スタートアップに選ばれる大企業とは?「イノベーティブ大企業ランキング2026」から読み解くオープンイノベーション成功の条件

ILSイベントレポート

大企業とスタートアップの協業は、近年ますます活発になっています。CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の設立をはじめ、新規事業部門による事業提携や、PoC(概念実証)を通じた技術検証など、オープンイノベーションの取り組みはさまざまな形で広がりを見せています。

一方で、どの企業が本当にオープンイノベーションに積極的なのか、また、協業しやすい企業にはどのような共通点があるのかを、スタートアップが客観的に知る機会は決して多くありません。

ILS(Innovation Leaders Summit)では、有望スタートアップによる評価をもとに、オープンイノベーションに積極的な大企業を紹介する「イノベーティブ大企業ランキング」を発表しています。
ILSのマッチングプログラム等に参加した有望スタートアップ618社へのアンケートをもとに、実際に協業しやすいと評価された大企業をランキング化したこの企画は、2026年で第9回を迎えた。

本記事では、ランキング発表セッションで語られた内容をもとに、スタートアップから選ばれる企業に共通する特徴や、オープンイノベーションを推進する上で重要な考え方を紹介します。新規事業やオープンイノベーションを担当する方はもちろん、CVCやR&D部門、技術提携を推進する方にも参考となる内容です。

本記事のポイント

  • ランキング上位企業では、「トップ主導」から「現場主導」への体制づくりが進んでいる傾向が見られる
  • スタートアップに選ばれる企業ほど、現場レベルでの意思決定スピードが速い
  • 「調達」ではなく「共創」への発想転換が、製造業を中心とした協業の壁を越える鍵になる
  • 大企業のアセット(販路・人材・運用基盤)がスタートアップの成長を加速させる「ブースト」の発想が主流に
左から:ILS代表・松谷卓也NTTデータ・佐藤氏KDDI・舘林氏

イノベーティブ大企業ランキング2026とは

「イノベーティブ大企業ランキング」は、過去5回(第9回~第13回)のILSにおいて、国内外の主要VCなど約100機関で構成されるILSアドバイザリーボードの推薦を受け、ILSの大企業・スタートアップ協業マッチングプログラム「パワーマッチング」に参加した国内有望スタートアップを対象に実施したアンケートをもとに作成しています。2026年は、618社からの回答をもとにランキングを作成。

単なる知名度調査ではなく、「実際に協業しやすいか」「オープンでフェアな付き合いができているか」といった、スタートアップ経営者による実体験や評価が反映されている点が特徴です。

もともと「イノベーティブ大企業ランキング」は、オープンイノベーションに取り組む担当者の活動を可視化し、正当に評価される機会をつくることを目的に始まりました。新規事業やオープンイノベーションの成果は短期間では表れにくく、社内で評価されづらいケースも少なくありません。そこで、スタートアップによる客観的な評価を通じて、協業に積極的な企業や担当者にスポットライトを当てる仕組みとして創設しました。

また、スタートアップにとっても「どの大企業にアプローチすべきか分からない」という課題を解決する指標として活用されています。

総合トップ30に加え、情報・通信、運輸・物流、銀行・不動産など17業界別のランキングも発表し、業界ごとの協業のしやすさを比較できる構成にしています。

「イノベーティブ大企業ランキング2026」総合TOP30ランキング(太字は前回よりランクアップ)

KDDIが9年連続1位となった理由

2026年の総合ランキングでは、KDDIが9年連続で首位を獲得した。
ただし、得票率そのものはやや低下しており、2位以下の企業が着実に差を詰めている。この現象について、KDDIで協業活動を牽引する舘林氏は次のように語る。

「票が分散したということは、日本全体のオープンイノベーションのレベルが上がっている証拠だと思っています。特定の1社が突出しているより、多くの大企業がイノベーティブに動いて票が割れている状態の方が、エコシステム全体としては健全で好ましいことです。」

舘林 俊平氏│KDDI株式会社 オープンイノベーション推進本部 副本部長

この発言は、ランキング競争そのものではなく、日本全体のオープンイノベーション・エコシステムの成熟を示すものとして印象的だった。実際、大日本印刷(DNP)は15位→12位→10位、花王は26位→17位→14位と、いずれも3年連続で順位を上げてトップ10入りを果たしている。ダイキン工業、三菱ケミカル、電通、ロート製薬、アステラス製薬なども3年連続のランクアップを記録し、みずほフィナンシャルグループ、村田製作所、三菱電機、三菱重工業といったメーカー・金融系企業の「ジャンプアップ」も目立った。

2ランクアップしたNTTデータの取組について、佐藤氏は次のように振り返る。

「正直に申し上げると、『継続の力』という感じです。我々の活動も今年で13年目を迎えます。派手なイベントスポンサーなどに頼るのではなく、出会ったスタートアップの方々と着実に、愚直にビジネスを作り上げる。その積み重ねが、この順位に繋がっているのだとしたら非常にありがたいことです。」

佐藤 昌弘氏│株式会社NTTデータ 「豊洲の港から」船長

華々しい施策よりも、地道な協業実績の積み重ねこそが評価される。これは、オープンイノベーションに取り組むすべての企業にとって重要な示唆と言えるだろう。

ランキング上位企業はどのような点が評価されているのか

ランキング発表では、スタートアップへのアンケート結果をもとに、ランキング上位企業とそれ以外の企業で評価にどのような違いがあるのかについても紹介された。

アンケートでは、スタートアップに対し「その企業のオープンイノベーション活動について、印象として当てはまる項目」を複数回答で選択してもらっている。その結果、ランキング上位企業では特に次のような項目で高い評価を得ていた。

  • 成長へ向けた投資資金を確保している
  • オープンでフェアな付き合いができる

一方で興味深い結果となったのが、「役員クラスが進んでネットワークを構築している」「経営トップがリーダーシップを発揮している」といった項目では、ランキング上位企業よりも、それ以外の企業の方が評価割合が高かったことだ。

この結果について、KDDIの舘林氏は次のように分析する。

「活動がルール化され、実例が積み上がってくると、現場への権限委譲が進みます。トップは旗を振る役割ですが、それ以外は現場に任されるようになっているという読み解き方の方が正しいのではないでしょうか。」

トップは「フラッグ(旗印)」を掲げる役割に徹し、実際のプロジェクトや意思決定は現場に委ねる。実際にKDDIでは、案件のサイズや費用感にもよるが、投資判断の多くが事業部門レベルで完結し、社長の承認を都度仰ぐフローにはなっていないという。この現場主導の体制が、スタートアップとの連携スピードを引き上げている。

NTTデータでは、事業部とスタートアップをつなぐ「バーティカル(産業別)」なマッチングは事業部長クラスの判断で進む一方、セキュリティやプラットフォームなど横断的な技術領域は経営トップに近い層で判断するなど、案件の性質に応じて意思決定の階層を使い分けている。

いずれの企業にも共通するのは、「現場のニーズに基づいた意思決定」を軸にしている点だ。

「調達」から「共創」への発想転換

ディスカッションでは、「スタートアップとオープンでフェアな付き合いができる」という評価項目をきっかけに、大企業とスタートアップの向き合い方についても議論が交わされた。

ILS代表・松谷さんは、製造業ではオープンイノベーションの主管部門と事業部・研究開発部門が連携して協業を進めるケースが多い一方、現場では従来の調達先と同じ目線でスタートアップと接してしまうことが少なくないと指摘した。スペックを求めたり、「もう少し実績ができてから持ってきてほしい」といったやり取りになり、協業が前に進まないケースもあることを伝えた。

これに対し、舘林氏は、その背景にはサプライチェーン上で担う役割の違いがあると説明する。

「部品メーカーや原材料メーカーは、既存の取引先と同じような形でスタートアップと向き合うことが多くなります。一方、私たちはパーツを調達するというより、『一緒にサービスを作る』という観点でお付き合いすることが多い会社なのだと思います。」

さらに、KDDIでは通信というコア領域は自社R&Dや長年のパートナー企業との連携を中心に進める一方、金融やエネルギーなど通信以外の新規事業領域では、自社だけで完結させるのではなく、スタートアップをはじめとするパートナーと共に事業を創ることを前提としているという。領域によって自社開発と共創を使い分ける考え方は、多くの企業にとって示唆に富むものだった。

大企業はスタートアップを”ブースト”する時代へ

議論はさらに、「大企業はスタートアップの技術を取り込むのか、それともスタートアップの事業を支援するのか」というテーマへと広がった。

舘林氏によれば、KDDIでは後者のケースが多いという。

「マーケットへの解像度は、その領域に取り組んでいるスタートアップの方が高いと思っています。相手の事業を、私たちが入ることでどうブーストできるか、どう広げられるかという目線で見ることの方が多いですね。」

具体的な支援としては、一般消費者向けサービスではKDDIの顧客基盤を活用した送客支援、法人向けでは営業ネットワークの提供などが挙げられる。また、AIサービスのようにプロダクトだけでは提供しきれない部分については、KDDIが運用やサポートを担い、サービス全体として市場へ届けるケースも増えているという。

松谷さんも、「近年は製造業でも、技術を取り込むだけでなく、自社のアセットを提供してスタートアップと市場を開拓する動きが増えている」と指摘する。これに対し舘林氏は、スタートアップは市場の最前線で顧客と向き合いながらプロダクトを磨いているからこそ、市場への解像度が高いとし、そのプロダクトを大企業が支える形の方が、スピード感も事業の解像度も高まるとの考えを示した。

人的支援も、その”ブースト”の一つだ。KDDIでは、社員が業務時間の一部をスタートアップ支援に充てられる「20%兼務」の取り組みを進めており、法務や知財、経理など、スタートアップが専任人材を確保しにくい領域を大企業の知見で補完している。

こうした取り組みはスタートアップだけでなく、大企業側にも効果をもたらす。スタートアップでの経験を積んだ社員は、スピード感や幅広い視点を身につけて社内へ戻り、その経験が組織全体の変革にもつながっているという。

2026年ランキングから見えた日本企業の変化

業界別ランキングにも、日本企業の変化を象徴する動きが見られた。情報・通信業界ではKDDIが6年連続の首位を守るものの、ソフトバンクが猛追し差を詰めている。運輸・物流業界ではJR東日本が6年連続で首位を維持し、2位の東急との差はむしろ前年の1.3ポイントから1.9ポイントへと拡大した。高輪の街づくりプロジェクトなど、リアルなアセットを起点に実証から社会実装までを速いサイクルで回す姿勢が、スタートアップからの評価につながっているとみられる。

銀行・不動産業界では、5年連続で首位だった三井不動産を抑え、三菱地所が初めて首位に立った。ファンド活動を含め長年業界をリードしてきた三井不動産を、三菱地所が上回ったことは、業界内での協業姿勢の変化を象徴する出来事と言える。

こうした業界別の順位変動からは、オープンイノベーションが一部の先進企業だけの取り組みにとどまらず、業界横断でそうした方向へ進みつつある様子がうかがえる。

まとめ

今回のランキングから見えてきたポイントは、次の5つに整理できる。

  • 上位企業では現場主導の体制づくりが進んでいることが示唆された
  • スタートアップに選ばれる企業は現場での意思決定が速い
  • 共創には「調達」の発想から脱却する必要がある
  • 大企業のアセットがスタートアップの成長を加速させている
  • 人的交流が企業文化の変革にもつながっている

スタートアップと同じ目線でマーケットに向き合えるか。社会実装のスピードを左右するのは、まさにこの姿勢の転換だ。9連覇のKDDI、そして猛追する各社の取り組みから、学べることは多い。

「スタートアップをどう活用するか」ではなく、「大企業が自社のアセットを開放し、スタートアップの成長を加速できるか」という視点が印象的だった。

オープンイノベーションは、技術を取り込む活動から、共に事業を育てる活動へと移りつつある。ランキング上位企業の取り組みは、その変化を象徴する事例と言えるだろう。


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「イノベーティブ大企業ランキング2026」 調査概要

調査対象
過去5回にわたり開催されたILS(第9回-第13回)において、国内外の主力VC(ベンチャーキャピタル)等、約100機関で構成されるILSアドバイザリーボードの推薦を受けて、ILSのメインイベントである大企業とスタートアップの新事業協業マッチングプログラム「パワーマッチング」に参加した国内有望スタートアップ全1,371社の経営者

調査方法
インターネット調査(ILS専用サイト上の入力フォームによる回収) 

調査期間
2026年5月20日~2026年6月5日

有効回答
618社(回答率45%)

調査主体
イノベーションリーダーズサミット運営事務局

設問項目
企業名の自由連想と、連想された企業に対する個別評価

Q1.あなたがオープンイノベーション活動に積極的であると感じる大企業名(国内に本社を置く)を挙げてください。(3社以上5社迄)
Q2.当該企業のオープンイノベーション活動に関して、あなたの印象としてもっとも近いものを3つ選択してください。
[戦略・ビジョン] 経営トップがリーダーシップを発揮している
[戦略・ビジョン] 協業戦略や開発ニーズが明確
[戦略・ビジョン] 新しい価値や市場を常に創造している
[戦略・ビジョン] 新領域にチャレンジしている
[戦略・ビジョン] 成長へ向けた投資資金を確保している
[戦略・ビジョン] 技術やブランドをうまく活用している
[組織・運営]現場に権限がある
[組織・運営]役員クラスが進んでネットワークを構築している
[組織・運営]意思決定や行動が素早い
[組織・運営]スタートアップに積極的にアプローチしている
[組織・運営]仕組みやプロセスが洗練されている
[人材・風土]協業の実績が豊富
[人材・風土]現場の熱量やモチベーションが高い
[人材・風土]協業の重要さが組織全体に浸透している
[人材・風土]オープンでフェアな付き合いができる
[人材・風土]イノベーティブな技術や製品に高い関心を持つ
[人材・風土]オープンイノベーションの専門人材を登用している

著者
柴木仁美

株式会社プロジェクトニッポン
ILS(イノベーション・リーダーズ・サミット)ディレクター

オープンイノベーション領域における企画・設計・運営に従事。国内最大級のオープンイノベーションイベント「ILS(イノベーション・リーダーズ・サミット)」においてディレクターを務め、プログラム全体の企画・構築および運営統括を担っている。

大企業とスタートアップの協業を促進するための仕組み設計や、マッチング機会の創出に関わる各種プログラムの企画・推進に携わる。多様なステークホルダーが参画する場の設計を通じて、実効性の高いオープンイノベーションの機会創出に貢献している。

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