率30%超のイベントです。新規事業の各フェーズで直面する課題を、外部連携で解決する具体的な方法や成功事例を豊富に紹介しているので、ぜひ貴社の新規事業推進にご活用ください。
新規事業で直面する主な課題一覧
新規事業は、既存のビジネスとは異なる前提や不確実性の中で推進されるため、多くの課題に直面します。
ここでは、フェーズごとに代表的な課題を整理し、それぞれが新規事業の進行にどのような影響を与えるかを見ていきます。
- アイデア創出フェーズの課題
- 事業計画フェーズの課題
- プロダクト開発フェーズの課題
- 市場投入フェーズの課題
- 収益化フェーズの課題
アイデア創出フェーズの課題
新規事業の成功は、最初のアイデアの質とその検証プロセスに大きく左右されます。
ここでは、アイデア創出段階でよく見られる4つの主要な課題を取り上げ、各課題への向き合い方や、適切に進められる方法を解説します。
「いいアイデアが出ない」「そもそもどんな課題を解決すべきかわからない」と感じたら、まずはこのフェーズに潜むボトルネックを見直してみましょう。
顧客課題の深掘り不足
「顧客課題の深掘り不足」は新規事業でよくある失敗要因のひとつです。アイデアが表面的なニーズだけに基づいていると、顧客に響かず、市場に受け入れられません。
本質的な課題を捉えるには、「なぜその行動をしているのか」「どんな価値観や背景があるのか」を掘り下げて理解する必要があります。
共感インタビューや観察などを通じて、顧客の内面にある葛藤や動機に迫ることが重要です。
真の課題に基づく事業は、初期の段階から強い共感を得やすく、継続的な価値提供にもつながります。
表面的なニーズではなく、行動や価値観の背景にある本質的な課題を理解しようとする体制が重要です。
市場ニーズとの適合・検証不足
現代では消費者の価値観が多様化していることから、正確な市場ニーズを読み取るのが困難です。
自社の強みや思いつきだけでアイデアを考えても、市場の実際のニーズとずれてしまう可能性があり、早期事業撤退という結果にもなりかねません。
市場ニーズを正確に捉えるためには、インタビュー、仮説検証、市場の細分化などによる分析が必要です。
社内アイデア募集プロセスの不在
「社内アイデア募集プロセスの不在」は、新規事業の幅を狭めてしまう大きな要因です。
現場の社員や多様な部門の視点を取り込む仕組みがなければ、発想が限られた範囲にとどまり、画期的なアイデアや需要のあるアイデアを見つけることは難しくなります。
アイデアの多様性を確保するには、ボトムアップ型のアイデア募集プロセスを設け、誰もが提案できる風土をつくることが効果的です。
経営陣のコミットメント不足
新規事業立ち上げ時には、常に臨機応変な対応が求められます。しかし、経営層の新規事業への理解や支援が不十分だと、リソースの割り当てや意思決定がスムーズに進みません。
新規事業の意義や目的を経営層に明確に伝え、スピード感を持って施策を実行できる環境を整えましょう。
事業計画フェーズの課題
アイデアがまとまり、いよいよ事業として形にしていく段階に入ると、現実的な計画づくりが求められます。
しかし事業計画フェーズでも、市場規模の評価や予算の確保難など、つまずきやすいポイントが数多く存在します。
ここでは、事業計画フェーズでよく見られる4つの課題を解説し、実現性の高い計画づくりに必要な視点を整理しましょう。
市場規模の過大評価
新規事業でありがちな課題のひとつが、市場規模を過大に見積もってしまうことです。
一見よさそうな新規事業に着手したものの、ニーズが想定よりも小さいケースもあります。理想的なターゲットや最大の可能性ばかりに目を向けると、実際の需要や競合環境を見誤り、現実と乖離した計画になりがちです。
想定通りの利益が出ない、あるいは事業縮小や撤退が必要となるリスクを下げるためにも、正確な市場調査や顧客分析を通じて、現実的かつ実行可能な市場規模を把握しましょう。
仮説に固執し柔軟性を欠く
新規事業では最初に立てた仮説に強くこだわりすぎると、市場や顧客の変化に対応できなくなり失敗のリスクが高まります。
仮説はあくまで検証の出発点であり、検証結果やフィードバックを受けて柔軟に修正・改善していく姿勢が重要です。しかし「プロジェクトの完遂」そのものが目標になってしまい、ニーズや消費者の動向を蔑ろにしてしまうケースも少なくありません。
固定観念にとらわれず、常に新たな情報を取り入れて事業の方向性を見直すことで、成功確率を高めましょう。
ビジネスモデルの差別化不足
新規事業が成功するためには、競合と明確に差別化されたビジネスモデルが不可欠です。
差別化が不十分だと、価格競争に巻き込まれたり、顧客の関心を引けなかったりと、収益の安定化が難しくなります。
実際に、既存のビジネスモデルを踏襲しすぎる、あるいはリソースや予算の都合でクオリティが下がるなどの結果、他者との差別化が実現しないケースも多く見られます。
独自の価値提案や強みを明確に打ち出し、競合にない優位性を築くために、必要なポイントを明確にして事業戦略を立てることが重要です。
リソース・予算確保の難航
新規事業では、計画段階で必要な人材や資金の確保が大きな課題です。
限られたリソースの中で優先順位をつけて効果的に配分することが求められますが、経営陣の理解不足や外部からの資金調達の難しさが壁になることもあります。
早期から具体的な調達計画や関係者との連携を図り、リソース不足による事業停滞を防ぐことが成功の鍵です。
プロダクト開発フェーズの課題
新規事業のアイデアを形にするプロダクト開発フェーズは、技術的な挑戦とチーム連携の両方が求められます。
この段階で直面しやすい課題には、MVPの範囲が曖昧で開発が膨らんでしまう問題や部門間の連携不全などがあり、これらを適切に管理することがスムーズな開発と市場投入の鍵となります。
ここでは、このフェーズで特に注意すべき4つの課題について解説します。
MVP定義が曖昧でスコープ肥大
MVP(Minimum Viable Product)は、必要最低限の機能に絞って早期に市場投入し、顧客の反応を確認するためのプロダクトです。しかしその定義が曖昧だと、スコープ(内容)が次第に肥大し、開発期間やコストが膨らんでしまいます。
結果としてリリースの遅延や無駄遣いにつながり、本来の検証目的が薄れてしまうこともあります。MVPはシンプルかつ明確に設定し、最小限の機能で市場の反応を迅速に得ることが重要です。
開発リソース・技術ノウハウ不足
新技術の活用やスピード開発には専門的なスキルが必要です。たとえ新規事業のアイデア・戦略が優れていても、実行のためのリソースやノウハウがなければ成功には繋がりません。
必要な開発リソースや技術ノウハウがない場合は、新規事業への予算に鑑みたうえで、外部パートナーや専門人材の活用も視野に入れましょう。
ユーザーフィードバックループの遅延
新規事業を成功させるためには、MVPの結果に基づいてユーザーのフィードバックを迅速に取り込む仕組みが必要です。しかし、そのループが遅延すると市場のニーズに迅速に対応できません。
必要な新機能や改善点を実装し、バージョンアップした製品やサービスの開発を継続するためにも、よりスムーズなユーザーフィードバックループを形成し、製品やサービスの質の向上を目指す必要があります。
部門横断連携の不全
新規事業の開発には、企画・開発・マーケティング・営業など、複数部門の協力が不可欠です。
しかし目標やスケジュールの共有不足、意思決定の遅れ、部門ごとの優先順位の違いなどにより連携がうまくいかないケースや、意見の対立により効率が大きく下がり、トラブルに発展するおそれもあります。
このような分断は、開発の遅延や品質低下、ユーザー視点の欠如につながります。プロジェクトの停滞を防ぐためにも、共通KPIや定例会議などで連携強化を図ることが有効です。
市場投入フェーズの課題
プロダクトが完成しても、それを実際に市場に届ける段階でつまずくケースは少なくありません。
新規事業では、販売戦略の不備やマーケティング施策の弱さなど、立ち上げ直後ならではの課題が存在します。
ここでは、市場投入フェーズで起こりがちな課題とその乗り越え方を解説します。
ローンチタイミング判断
市場投入のタイミングは、新規事業の成否を左右する重要な要素です。
市場に出す時期が早すぎるとメインユーザーに刺さらなかったり、遅すぎると競合に先を越されたりするリスクがあります。
製品の完成度、顧客の期待、競合状況を総合的に見極め、適切なタイミングで市場に投入することが求められます。
初期顧客獲得の難しさ
新規事業の立ち上げ直後はブランド認知も実績も乏しく、顧客に選ばれるハードルが高くなります。
特に初期顧客は製品やサービスの価値だけでなく、信頼性や期待感にも左右されるため、獲得には戦略的なアプローチが不可欠です。
明確なターゲット設定とニーズに刺さる訴求で、最初の「共感者」をどう見つけるかが鍵になります。
実際に中小企業庁の最新調査では、開業率は2022年度に3.9%となっており、起業者数も2012年の約514万人から2022年には約466万人へと減少傾向にあります。新規参入が困難な環境の中で、初期顧客の獲得がより一層重要な課題となっています。
マーケティングチャネル選定と最適化
限られたリソースの中で効果的に顧客にリーチするには、適切なマーケティングチャネルの選定と継続的な最適化が不可欠です。
SNS、検索広告、リアルイベントなど、チャネルごとに特性やコストが異なるため、ターゲット顧客の行動を踏まえて選ぶ必要があります。
データを活用して反応を分析し、チャネルの効果を見極めながら改善を重ねましょう。
KPI設定と追跡体制未整備
新規事業では、適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に進捗を確認する仕組みが欠かせません。しかし目標が曖昧だったり、測定体制が整っていなかったりすると、施策の有効性が評価できず、意思決定が属人的になりがちです。
KPIは事業の目的に直結したものを選び、追跡可能なデータ環境とレビュー体制を整えましょう。
収益化フェーズの課題
製品やサービスの提供が始まりユーザーを獲得し始めた段階でも、収益化にはまた別の難しさがあります。利益計画の策定や価格戦略、収益モデルの選択などの課題は、多くの新規事業に共通します。
収益の見通しを立てながら、顧客の受容性や市場の反応に応じて柔軟に設計を見直すために、ぜひ参考にしてください。
利益計画策定困難
新規事業で金融機関や投資家から融資を受ける際には、利益計画の提出が必須です。しかし新規事業は売上・コストの予測が不確実なため、現実的な利益計画を立てるのが容易ではありません。
特に立ち上げ初期は顧客数、単価、継続率などの仮定に依存せざるを得ず、計画が理想論に寄りすぎる傾向があります。精度の高い利益計画をつくるには、段階的な仮説検証と実データの積み上げが不可欠です。
利益計画に必要な以下の項目をおさえ、どの程度の利益が出るのか細かく数値化しておきましょう。
- 予想売上
- 損益分岐点達成に必要な売上高
- キャッシュフロー
- 予想収支
価格戦略・収益モデル選択の迷走
新規事業では「どのように収益を上げるか」の設計が曖昧なまま進むことも少なくありません。
- 薄利多売で利益を確保する
- プレミアム販売で高価格帯の商品やサービスを限定的な顧客層に販売する
- エージェントやマーケティング支援などの成功報酬型で利益を確保する
- サブスクで継続的な利益を確保する
以上のように多様な収益モデルがあるなかで、自社に最適な方式を見極めるのは簡単ではなく、価格設定も試行錯誤を重ねるケースが多いです。。
結果として「利益が出ない」「顧客が定着しない」といった問題が生じることもあります。
新規事業を成功させるために、販売予定の商品やサービスの性質と販売方法の相性を見極めて適切な方法を選びましょう。市場や顧客の反応を見ながら段階的にモデルを検証し、柔軟に調整していく姿勢が不可欠です。
キャッシュフローと追加投資確保
新規事業では売上が安定するまでに時間がかかるため、初期のキャッシュフローは慢性的にマイナスになりがちです。固定費や開発・運用コストが継続的に発生する一方で、収益がすぐに追いつかないため、資金ショートのリスクが常につきまといます。
さらに、事業の成長に応じてマーケティング費用、人員拡充、システム強化などの追加投資が必要となる場面も多く、タイミングよく資金調達できる体制を整えておくことが大切です。
資金繰り計画の精緻化に加え、投資家や社内関係者への定期的な進捗報告と信頼関係の構築が、安定的な資金確保を実現する鍵となります。
撤退・ピボット判断基準の未設定
新規事業においては、事業の継続か撤退、あるいは方向転換(ピボット)を判断するための明確な基準が必要です。未設定のままだと曖昧な判断や感情的な決断に陥りやすく、貴重なリソースが無駄になるリスクが高まります。
具体的には、売上目標の未達、顧客の反応、市場の成長性、競合状況などの定量、定性指標をあらかじめ設定し、定期的に評価・見直しを行うことが重要です。これにより、迅速かつ合理的な意思決定が可能となり、事業の軌道修正や撤退をタイムリーに判断できます。
新規事業の課題を抽出する3つの視点
新規事業の課題を正確に捉えるために、異なる角度から事業環境を洗い出してみましょう。以下の3つの視点を持つことで見落としや思い込みを排除し、実効性の高い戦略立案が可能になります。
- 顧客インサイト分析
- 社内リソース・組織体制の棚卸し
- マクロ・競合環境の整理
顧客インサイト分析
新規事業成功の鍵は、顧客の本質的なニーズを正しく捉えることにあります。顧客インサイト分析とは、表面的な要求や意見だけでなく、行動パターン、価値観、潜在的な問題点までを深掘りする手法です。
この分析により顧客の真の課題や欲求を明確にし、他社にはない独自のソリューション開発が可能になります。
市場調査やインタビュー、データ分析を組み合わせて、顧客視点に立った事業アイデアの精度を高めましょう。
社内リソース・組織体制の棚卸し
新規事業を進める上で、社内リソースや組織体制を正しく把握することが必要です。人的資源、技術力、予算、設備などの現状を詳細に整理し、強みと課題を明確にするために組織体制の棚卸しを行いましょう。
足りないリソースを早期に特定し、必要な補強策や外部パートナーの活用計画を立てることに繋がります。
さらに、組織の連携体制に関する問題が浮き彫りになることもあり、効率的な推進体制を構築する土台作りにもなります。
マクロ・競合環境の整理
新規事業を成功させるには、マクロ環境と競合環境の正確な把握が欠かせません。
マクロ環境とは、経済動向・法規制・社会トレンドなど、事業に影響を与える外部要因を指します。一方、競合環境は同業他社の動きや市場シェア、差別化ポイントなど外部環境全体のことです。
これらを整理することで、市場の機会や脅威を把握し、戦略立案やリスク管理に活かせます。定期的な環境分析を欠かさず行うことで、臨機応変に柔軟な対応が可能になります。
新規事業の課題解決に役立つ8つのフレームワーク

課題を体系的に整理・分析し、打ち手を導くための思考の道具として、以下の8つのフレームワークが有効です。
- PEST分析
- SWOT分析
- 4C分析
- ペルソナ・ジョブ理論
- バリュープロポジションキャンバス
- ビジネスモデルキャンバス
- ポジショニングマップ
- VRIO分析
これらのフレームワークを事業のフェーズや特性に応じて使い分けることで、意思決定の精度を高め、成功確率を上げることが可能です。
以下の記事では、新規事業開発時におすすめのフレームワーク一覧を紹介しています。ぜひあわせてご覧ください。
PEST分析
PEST分析は、Political(政治)・Economic(経済)・Social(社会)・Technological(技術)の4つの外部環境要因を体系的に分析するフレームワークです。マクロ環境の変化を把握し、市場の機会や脅威を見極める際に役立ちます。
新規事業の立ち上げや市場参入時に、外部環境が現在または将来、自社に与える影響を把握し、リスク管理や戦略策定の基礎として活用するのがおすすめです。
環境変化に柔軟に対応するための重要な視点を確認できるため、定期的にモニタリングしましょう。
SWOT分析

SWOT分析は、自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を整理し、内部外部の視点を統合して戦略を立てるフレームワークです。
自社の強みを活かし、弱みを補う戦略を検討するとともに、逃せないチャンスを捉え、想定されるリスクに備えることが可能です。
新規事業の事業計画策定や、既存事業の見直しの際に活用しましょう。
4C分析

4C分析は、Customer(顧客)、Cost(費用)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)の4つの視点から市場や顧客を分析するフレームワークです。
現代は、顧客自らが商品やサービスに関する情報をリサーチする時代であるため、企業視点のみで分析をおこなっても、顧客に刺さる商品やサービスを生み出すことは困難です。
そこで4C分析により、顧客目線で商品やサービスの価値を見直し、価格設定や販促方法の最適化を図りましょう。
マーケティング戦略や顧客満足度向上のために役立ち、市場ニーズに合致した施策立案に欠かせない分析手法です。
ペルソナ・ジョブ理論
ペルソナはターゲット顧客の具体的な人物像を設定する手法です。一方、ジョブ理論は顧客がどのようなジョブ(用事や仕事)を片付けたくて、どのような商品やサービスを取り入れるのかに注目する理論です。
「顧客が達成したい仕事」の有名な例は以下のようなものがあります。
あるファストフード店で、ミルクシェイクを朝に購入する顧客を観察したところ、「車通勤途中の空腹や退屈をまぎらわすため」に購入していることが判明した。他の食べ物は車の中で食べにくい、手が汚れるといった要因があるため、顧客にとってミルクシェイクは最適なドリンクなのであると分析した。その結果、飲み口を細くし、商品の量を増やすことで、売り上げを大きく伸ばすことに成功した。 |
以上のように、ペルソナ・ジョブ理論は顧客の行動やニーズの本質を深掘りし、真に求められる価値提供を目指す際に役立ちます。
新規事業や商品開発において、顧客の課題解決に直結したサービス設計をおこなうために活用しましょう。
バリュープロポジションキャンバス
バリュープロポジションキャンバスは、顧客のニーズと自社の商品やサービスをマッチングさせるためのフレームワークです。
一枚の紙に顧客への提供価値と顧客の2つを描き、両者の関係性を可視化させることにより顧客にとって魅力的な価値提案を設計し、製品やサービスの方向性を明確にします。
プロダクトのマーケットフィット(PMF)の検証や、新商品企画の際に有効です。
ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスは、以下の9つの要素を一枚の図に整理するフレームワークです。
- 顧客セグメント
- 価値提案
- チャネル
- 顧客関係
- 収益の流れ
- 主要リソース
- 主要活動
- パートナー
- コスト構造
これらを俯瞰的に捉えることで、戦略の検討や資源配分の最適化に役立ちます。
新規事業の全体像を把握し、効率的に事業計画を立てたいときに非常に有効です。
ポジショニングマップ

ポジショニングマップは、市場における競合と自社の位置づけを視覚化するツールです。
主に「価格 × 品質」や「機能 × デザイン」などの複数の評価軸で比較し、自社の強みや差別化ポイントを明確にします。
競争環境を理解しやすくなるので、新製品の市場投入戦略を策定する際に役立ちます。また、顧客の認知や選択行動に影響を与える要素の分析に適しています。
VRIO分析

VRIO分析は、持続的な競争優位を築ける資源や能力を見極めるためのフレームワークです。自社の経営資源をValue(価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣困難性)、Organization(組織活用力)の4つの視点で評価します。
新規事業における強みを把握し、競争戦略を練る上で不可欠な分析手法です。
新規事業のフェーズ別・課題解決施策の実践例
新規事業の成功には、各フェーズで直面する課題を的確に把握し、タイミングに応じた打ち手を講じることが重要です。
以下では、各段階での典型的な課題に対して、どのような施策を講じるべきかを実践的な視点から解説します。
- アイデア創出段階の施策
- 事業計画段階の施策
- 開発段階の施策
- グロース段階の施策
現場で活かせる具体例を参考に、課題解決のヒントとしてご活用ください。
アイデア創出段階の施策
新規事業のアイデア創出フェーズでは、以下のような柔軟な発想が重要です。
- 自社の既存事業を気にせずに自由に発想する
- 質より量で、良し悪しを判断せずにとにかくアイデアを出す
- 企業の人間としてではなく、男性・女性・子ども・高齢者などさまざまな目線に立つ
- 既存のアイデア・製品・サービスなどを組み合わせる
このように視野を広げ自由な発想を促すことで、ユニークで価値あるビジネスの種が見つけやすくなります。
事業計画段階の施策
事業計画フェーズでは、「本当に市場で通用するか?」を見極めるための仮説検証が鍵となります。
まず、ターゲット市場の規模や顧客ニーズをリサーチし、机上の空論に陥らないよう注意が必要です。ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークを活用して、提供価値・収益構造・チャネルなどを明文化し、関係者との認識をすり合わせていきましょう。
またアイデアに固執せず、検証結果に応じて柔軟に方向修正できる体制づくりも重要です。あわせて、計画段階から必要リソースや初期コストを試算し、社内外からのサポート体制や予算の確保にも取り組むことで、実行可能な事業計画が形になります。
開発段階の施策
開発段階は、新規事業のアイデアを具体的なプロダクトやサービスとして形にするフェーズです。この段階では、以下のような施策が重要です。
- MVP(Minimum Viable Product)を明確に定義
必要最低限の機能に絞って「試作品」を開発することで、スコープの肥大化を防ぐ。
- 技術的なリソースやノウハウを事前に整理
必要な人材のスキルセットを把握し、外部委託や採用などで適切な体制を整える。
- ユーザーからのフィードバックを収集
ユーザーからのフィードバックを早期かつ継続的に収集するシステムを構築し、課題や改善点に優先順位をつける。
- 部門間の連携を密に
開発、営業、マーケティングなどの部門間で定期的なミーティングを設け、スムーズな情報共有と意思決定を実現する。
これらの施策により、効率的かつ市場ニーズに合ったプロダクト開発が可能になり、新規事業の成功確率を高めます。
グロース段階の施策
プロダクトやサービスのリリース後、さらに売上やユーザー数を大きく伸ばし、事業を安定・拡大させていくグロース段階では、成長加速のための仕組みづくりや効率化などが重要です。
具体的には以下のような施策を通じて、事業拡大や持続的な成長を目指します。
- マーケティングの強化
効果的なチャネル選定や広告運用・SEO・コンテンツマーケティングなどで顧客獲得を拡大。
- ユーザーエンゲージメント向上
顧客体験の改善やコミュニティ形成、カスタマーサポート強化でリピート率アップ。
- データ分析とKPI管理
ユーザー行動や売上データを細かく分析し、改善点を見つけてPDCAを回す。
- 製品・サービスの改善・拡張
ユーザーフィードバックをもとに機能追加や品質向上を行う。
- 組織体制の整備
事業拡大に伴い、組織やプロセスを見直し、効率的な運営を目指す。
新規事業の課題を解決する外部リソース活用の選択肢
新規事業立ち上げ時に、すべての課題を自社のリソースだけで解決しようとすると、時間や人材、知見の不足が壁になります。特に限られたチームやスキルセットで進めるスタート段階では、外部の専門性や支援を活用することで、スピード感を保ちながら質の高い検討や実行が可能です。
ここでは、新規事業の推進を支える外部リソースの主な選択肢をご紹介します。
アライアンス/オープンイノベーション
アライアンスやオープンイノベーションは、自社単独では得られない技術・ノウハウ・市場チャネルなどを他社と連携して補完し合うアプローチです。
大企業とスタートアップ、異業種間、産学連携など、さまざまな形態があります。
例として、東京都では「ファーストカスタマー・アライアンス(公共調達参入促進・自治体連携事業)」により、グローバルな成長を目指すスタートアップを支援しています。
特に新規事業においてはスピードと柔軟性が求められるため、信頼できる外部パートナーと手を組むことで、新たなアイデアの創出や事業化の実現性を高められます。
参考:ファーストカスタマー・アライアンス(東京都 都庁総合ホームページ)
コンサルティング会社の活用ポイント
外部の視点から客観的に現状分析や市場調査をおこない、効果的な打ち手の提案や計画策定を支援してもらうために、専門的な知見を持つコンサルティング会社を活用する方法も有効です。
活用する際は依頼内容を明確にし、自社内との連携体制をしっかり構築することが重要です。また、コンサルに丸投げせずにノウハウを内製化する姿勢を持つことで、持続的な事業成長につながります。
プロ人材・業務委託の活用ポイント
専門性の高いプロ人材や業務委託を活用することで、自社に不足しているスキルやリソースを補い、新規事業の推進を加速できます。
採用や契約の際には、目的や役割を明確にし、期待する成果を共有することが重要です。
また、外部人材とのコミュニケーションや進捗管理を丁寧におこない、社内メンバーとの連携を強化することで、効果的な協働が可能になります。
新規事業の成功事例と失敗事例
新規事業には大きな可能性がある一方で、多くのリスクもともないます。成功と失敗のわかれ道はどこにあるのかを知るには、実際の事例から学ぶことがもっとも効果的です。
続いては、国内企業による新規事業の成功事例と失敗事例を紹介します。実践的な気づきを得るためのヒントとして活用してください。
国内大企業の成功事例
ダイハツ工業株式会社は自動車メーカーとしての枠を超え、新規事業として介護現場向けの送迎支援システム「らくぴた送迎」を開発し、高い評価を得ています。
このシステムは、通所介護施設の送迎業務をサポートするもので、事前に登録した利用者や車両の情報をもとに最適なルートを自動生成するのが特長です。当日の出欠変動や利用者間の相性といった現場特有の事情にも柔軟に対応でき、施設側の負担軽減や業務効率化に大きく貢献しました。
この新規事業は、モノの販売にとどまらず、サービスとしての新たな価値提供を実現した好例といえるでしょう。
スタートアップの成功事例
BASEは、「誰でも簡単にネットショップが作成できる」ことをコンセプトにしたECプラットフォームです。
従来のECプラットフォームは、ある程度の事業規模やITスキルが求められ、個人やスモールビジネスにとってはハードルが高いものでした。しかしBASEはスモールオーナー層に着目し、「誰でも」「簡単に」「無料で」ネットショップを始められる仕組みを提供しています。
初期費用・月額無料という手軽さと、専門知識がなくても使えるシンプルなUIにより、個人や中小事業者を中心に急速に支持を集めました。
大手には拾いきれない、多様で細かなニーズに応えた点が成功要因といえるでしょう。
社会課題型プロジェクトの事例
WOTA株式会社は、水インフラが不十分な地域や災害時にも使える「小規模・自律分散型の水再生装置」を開発しました。
独自技術により排水の98%以上を再生できるため、水道のない場所でも手洗いやシャワーを可能にし、被災地や海外の水不足地域で実用化が進んでいます。
成功要因は、「災害」「環境」「インフラ」という複合的な社会課題に対し、技術と実証を重ねてソリューション化した点にあります。
失敗事例と原因分析
たとえ大手企業であっても、新規事業においては失敗のリスクを避けることはできません。以下に代表的な事例とその失敗要因を紹介します。
- セブン&アイ・ホールディングス
2019年にリリースしたスマホ決済アプリ「7Pay」は、不正アクセスによる被害が相次ぎ、わずか3カ月後の同年9月にサービスを終了しました。決済アプリに必須となるセキュリティ対策が不十分なまま公開されたことが原因です。専門人材の不足が、重大な脆弱性を見逃す結果となりました。
- AOKI
2017年にクラウドファンディングでテスト開始し、2018年4月に正式サービスを開始したスーツのサブスクリプションサービス「suitsbox」は、約半年で事業撤退となりました。
想定ターゲット(20-30代)と実際の利用者(40代中心)のギャップ、システム構築費・運用コストの増大による収益化の困難、既存事業との相乗効果の不足などが複合的な原因となりました。
まとめ:新規事業の課題と向き合うための重要ポイント
新規事業には多くの壁がありますが、それらは適切な視点とフレームワーク、外部リソースの活用によって乗り越えることが可能です。フェーズごとの課題を認識し、柔軟に戦略を修正しながら、学習と実行を繰り返すことが成功への近道です。
失敗をおそれず、仮説検証と顧客視点を大切にした挑戦を続けましょう。
新規事業の課題解決に外部連携を活用する企業が増えています
本メディアではアジア最大級のオープンイノベーションマッチングイベント「ILS(イノベーションリーダーズサミット)レポート」を無料配布しています。
大手企業とスタートアップが3,000件以上の商談を重ね、協業案件率30%超のイベントです。新規事業の各フェーズで直面する課題を、外部連携で解決する具体的な方法や成功事例を豊富に扱っているので、ぜひ貴社の新規事業推進にご活用ください。